子ども向け自己啓発書、コロナ禍で13万部超えヒットも “これからの生き方”学べる本の需要高まる
コロナ禍にもかかわらず発売2か月で10万部超えの『なぜ僕らは働くのか』
2020年3月19日に発売されたばかり、しかもコロナ禍で書店が十分に営業できなかったにもかかわらずすでに13.5万部と大ヒットしている池上彰監修の『なぜ僕らは働くのか-君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』も、こうした「子ども向け自己啓発書」のひとつだ。
近年の学習まんがで見られる、一本の筋の通ったストーリーマンガの合間合間に記事、図解を挿入しながらひとつのテーマをわかりやすく読者に伝えていくスタイルで構成されたキャリア教育本である。
村上龍が2003年に刊行した『13歳のハローワーク』以降、さまざまな職業を紹介するお仕事図鑑ものは無数に世に出た。しかしこの本はさまざまなデータを読者に提供するものの、「どんな仕事があるか」よりも、そもそもの「なぜ働くのか?」という生き方を読者に考えさせるものになっている。
子ども向けにわかりやすい書き方はしているが、「信じれば夢は叶う」的な耳触りのよい言い方は避け、いわゆる年金2000万円問題に触れるなど、子どもにリアルな現実にも目を向けさせようとしているのが特徴だ。
「夢を持つことは大事です。でもたとえばサッカーが好きな人みんながプロのサッカー選手になれるわけではない。ただ同時に、そこに絶望しないでほしい。世の中『夢が叶う/叶わない』『幸せか/不幸せか』は白か黒か、ゼロかイチではありません。学校の勉強ができていればいいという時代でもないし、収入がいい仕事がベストな仕事なわけでもない。いかに個々人に合った幸せを追求できるか、生きていくには何が必要なのか――そういったことを考えてもらえる本をめざしました」(『なぜ僕らは働くのか』担当編集者の学研・宮崎純氏)
コロナ禍によって改めて「働くとは?」「自分にとって仕事とは?」という問いに多くの社会人が向き合うことになった。子どもにとっても、学校がどうなるのか、受験がどうなるのか見えずに不安ななか、将来について改めて考える機会になっただろう。
しかし、テレビやSNSをいくら見ても断片的な情報が膨大に流れ込んでくるだけで、何をどう考えていけばいいのかという道筋は見えてこない。そんなとき、体系的に順を追って思考を整理する「軸」を与えてくれるのが、本だ。
『なぜ僕らは働くのか』は、子どものために買ったという親からの評判も上々だという。「子ども向け自己啓発書」は、子どもとともに大人にも自己を見つめ直す機会を提供してくれるからこそ、いま支持を広げている。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。
■書籍情報
『なぜ僕らは働くのか-君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』
佳奈 著、池上彰 監修、モドロカ イラスト
発売中
価格:1,650円
出版社:学研プラス