AI手塚治虫やAI美空ひばりはなぜ議論を呼ぶ? AIによる創作の問題点を考える

AIによる創作の問題点を考察

法律が絡む問題

 ほかにもAI創作をめぐる論点はある。

1)著作権は誰のもの?

 AIで生み出された創作物の権利が誰に属するのかは今のところ決まっていない。AIをつくった人間(あるいは企業)に権利が属するのか、何も権利が発生しないのか、法的な整備はまだきちんとされていない。いくつも訴訟が起こされたり、新しく法律が制定されたりするなかで線引きが確定していくことになるだろう。

 この「アウトプット」の位置づけの気持ち悪さ、落ち着きの悪さが次の「インプット」側の問題と結びつくことで、さらに人々にモヤモヤを生じさせる。

2)遺族(著作権継承者)なら勝手にやっていいの? それ以外の人がやるのはNG?

 AI手塚治虫やAI美空ひばりが代表的だが、遺族(著作権継承者)だからといってAI誰々という名前で誰かの作品データを食わせてAIに創作させるのはどうなのか、という問題だ。

 「どうなの?」というのは人々の心情的な問題だが、AIナントカという固有名と結びついたAIを作る権利がそもそも誰にあるのか、という法的な問題でもある。

 しかもこれはこのあと仮に「『AIナントカ』と名乗らせていいのは著作権継承者だけ」と法的に確定していったとしても、道義上モヤる事態は十分に発生しうる。

 たとえばビートルズの楽曲データを食わせてビートルズ風楽曲を作るAIを作ったとしても「AIビートルズ」などと言わず、さらにいえばビートルズのビの字も出さず、実際の音源のデータを用いないで(つまりサンプリングの使用料を払う必要がないかたちで)、ビートルズに似てはいるが法律上は著作権侵害にあたらない程度の類似度合いの新規楽曲を作った場合、何も権利侵害はしていない。これでダメなら、ビートルズの曲を研究してビートルズっぽい曲を人間が作ることも許されなくなる。

 すでにいろいろな顔写真やキャラクターの顔を勝手にネットから拾ってきて架空の人物の顔を生成するAIサービスが存在するが、「自分が知らないところでそういう素材にされるのはイヤだ」と思っても今のところは止める有効な手段がない。そもそも、心情的にはイヤかもしれないが、何の権利を侵害されているのかが不明瞭だ(そのものをパクられて利用されたわけではなく、他のデータといっしょに学習材料にされただけで、アウトプットは元のものに似てはいるかもしれないがまったくの別物だからだ)。

 AI創作は現状では「思ったよりショボい」「まあそんなものか」「普通にきれい」「気持ち悪い」程度の感想しか抱かせてくれないものが大半だが、まだ歴史は始まったばかりである。人間がAIのもっと有効な使い方を編み出すことで大傑作が生まれるかもしれないし、とんでもない倫理的な問題やビジネス上の問題を引き起こすかもしれない。どう転んだとしても今のレベルのままより何か起こってくれたほうがおもしろい。楽しみに待ちたいところだ。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。 

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