“キモかわいい生きもの”にゆっくり系YouTuberがツッコミ 「へんないきものチャンネル」はどんな本になった?
2020年5月に発表された第2回「小学生がえらぶ!"こどもの本"総選挙」でも第1回に引き続いて『ざんねんないきもの事典』が第1位となり、シリーズ全巻がベスト10入りするという圧倒的な強さを見せた。
子どもは動物が好きだが、なかでも奇妙な生きもの、珍しい生きものが好きなようだ。
『ざんねんないきもの事典』のヒット以降、類書が無数に刊行されているが、本書『キモイけど実はイイやつなんです。怖いのに何だかかわいく思えてきちゃう生きもの図鑑』(著者ろう、監修實吉達郎、イラスト川崎悟司、バニえもん)もそのひとつだ。
漢字にはすべてルビが振られているので小学生でも読めるつくりになっている。
『ざんねん~』がそうであるように「○○だけど××」というギャップのおもしろさがウリで、この本は「キモイけど実はイイ生き物」がコンセプトだ。
参考文献には『ざんねんないきもの事典』をはじめとする今泉忠明監修本が並び、生きもののイラストは『カメの甲羅はあばら骨』『絶滅した奇妙な動物』などで知られる川崎悟司が担当と、残念な生きものや危険生物本に登場する生物の情報やイラストレーターの有名どころを集めてリミックスしたような内容の1冊になっている。
たとえば、TVアニメ化もされた貴志祐介の小説『新世界より』でおなじみ(?)のハダカデバネズミ、『テラフォーマーズ』でも「極限環境でも死なない生物」として登場したクマムシといった有名どころから、ベーコンがグネグネうごめくような動きをして口から白い糸を吐き出すデンドロリンクス、ゴキブリに毒針を刺してゾンビ状態にするエメラルドゴキブリバチ、鳥をおびき寄せるために尻尾の先に蜘蛛そっくりのかたちと動きを再現した疑似餌を付けたスパイダーテイルドクサリヘビ、見た目がでろでろの腸(ホルモン)にしか見えない深海魚シワヒモムシなどが登場する。
では「この本らしさ」はどこにあるか?
ゆっくり系YouTuber本である点だ。
ゆっくり系YouTuberとは? へんないきものチャンネルとは?
「ゆっくり実況」「ゆっくり茶番劇」などと言われる動画群は、同人ゲーム『東方Project』の霊夢と魔理沙を掛け合い用のキャラクターに立て、「棒読みちゃん」「SofTalk」などのAquesTalkを利用した音声合成ソフトを使ってしゃべらせた動画で、ニコニコ動画やYouTube上で無数に制作されている。
この本の元になった「へんないきものチャンネル」も、もともと霊夢と魔理沙を用いて変な生きものを紹介する棒読み動画をつくっていたチャンネルだ。
ところがGoogleがニュース記事を合成音声ソフトを使って読み上げるだけの動画をYouTubeから一掃するために入れたAIが、ゆっくり系YouTuberの動画を記事読み上げ動画と区別できずに誤爆しまくって収益化剥奪騒動が起こり(登録者数を伸ばしていたチャンネルが突然「収益化不可」と判定されて広告が付けられなくなる)、へんないきものチャンネルもこれに巻き込まれた。
結果、霊夢と魔理沙ではなく「きつねさん」と「たぬきさん」というオリジナルキャラクターに語らせ、VOICELOIDの結月ゆかりと弦巻マキの声を使用した動画に切り替えて現在も運営されているという若干ややこしい経緯を持つ。
ただし、生物系チャンネルと言っても、チャンネル鰐のように実際に珍しい爬虫類や両生類、虫や魚を飼って紹介するわけではない。生態や歴史を調べてまとめた動画をアップしている。
動画制作者が自ら紹介する生物の動画を撮っているわけではないので、いらすとやさんなどフリー素材を使い倒しており、生きものを紹介するチャンネルなのに、生きものが実際に動く映像は少ない。
つまり、変な生きものを紹介しているが、「絵」(映像)としてのおもしろさで勝負するというより、きつねさんとたぬきさんという2人のキャラクターが掛け合いで語っていく中身(情報)のインパクトで勝負しているのが特徴だ。