高校野球強豪校の“リアル”を描く『バトルスタディーズ』 根底に流れるアツい野球愛

『バトルスタディーズ』アツい野球愛

 また、本作品のユニークなポイントの1つは、それらの作中の出来事が”ほぼ”事実に基づいていることだ。それもそのはず、作者であるなきぼくろ氏はPL学園の出身で、2003年の第85回全国高等学校野球選手権大会に出場した記録もある。

 現楽天イーグルスコーチの今江敏晃氏はなきぼくろ氏のPL入学時に3年生で4番を打っていた。単行本には収録された今江氏との対談が収録されているが、その中でなきぼくろ氏はしばらくは一切喋らず、”はい”しか言わない。もちろんこれはあくまでギャグではあるが、このような点にも作中の鉄の掟が現実にあったことを感じさせる。

 今江氏との対談の中で、なきぼくろ氏が語る印象的な一説がある。それは『僕はPLがホント大好きなんですよ。なんとかもう1回復活してもらいたいんです。「PLの野球ってカッコイイ」って思ってもらいたいんです!』という点。本作品の一番の魅力は、このような作者の野球愛、PL愛なのだ。この大きな愛はセリフの1つ1つに、躍動する選手達の一挙手一投足に現れている。

 作中のDL学園には不祥事を原因とした甲子園出場辞退および活動停止などの試練が訪れる。また、圧倒的な存在感のライバルによって行く手が阻まれる。そのような場面に出会うたびに、我々読者はDL学園を熱い心で応援してしまう。DL学園の内部事情は題材の1つではあるが、実のところはシンプルでアツい野球マンガなのだ。だからこそ、幅広い層の読者が本作品を愛している。

 本作品はPL学園の厳しすぎる内部事情や不祥事を核として描かれているが、決して暴露本的なものではい。理不尽な規則に「なんでやねん」とツッコミ(批評し)、笑えるエンタメ作品に仕上げられている。作者にとってこの描き方は、PL学園野球部の復活を願うものなのだろう。

 コロナ禍で高校野球の話題が上がらない今だからこそ、PL野球部をモデルとして熱い野球愛が描かれる名作を手にとってみてはいかがだろうか。

■嵯峨駿介
23歳でBass Shop Geek IN Boxを立ち上げ。楽器関連の他にグルメ、家電など幅広い分野でライターとして活躍中。Twitter:@SAxGA

■書籍情報
『バトルスタディーズ』(モーニング KC)
著者:なきぼくろ
出版社:講談社
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