綾辻行人が語る、シリーズ最新作『Another 2001』「ディテールを積み重ねていくうちに、ラストシーンが変化する」

綾辻行人が語る『Another 2001』

意識と無意識が溶けあって熟成されていく世界観

――もちろん、シンプルに「おもしろかった……!」というのがいちばんの感想ではあります(笑)。細部に胸を打たれつつも「どうなるのーーー」という好奇心に抗えずノンストップで読んでしまいましたから。といいながら重ねて細部の話をさせていただくと……。鳴の母親は球体関節人形をつくる人形作家。鳴も、ドールのイメージで書かれているんですよね。

綾辻:そうですね。90年代の半ばに、天野可淡さんという人形作家の写真集を見て衝撃を受けたのが、球体関節人形との出会いでした。残念ながら、そのときにはもう、可淡さんは若くして亡くなっていたんですが……。『Another』を書くことになったとき、今はもう閉館してしまいましたが、渋谷の公園通り沿いにあった「マリアの心臓」という人形ギャラリーによく足を運んでいたんです。そこで、何時間も人形たちと向き合っていたりして。この空間の独特の雰囲気を作中で使いたいな、と考えるうち、見崎鳴というキャラクターのイメージが膨らんでいったんだと思います。

――1作目でも今作でも、鳴が言いますよね。「人形はね、“虚ろ”だから。創った者の想いも見る者の想いもぜんぶ吸い込んで、取り込んでしまって、それでもなお虚ろ、なの……」と。彼女のセリフに触れて、憎しみも悪意もないまま、意味があるようでないまま起きていく〈現象〉もまた虚ろだよな、と思ってしまって。人形というモチーフによって「Another」の世界観がさらに熟成されているような気がしたんですが、それは意識的な仕掛けだったんですか。

綾辻:いえ、そこまでは意識していなかった気がします。言われてみると、たしかに〈現象〉も虚ろ、ですね。書いているうちにたぶん、僕の美意識と作品の世界観がうまく折り重なったんでしょう。ディテールに関しては、書き進めるに従ってだんだん集まってくるという面があります。意識と無意識が融合して物語を形作る、というふうにも言えるかもしれません。

――そうだったんですね……。最初から意図されていたのかと。ちなみに、作中に「シシリエンヌ」という曲のタイトルが登場しますが、「Another」にご自身のなかでのテーマ曲や、必ずかけていたBGMはありますか?

綾辻:いや、僕は基本的に無音の環境で書きます。静かであればあるほど、いい。「シシリエンヌ」はチェロとピアノの楽曲ですが、そういう音楽を流すことはあったかも。

――外部から音がまじると、綾辻さんの内側にあるリズムが乱れてしまうんでしょうか。

綾辻:どうなんでしょう。単純に、好きな音楽がかかっていると手を止めて聴いちゃう、っていう話だと思いますけどね。ALI PROJECTの曲とか、ガンガンかけることもあるんですけれども、執筆中じゃなくてゲラ校正の作業のときとかが多いかな。ああ、でもこの数年は、波や小川、雨の音などの「ホワイトノイズ」を流してくれる装置を愛用しています。非常に切ない話ですが、加齢のせいで近年、耳鳴りが強くなってきて。無音になればなるほど耳鳴りが気になってしまうので、まぎらわすために(笑)。

――じゃあ『Another 2001』を書いているときも、背後には雨や波の音が。

綾辻:そうでしたね。まあ、そんな感じで僕もいい歳になってきたので、「あとがき」に書いた「もう一つの続編」も、大まかなプロットはすでに頭の中にあるんですが、いつ書けるかことか(苦笑)。そこまで辿り着ければいいなとは思っていますが……まあ、これは作品の反響と読者のご要望次第、ということで。まずは『Another 2001』、どうぞお楽しみください。

■書籍情報
『Another 2001』
綾辻行人 著
価格:本体2,400円+税
出版社:KADOKAWA
公式サイト

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