『夢中さ、きみに。』『女の園の星』和山やまの作家性とは? ”間”から生まれるスローテンポな笑い
デビュー作の『夢中さ、きみに。』にも、そのこだわりは感じられる。「うしろの二階堂」のからはじまる二階堂シリーズでは、不気味なオーラをまとう男子高校生・二階堂明の前の席になってしまった目高優一との交流が描かれているが、そこにもユーモアは散りばめられている。「伊藤潤二の漫画に出てたよね?」という目高のセリフや、二階堂が入学式でブレザーをズボンにいれる場面など、クスッと笑いながらもキャラクターへ愛着が湧く工夫に、和山氏のキャラクターへの愛情を感じられるのだ。
また、『女の園の星』の星先生の使用しているマグカップがクマのイラストだったり、小林先生の着ているポロシャツにエイリアンのマークがついていたりと、細部にキャラクターの個性を表現しているのも特徴だ。キャラクターのこだわりが細部に垣間見えることで、一人ひとりの個性がより際立つ。
そうやって、読者との距離を近づけるからこそ、キャラクターの持つ“間”や、表情の変化を楽しめるのが和山氏の作品の特徴だ。息遣いが聞こえてくる、と喩えたらいいのだろうか。『女の園の星』第1巻の3時間目(第3話)では、漫画家を目指す生徒の作品を、星先生と小林先生が読むシーンがあるが、セリフがないシーンであっても何を考えているかが感じられる。表情が大きく変わるわけではないが、ちょっとした心境の変化を手に取るようにわかってしまうのは、読者との信頼関係を築く工夫をしているからなのだと思う。
『女の園の星』で描くのは、女子高を舞台に繰り広げられる日常だ。第2巻以降では、第1巻で描ききれなかった交流関係やキャラクターの魅力を知ることができると思うと、今から発売日が待ち遠しい。
■高城つかさ
1998年、神奈川県出身。【言葉と人生】をキーワードに主にエンタメ、暮らしを切り口に人生について考えている。好きな場所は劇場と本屋。
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