『Dr.STONE』と『キテレツ大百科』の違いとは? かつてない科学漫画の行く末を考察
文明をやり直していく展開はジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』(草思社)やユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』(河出書房新社)といった人類史本ブームを少年誌に移植するという大胆さだが、漫画として一番近いのは藤子・F・不二雄の『キテレツ大百科』ではないかと思う。
しかし、『キテレツ大百科』が江戸時代のご先祖様が残した書物を元に現代文明を超えた道具を作るという展開だったのに対し『Dr.STONE』で千空が作るのは実在するものだ。この現実に対する絶対的な信頼が、他の漫画と大きく違うところだろう。
物語は第三部となり、千空たちが巨大な科学船で生き残った人類を探す旅に出て、人類が石化した謎の真相を探るという展開になっている。さながら、ジャンプの人気漫画『ONE PIECE』をよりリアルにしたような展開だが、心配なのはバトルのインフレならぬ科学のインフレだ。
どうにも、船や気球を作り出したあたりから発明のプロセスが複雑になりすぎて、素朴な感動が失われつつあるように感じる。根底にあるのが「複雑になりすぎた現代社会をリセットして、ゼロからやり直したいという願望」であるため、劇中で文明が発展するとどうにも窮屈さを感じてしまうのだ。このあたりはヒットしたがゆえの悩みだろう。
ジャンプ漫画は打ち切りも心配だが、人気が出た後、どう終わらせるかも大変である。論理的な作品ゆえに大丈夫だとは思うのだが、長期連載に伴う世界観の広がりに作り手がどう対応していくのかも見守っていきたい。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『Dr.STONE』既刊13巻(ジャンプコミックス)
原作:稲垣理一郎
作画:Boichi
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html