“NINJA”の逆輸入? 『NARUTO』が海外で人気を博した理由とは

なぜ『NARUTO』は海外で人気を博したのか

 2000年代の『週刊少年ジャンプ』を代表する漫画の一つ『NARUTO -ナルト-(以下NARUTO)』は海外、とりわけ北米市場で大きな人気を持った作品だ。クールジャパンという言葉が生まれたゼロ年代、海外市場における日本漫画の躍進を支えたビッグタイトルであり、その人気はライバル漫画だった『ONE PIECE』を凌いでいた。

 『NARUTO』の海外市場での人気の理由としてよく言及されるのは、海外における「忍者」人気である。今や、忍者は「NINJA」という英単語になっているが、この言葉の受容と広がりに『NARUTO』はどのように関わっただろうか。

 『NARUTO』について考えることは、日本文化が世界でどのように受容されているのかを考えることにもつながるのではないか。「忍者」と「NINJA」、そして『NARUTO』の忍者感について考えてみることで、世界から見た日本文化の特徴とは何なのかを考えてみたい。

北米社会におけるNINJAの概念 

 忍者という概念が北米社会に浸透していったのは、1980年代からだと考えられている。

 1981年に全米で公開された映画『燃えよニンジャ』が全米でヒットし、忍者ブームに火を付けた。敵の忍者ハセガワを演じたショー・コスギは、この映画の中で滝つぼに落下するシーンを演じ切り、高く評価される。その後、ショー・コスギ主演の忍者映画がアメリカで続々作られるようになる。

 さらに、『燃えよニンジャ』とほぼ同じ時期に出版された小説『The Ninja』もベストセラーとなり、さらに忍者の人気に拍車をかけた。

 そして、その人気は、1984に出版されたアメコミ『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』が登場したことで、アメリカの子どもたちにも浸透してゆく。本作は、アニメーション化、実写映画化も果たし、世界的なキャラクターへと成長していき、この辺りから忍者は日本のものから徐々に「NINJA」として、独自の文化として世界に浸透し始める。

 筆者は、2004年から2010年までアメリカで生活していたが、全く日本の漫画も映画も見たことのないアメリカ人女性が、しょっちゅう「NINJA」という単語を使っていることに驚いた。彼女は『NARUTO』については全く知らなかったが、「NINJA」という単語はほとんど口癖のように使っていた。いわゆる「OTAKU」カルチャー好きな人の間だけで流通している単語ではないのだ。

 しかし、彼女が何を「NINJA」と呼んでいたかというと、これが本当に多岐にわたっており、とりあえず映画などで超人的な動きを見た時、「NINJA、NINJA!」と連呼していた。『マトリックス』を見てもNINJA、ジャッキー・チェンやジェット・リーを見てもNINJA、パルクールやスケボーの華麗なテクニックを見てもNINJAと言っていた。とにかくすごい動きは全てNINJAだった。

 筆者がアメリカ生活をしていたころには、NINJAという単語は日本語のオリジナルと遠く離れた別の言葉となっていた。一応、「忍者は本来、日本の侍の時代のスパイみたいなものだよ」と説明を試みたことはあるが、怪訝な顔をされてしまった。どうもNINJAという単語がそもそも日本由来だということも知らなかったようだ。そんな風に「NINJA」という単語は完全に日常用語と化しており、日本の「忍者」とはかけ離れた意味で使われている。

 『NARUTO』の連載開始は1999年。すでにその時アメリカにおける「NINJA」の概念は、本来の意味とは全く違った形でものすごく浸透していたのだ。

『NARUTO』は忍者というよりNINJA?

 そんな「NINJA」という概念を知った上で『NARUTO』を読んでみると、これは漢字で書く「忍者」よりも「NINJA」に近いものを描いていたのではないかと思える。

 『NARUTO』の世界の忍者は、現実世界でかつて存在した、間諜の専門家というよりも軍隊のような軍事力という側面がある。そして、彼らの能力は押しなべて派手で、みなすごい動きを習得しており、闇の世界に生きる存在としては描かれていない。服装も、洋装と和装を組み合わせたような意匠だし、主人公のナルトは金髪で碧眼である(漫画のキャラクターの髪と目の色は国籍や人種の表象ではないが)。

 作者の岸本斉史氏もインタビューで「忍者なのに、陰に潜むという感じじゃなくって明るくて、金髪だし派手なオレンジ色の服を着ている。“こんなの忍者じゃないじゃん!”とか、“ナルトって名前、ラーメンの具じゃん!”とみんなにツッコまれました」と語っている(https://ddnavi.com/news/233912/a/)。

 そうした国内の突っ込みは、漫画の完成度と面白さでねじ伏せていったわけだが、元々本作が「NINJA」漫画であると考えれば、海外ではむしろ引っかかることなくすんなり読めたのではないか。

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