『ONE PIECE』は「差別と革命」を描く物語だーー壮大なスケールの“新世界編”、その行く末は?

『ONE PIECE』は「差別と革命」を描く

 『ONE PIECE』は2部構成となっており、1~61巻の第597話までが「サバイバルの海 超新星(ルーキー)編」、2年後の598話以降が「最後の海 新世界編」となっている。

 第61巻の表紙は第1巻の表紙と同じ構図で成長したルフィたちの姿が描かれており、折返し地点であることが強調されているのだが、第2部の幕開けとなる魚人島編に、序盤に登場したアーロンたち魚人族の背景を掘り下げる話を持ってきたことで、物語がより深まっていると感じた。「差別」という難しいテーマを、少年漫画の娯楽活劇として見せる手腕も見事で、これぞ『ONE PIECE』だと言えよう。しかし、問題意識の落とし所としては、若干、後味の悪さが残るものとなってしまった。

 アーロンの意思を継いだホーディたち新魚人海賊団を、ルフィたち人間とジンベエたち魚人が共同戦線を張って倒すことで、魚人島編は幕を閉じる。

 暴力による国家転覆を企てるホーディは「環境が生んだバケモノだ」と語られる。「こいつらの恨みには「体験」と意思が欠如している!!!」「実体のない……空っぽの敵なんだ!!!」と語られるホーディたちは、被害者意識を肥大させ人間を「下等種族」と見下し、「おれ達は選ばれた!! 復讐という「正義」をうけつぐために!!」と語る、カルト集団だ。

 社会正義を掲げる集団が戦いを自己目的化することで暴走することは珍しくないことだ。だから、彼らを悪として描くと物語の収まりがいいのだが、それだけに問題を矮小化していないか? と感じた。つまり、ホーディを「バケモノ」にした「環境」に対する意識が足りないように感じた。それは魚人差別を生み出した世界政府や天竜人の罪で、そこへの踏み込みの甘さが、後味の悪さにつながっている。

 だが、ここでの語り残しは今後、描かれるのではないかと思う。ルフィの父・ドラゴンが世界政府と戦う革命軍総司令官だと考えると「差別と革命」は本作の大きなテーマだ。

 おそらく最終的にこの問題をどう描くかで本作の評価は決まるのだろう。巻を重ねるごとにテーマが深まっている『ONE PIECE』だ。その辺りは信頼して良いのではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報

『ONE PIECE』既刊96巻
著者:尾田栄一郎
出版社:株式会社 集英社
https://one-piece.com/

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