池上彰×増田ユリヤが語る、感染症と金融危機の歴史 「経済危機や不況は、今後も必ず起きます」
ドイツの文化支援
――ちなみに、文化活動に対する政府の支援については、どのように見ていますか?
増田:文化や芸術に関しては、補助金を出すなり、最低限の支援はすべきだと思います。ドイツのモニカ・グリュッタース文化相が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要」と言っていたように、芸術は人々の生活にとっても、非常に大切なものですから。
池上:モニカ・グリュッタース文化相の発言はすごいと思いました。「民度」という言葉を出した大臣が日本にいましたけど、ドイツの政治家たちは、日ごろから芸術に触れていて、その大切さをよくわかっている。だから、芸術家たちが声を上げる前に、政治家たちのほうから、ちゃんとそういう政策が出てくる。日本の大臣クラスの政治家に、そういうことに理解のある人が、一体どれだけいるんだろう……そんなことを、つい思ってしまいます。
――本書の最後のほうでも触れていましたが、そんな政権が打ち出した「新しい生活様式」に関しては、いかがでしょう?
池上:「新しい生活様式」に関しては、増田さんが、かなり言いたいことがあるようで(笑)。増田:いやいや(笑)。でも、最初にその話を聞いたとき、「えっ、これを未来永劫続けていくつもりなの?」と思って、本当にゾッとしたんです。そんなことまで言われなきゃいけないんだろうか?っていう。もちろん、感染症の話なので、自分たちで判断できない付きかねる部分も大きいとは思うんですけど、誰かとご飯を食べるときは、となりに座って食べましょうとか、食べながら話すのはやめましょうとか。昔、給食の時間に言われたようなことを言われているなって思いました。そして「新しい生活様式」が発表されたとき、報道するほうも、そのまま発表するだけだったじゃないですか。みんな違和感を持たないのかなって、私はすごく思ったんですよね。
――それを、いつまで続ければいいんだろうっていう不安もありますよね。
増田:いつまでとは具体的に言えないような状況だと思うのですが、もうちょっと言い方があると思いました。「これを我慢すれば、きっと元通りになりますから、もうちょっとだけ頑張りましょう」とか。
池上:「新しい生活様式」という名のもとに、個人の生活スタイルにまで政治が介入するのは、いかがなものかということですね。もちろん、全体としての指針は示す必要がありますけれど、だからといって事細かに「こうしましょう」、「壁に向かって食事をしましょう」というのは、余計なお世話でしょう。
――ガイドラインは必要ですけど、それを踏み越えたところがあるというか、個人の生活が浸食されている感じがします。
増田:そう、私は何が新しいのか、さっぱりわからなかったんです。ただ、指図しているだけじゃないかって。
――まだまだ悩ましい時期は続きそうですが、この状況の中、私たちはどんなことを考えながら、日々を過ごしていけば良いのでしょう?
池上:新型コロナウイルスに関しては、いずれ治療薬やワクチンができて、かつてのような日常が戻ってくるとは思うのですが、生活スタイルから働き方まで、かつてとまったく同じものには絶対ならないでしょう。私が敢えて言いたいのは、5年先、10年先のことが前倒しできてしまうということ。たとえば、在宅勤務のようなものは、以前から今後増やしていかなければいけないと言っていたけれど、突然きてしまった。リモート学習とかもそうですよね。いずれ、そういうことができるようになるだろうと想定していた未来が現実になってしまった。その未来をどう生き抜いていくかを今、私たちは考えていかなくてなりません。
――増田さんは、いかがでしょう?
増田:池上さんとは観点が違うかもしれないですが、私は、できるだけ自分の生活スタイルを変えないでいるために、どうしたらいいのかを考えています。実際に、会社や学校に行くとか行かないとか、そういうことはまた別として、たとえば何時に寝て何時に起きるとか、何を食べるとか、今の限られた範囲の中で、これまでの生活のリズムをなるべく変えないように過ごすことを意識しています。状況の変化で、精神的に不安定になる方も、きっと多いじゃないですか。
――依然として、なかなか先は見えないですが……。
池上:まあ、未来を見るというのは、そもそもそういうものですよね。誰も経験してないわけで。だからこそ、私たちは歴史に学ぶわけです。それぞれのときに、どんな対応をして、どんな成功をして、あるいはどんな失敗をしたのかという。それをしっかり身に着けておくと、何か起きたときに、アナロジカルに「これは、こういった対応が可能なんじゃないか」という指針を得ることができると思うんです。経済危機や不況というのは、今回のコロナに限らず、今後も必ず起きますから。だから、歴史を知って、そのときに備えるという。それに尽きると思います。
増田:これは本の中にもちょっと書きましたけど、世の中のものすべてがコントロールできるという考え方を、私たちは変えたほうがいいのかもしれません。自分の力じゃどうにもならないことがある。私たちはそのことを忘れていたんじゃないかなと思うようなところがあって。コントロールできないもの、自分の力ではどうにもならないものがある中で、私たちは生きているんだっていう。それをこの機会にもう一度、ちゃんと自覚しておいたほうがいいんじゃないかなと思います。
――ところでおふたりは、この6月から本書と連動した形で、「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」という動画チャンネルを開設されました。
池上:もう毎日、更新していますよ(笑)。
――この動画チャンネルは、おふたりにとって、どういう位置づけのメディアになるのでしょう?
池上:テレビや本と違って、YouTubeではただちにいろんなことを取り上げて解説することができます。テレビだったら、このへんできれいにまとめましょうみたいなことも、よりディープな形で語ることができる。そういう可能性を、今いろいろと試行錯誤しながら、一生懸命見つけようとしている感じですかね。たとえば「ホームルーム」という形で、毎日、増田さんとリモートで会話している動画をアップしているのですが、そのやり取りの中で、やっぱりこの話は、一度まとめて解説したほうがいいよねという話になることもあります。あるいは、そういう会話を積み重ねていくうちに、これがまた別の本という形になるかもしれないし。増田:そうなると良いですね。
池上:ここから、いろんなことに発展していくと思うんです。だから言ってみれば、今はいろんな種を蒔いている感じなのかもしれないです。
増田:個人的には、池上さんのテレビでは出せない部分を、この動画で是非出したいという思いがあります。といっても、まだテレビの域から全然出ていないので、池上さんをどこまで崩せるかというのが、このYouTubeチャンネルにおける私の使命だと思っています(笑)。
池上:もう、ボケとツッコミみたいなものですから(笑)。
■書籍情報
『コロナ時代の経済危機: 世界恐慌、リーマン・ショック、歴史に学ぶ危機の乗り越え方』
価格:本体860円+税
出版社:ポプラ社
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『感染症対人類の世界史』
価格:本体860円+税
出版社:ポプラ社
公式サイト