爆発事故、人体実験、毒ガス兵器……『ONE PIECE』パンクハザード編は現実社会の投影か

『ONE PIECE』パンクハザード編の社会性

 『ONE PIECE』(集英社)ほど、読む前と後で印象が大きく変わる漫画も珍しいのではないかと思う。

 尾田栄一郎が『週刊少年ジャンプ』で1997年から連載している本作は、海賊王を目指す少年・ルフィが仲間たちと共に大冒険を繰り広げるファンタジー漫画だが、おそらく未読の方がイメージする『ONE PIECE』は、明るい少年が冒険する姿を描いた子ども向けの単純なお話」といった感じだろう。

 確かに主人公のルフィ率いる麦わらの海賊団の印象に限って言えば、そのイメージはお大きくズレたものではない。しかし、ルフィたちが直面する“世界”は複雑怪奇で、なかなか一筋縄ではいかないものがある。

 彼らが冒険する島や、その国の政治的状況。世界政府直属の海軍と海賊の対立。海賊も一枚岩ではなく、海賊でありながら略奪の権限を政府から与えられた王下七武海と、四皇と呼ばれる海賊たちを頂点にした勢力分布図があり、その在り方は実に多様だ。

 さらには、人間と異種族の間にある「差別の問題」まで描かれており、物語は二重三重に入り組んでいる。今回紹介するパンクハザード編(66~70巻)も、読む前と読んだ後では印象が大きく変わるエピソードだ。

以下、ネタバレあり。

 「偉大なる航路」後半部となる“新世界”にたどり着いたルフィが、ゾロ、ウソップ、ロビンと共に上陸したパンクハザード島は、赤犬と青雉が海軍元帥の座をかけて戦った影響で、灼熱の炎と極寒の吹雪に覆われていた。

 灼熱の大地から上陸したルフィたちは、巨大なドラゴンと戦うことになる。倒したドラゴンを、おいしくいただく展開は「これぞ、ファンタジー」という楽しさだが、ドラゴンに張り付いていた“しゃべる下半身”と出会ったことで、物語は意外な方向に転がり始める。

 一方、海賊船に残ったナミ、サンジ、チョッパー、フランキー、ブルックは人さらいに催涙ガスで眠らされ、(死体だと思われた)ブルック以外は島の研究所に連れ去られる。そこでナミたちは頭部をパズルのように切り刻まれたワノ国のサムライと出会う。

 彼は捕まった息子・モモの助を探すために島にやってきたが、王家七武海の一人で「死の執刀医」と呼ばれるトラファルガー・ロー(以下、トラ男)の攻撃によって、生きたまま体を切り刻まれてしまったのだ。サムライと共にナミたちは牢屋を脱出するが、そこで巨大な子どもたちと出会う。

 パンクハザード島は、世界政府が兵器や薬物の開発・実験をおこなうための研究所が置かれていた緑豊かな島だったが、科学者のDr.ベガバンクが科学実験を失敗し、3つあった研究所のうち2つが吹き飛んでしまう。爆発によって、高熱と有毒ガスを撒き散したことで、島は生物の住めない世界となり世界政府は研究所を閉鎖。取り残された実験体にされていた囚人たちは、研究所に立てこもり何とか生き延びるが、神経ガスで半身不随となってしまう。やがて、1年後に科学者のシーザー・クラウンが訪れ、囚人たちを救うために半人半獣の体に改造。同時に島の毒ガスを浄化したことで彼はマスターとして崇拝される。

シーザー・クラウンが、ガスガスの実を使用してルフィ、ゾロ、サンジを襲う表紙絵

 子どもたちもまた、研究所の実験によって巨大化した被害者で、治療のためにキャンディー型の薬をシーザーから与えていたのだが、実はキャンディーは依存性の強い覚醒剤で、子どもたちは逃げられないように薬漬けにされていたのだと、やがて明らかになる。

 そして、シーザーこそが、島の爆発事故を起こした張本人であり、今も闇のブローカーに流す兵器を開発するために人体実験を繰り返していたことが判明するのだが、兵器製造のために爆発事故を起こしたパンクハザード島や、シーザーが繰り出す毒ガス兵器・シノクニの描写には、少年誌でここまで描くのか? という禍々しさがある。

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