日本企業がコロナ危機を生き延びるために必要なのは? 冨山和彦の“痛いところを突くド正論”

日本企業がコロナ危機でどう生き残る?

とにかく現金を確保!

 企業にしろ家計にしろ、日銭が回らなくなれば破綻する。だから危機のときにはとにかくキャッシュが大事だ。当たり前すぎることのように思えるが、日銭が回っている平時にはこの重要さは意外と認識されていない。

 実際には日本では中小企業だけでなくトヨタのような大企業でさえ、平均すると2カ月持つくらいしかキャッシュを持っていない。自粛期間が長引くと経済が死ぬ、と語る論者が多いのはこういう理由だ。

 だからいずれ危機が来ることを見越して日頃から現預金を積んでおけ! とも言っているのだが、積んでいなければこれは今さら言われてもどうにもできない(とはいえ、アイリスオーヤマの大山健太郎氏も冨山氏も言う「100年に一度の危機」レベルの災難が実際には10年おきにはやってきているのだから、そのつもりで備えておけ、というのもまた真実だが)。(参考:マスク生産で注目、アイリスオーヤマはなぜ危機に強いのか? オイルショックで見出した経営哲学

 したがって今はとにかく現預金のショートに備えて(自分は当座大丈夫だと思っていても、取引先と共倒れになる可能性だってある)、金融機関から政府の助成金、他にもとにかくあらゆる手段を使って、最悪の事態を想定しながら可能な限り確保する。

 それから名目上(損益計算書上)の売上/売掛ではなく現金の出入りを日次で管理する。平時なら自分も相手方も支払いが滞ることは多くないだろうが、こういうときはシビアに振る舞わなければならない。

独裁者をリーダーに選べ!

 今は平時ではなく戦時だ。

 本当にやばくなれば、切らなければいけない事業や人も出てくる。そんな「あれか、これか」の痺れる意思決定が連続する危機のときに、八方美人でみんなにいい顔をする調整型人間をトップにすると、意思決定に時間ばかりかかって出血多量で死ぬ。

 したがって、ピンチになるとアドレナリンが出まくって頭が冴え渡り、いくら罵倒にさらされても必要な決断をやり抜ける胆力のある人間こそをトップに据えなければならない。

 もちろん、事態を客観視できないワンマンは論外だし、現場主義を履き違えて現場に「大丈夫か?」「やれるよな?」と聞いてまわるようなタイプもだめだ。生きるか死ぬかの瀬戸際にいる状態で「できるか?」と聞かれて「できません」なんて現場の人間が言うはずがないからだ。

短期的な生き残り策から中長期的な生き残り策に展開できるか?

 さらに冨山氏は筆を進める。

 そもそもコロナ禍に見舞われる前から、日本のローカル経済を支える中小企業は低い生産性と賃金にあえいでいたし、グローバル経済で戦う大企業は国際競争と破壊的イノベーションの荒波に揉まれていた。

 コロナの流行が過ぎ去ったら自動的にそれらの問題は解決するか? するわけがない。

 つまり、今回の危機に対して短期的に生き残るだけでなく、中長期的に生き残るための抜本的な変革のきっかけにし、攻めに転じることが必要だ、と冨山氏は説く。

 過去に冨山氏が再生に携わった企業も、まずは危機を克服し、次いで事業体としての姿を変身させることによって、その後の持続的な成長につなぐことができたのだという。

 「え、でもどうやるの? だって潰れないために貯めといたキャッシュを放出していくんだから変革に使えるお金なんかないじゃん!」と思うかもしれない(少なくとも私はそう思った)。

 ところが、この危機を中長期的な生き残りを懸けた変革につなげる方策はこの本には書いていない。6月24日に発売される「後篇」である『コーポレート・トランスフォーメーション』に続くのだ。なんてこった!

 しかし今はまだ皆「抜本的変革」フェーズ以前の「生き残り」できるかどうかの段階にいる。後編は機会があれば、また紐解くことにしたい。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

■書籍情報
『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』
冨山和彦 著
発売中
価格:本体1200+税
出版社:文藝春秋

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