在日コリアン4世代の激動の人生描く『パチンコ』 不寛容な社会で我々はどう生きるか?

『パチンコ』不寛容な社会への問い

 凄い本を読んだ。ここには、人生の全て、人間の全てが描かれている。そして、マイノリティに対してどこまでも不寛容な社会において、理不尽な差別を受け続ける登場人物たちがそれらにどう対峙しようとしたのか。その逞しく、懸命な生き様と、放たれる真摯な言葉の数々に心打たれずにはいられない。

 『パチンコ』は、ソフトカバー上下巻、700ページ超にも及ぶ超大作だ。韓国系アメリカ人である著者ミン・ジン・リーは、30年近くもの間、構想を重ね、運命に翻弄されながらも、朝鮮半島、釜山沖の影島から始まり大阪、東京、横浜、長野、ニューヨークと居場所を模索しながら生きていく在日コリアン4世代の1910年から1989年に渡る激動の生き様を描いた。

 2017年に発表されたこの本は、全米図書賞の最終候補に選出され、バラク・オバマ前大統領が「2019年のフェイバリット・ブックス」として推薦するなど全米ベストセラーとなった。Apple TVでドラマ化も決定している。

 そして今年7月末にようやく日本版が、池田真紀子の翻訳により刊行され、我々の手の元に届いたのである。「パチンコ」という何より日本人にとって馴染みのある名称のタイトルで、物語の大半が日本を舞台に展開される、この異色の外国文学が。

 『パチンコ』には、戦後から現代に至るまで根深く続く、在日コリアンに対する差別問題をはじめ、日本人からすれば居心地の悪くなるような事実も多く描かれている。登場人物たちの「日本」に対して思う言葉の数々に、胸が突かれる思いがすることも多い。

 だが、「日本での取材を含む綿密なリサーチを行い、いったん書きあがった草稿を捨てて一から書き直し」たと著者自身が言及しているように、登場人物たちにとっての「日本人=敵」という「十把一絡げの結論」を出すのではなく、この世にはびこるあらゆる差別に対して、全ての「善良な人」の内にある意識の問題にまで突き詰め、向き合おうとする作品自体の真摯さに、全幅の信頼を置かざるを得ない。

 下宿屋を営む夫婦の元に生まれた生真面目な娘・ソンジャは、日本との貿易を生業とする男、コ・ハンスと恋に落ち、やがて妊娠する。だがハンスには妻子がいた。苦悩するソンジャに手を差し伸べた病弱だが優しい牧師イサクと結婚し、ソンジャはイサクの兄夫婦が住む大阪に渡る。フニとその妻ヤンジン、2人の娘であるこの物語の軸を担う人物・ソンジャ、そしてソンジャの2人の息子であるノアとモーザス、さらにはモーザスの息子ソロモンという一族の物語を中心に、彼らを取り巻く人々の人生の機微をも見事に掬い上げた傑作だ。

 魅力的なのは、登場人物たちの人生を彩る様々な恋愛模様のドラマチックさであり、女性たちの強さである。まるで大河ドラマや朝ドラを見ているかのような気分で、魅力的な登場人物たちで溢れた波乱万丈な物語の中に瞬く間に引きずり込まれ、ページをめくる手が止まらなくなる。

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