『夢をかなえるゾウ4』は「夢」をあきらめる方法を説く 7月期月間ベストセラーを考察

『夢をかなえるゾウ4』夢の諦め方を説く

7月期月間ベストセラー【総合】ランキング(トーハン調べ)
1位 『鬼滅の刃 風の道しるべ』吾峠呼世晴、矢島綾 集英社
2位 『あつまれ どうぶつの森 ザ・コンプリートガイド』KADOKAWA
3位 『一人称単数』村上春樹 文藝春秋
4位 『あつまれ どうぶつの森 完全攻略本+超カタログ』ニンテンドードリーム編集部 編 徳間書店
5位 『鬼滅の刃 しあわせの花』吾峠呼世晴、矢島綾 集英社
6位 『鬼滅の刃 片羽の蝶』吾峠呼世晴、矢島綾 集英社
7位 『夢をかなえるゾウ(4) ガネーシャと死神』水野敬也 文響社
8位 『女帝 小池百合子』石井妙子 文藝春秋
9位 『syunkonカフェごはん(7)』山本ゆり 宝島社
10位 『気がつけば、終着駅』佐藤愛子 中央公論新社

 私事ながら、あと1ヶ月弱で引っ越しをする。残り時間が見えてくると、ふだん何気なく見ていた風景が愛おしく思え、利用していた店に最後にもう一度行っておこうと思ったり、引っ越したらなかなか行けないだろう場所に行っておきたいな、という想いが芽生えてくる。

 デッドラインを意識すると、何を大切にしたいか、何をしておきたいか、何をあきらめるべきなのかが見えてくる。水野敬也『夢をかなえるゾウ4』はそういうことを扱った作品である。

「夢をあきらめる方法」を描く

 妻子ある会社員の主人公はガネーシャと死神から「余命三カ月」を告げられ、妻子にお金を残すために残りの時間をどう使うべきかをガネーシャたちが与える「課題」をこなしながら考えていく――というのが序盤のあらすじだ。

 「夢をかなえる」をテーマにしてきた自己啓発小説シリーズの最新刊である本書は、なんと「夢を手放す=あきらめる=受け入れる」を主題に展開される。思うようにならない今この人生/状況を受け入れ、自らを肯定し、まわりの人たちを認めること。自分や近しい人の死を意識することで、寛容になること。こういったことが説かれていく。

 正確に言うと、前半では迫り来る死期を前に、生きているうちにどんなことをしておくべきかが描かれ、後半では「かなえられない」と思うからこそ人を苦しめる「夢」からどうすれば解放され、今の人生を受け入れられるかが描かれていく。

 コロナ禍によって思い描いていたような日常が崩れ去り、さまざまなことをあきらめたり、手放したりしなければいけない人が多いだろう状況において、手に取ることに意味のある本になっている。

 また、「夢を持ち、それに向けて努力すること」を強いる社会構造が日本人を苦しめているという認識は、今年出た高部大問『ドリームハラスメント』(イースト新書)や池上彰監修『なぜ僕らは働くのか』(学研プラス)とも共通している。

 「夢」を設定すれば、必然的に「現在」は「それを実現していない状態、叶えられていない状態」になる。その「できていない」という認識が人を苦しめる。とくに「死にたくないが病に冒されている」といった個人の意志や行動ではどうにもならない外部環境要因によって阻まれた場合には、「ままならない」というつらさだけが募る。

 しかし新型コロナウイルスによって全世界的に人類が「ままならなさ」に見舞われているいま、夢の手放し方、危機に直面したなかでいかにしてこの人生を受け入れるのかという本書が示す処方箋は、多くの人が求めているものだろう。

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