ヤバいのは生物か飼い主か? 『ちゃんねる鰐のヤバい爬虫類・両生類図鑑』レビュー
飼育者目線に徹した生物図鑑
本書は、基本的に出てくる生きものが野生でどう生活しているのかかという話よりも、飼育者目線で書かれているのが最大の特徴だ。
登場するすべての生きものに「飼育難易度chart」が設定され、購入価格の相場や「飼い方のPOINT」が書かれている。意外に知らない「ツノガエルは牙があって噛む力が強いので噛まれると流血は必至」といった情報はたとえ飼う気がなくても読んでいておもしろい。著者は約80種類の生きものを飼っているが実は1カ月に合計10万円くらいしかかかっていないというのも驚きだ。
「小さいころからゴジラが大好きで、いつか真っ黒のトカゲを飼いたかった」「アズマヒキガエルは口を開けて下を伸ばすときのベロン! という高音が特徴的で、これを聴きたいから飼っている」など、鰐独特の感性に基づくフェティッシュな飼育理由も語られている。そのうちいくらかは動画でも語られていたものではあるものの、文字で読むと「動画ではさも当たり前のことのように本人がしゃべってるから『そういうものか』と思われされそうになってたけど、たいがいおかしい」という気に改めてさせられる。
こんなお役立ち情報満載であり、100日で死んだワニより命の大切さや生物多様性の重要さを教えてくれるかもしれない1冊になっているのだが、小学生がこれを読んで「飼いたい!」と親にねだったらきっと大変なことになる。ルビを振らずに小学生に読まれにくい仕様にしたことはおそらく全国の保護者にとって幸いだったことだろう。
悪い大人のみなさんは間違っても休校中で手持ち無沙汰な子どもに与えて読み聞かせしたりしてはいけません。いいですね? 絶対だぞ!
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。