野村克也が語る、『もしものプロ野球論』 「野球の原理っていうのは単純明快」

野村克也が語る『もしものプロ野球論』

 数えきれないほどの著書を出版している元プロ野球選手/監督・野村克也氏の新著『もしものプロ野球論』は、プロ野球の歴史を振り返って「もしもあのとき……ああしていれば」と、別の可能性を探る“たられば本”である。そんな言い出せばキリのないテーマだからこそ、驚きのエピソードや本音が飛び出し、今までの書籍にはない魅力が感じられる一冊となっている。今回はその書籍にかけて様々な「もしも」の質問に加え、今年のプロ野球を振り返ってもらった。ファンにはお馴染み、ノムさんの「ぼやき」炸裂の最新インタビューをお届けする。(編集部)

今年のプロ野球を振り返って

――野球はスポーツのなかでも特に、タイトルにあるように「もしも」の連続だと思います。

野村克也(以下、野村):「たられば」スポーツだよ。ファンもみんな「たられば」で見てるから厄介。しかも昔は打たれたらピッチャーだったけど、今はキャッチャーのせいになるからね。セ・リーグでは巨人V9の黄金時代を築いた森(祇晶)、パ・リーグでは俺がそうしちゃったんだよね。キャッチャーの重要性を知らしめたのは森と俺だよ。完投/完封すればヒーローはピッチャー。でも、サイン出してるのはキャッチャーだからね。そのキャッチャーに目が向くようになった。森とよく話したけど、完封してもキャッチャーはヒーローになれないって。それが、ようやく最近はキャッチャーがお立ち台に立つようになった。それは野球界のひとつの進化だよ。見てる人はちゃんと見てる。

――リードやキャッチングの良し悪しは素人目線だとなかなか気づくことができないだけに、わかりやすく目立つプレイでいうと、盗塁阻止くらいですよね。

野村:本当にそれしかない。長い間キャッチャーやっていたけど、ピッチャーでも俺に感謝してるのは南海ホークスのエースだった皆川(睦雄)だけだよ(笑)。キャッチャーのファインプレーって見えないから厄介だよね。本当に野球を知っている人じゃないと、キャッチャーのファインプレーは理解してもらえない。

――野球を見る際にキャッチャーのどこを見たら、野球がもっと理解できますか?

野村:キャッチャーの評価は難しいけど、サインに根拠があるかどうか。なぜここでまっすぐ、なぜここで変化球か?という根拠が見えたら面白いよね。でも、なかなか見えない。バッターの見逃し方とか、長所短所とか、そういうのをちゃんと勉強しているキャッチャーっていうのは、リードに出てくるから。自分はバッターとしても生きてきたけど、バッターの共通点は全員がね、変化球への対応に本質が現れる。それに対してどう対応しているかで、キャッチャーの打者分析の手腕がわかる。そこを見たらわかりやすい。

――それを理解するには、時間がかかりそうですね。著書の中で、2019年のペナントレースは、巨人のセ・リーグ1位を予想していましたが見事に的中しました。

野村:野球の原理っていうのは単純明快だからね。相手を0点に抑えてしまえば、100%負けないんだよ。その主役はピッチャー。4回も最下位の球団の監督をやった経験でいうと、野手も大事だけど、やっぱりピッチャーだよ。

――確かに巨人は山口俊選手が投手三冠タイトル(最多勝利、最多奪三振、最高勝率)を獲得しました。

野村:あと今年は調子が悪かったけど先発には菅野(智之)もいる。終盤は途中獲得した新外国人のデラロサが抑えにハマり、中川(皓太)や田口(麗斗)らが中継ぎとして機能した。広島からFA移籍した丸(佳浩)の力も大きかったけど、この投手陣を整備できたことが優勝に繋がったと思う。 

――原(辰徳)監督が復帰した影響もあるのでしょうか?

野村:それは分からない(笑)。俺は今まで優勝候補のチームからの監督要請が一回もないんだよ。最下位のチームばっかり。楽天も最下位のときに女房に「これ俺のところに(監督要請が)来るぞ」って言ってた。そうしたら8月頃に電話きたよ(笑)。予感がするんだ。弱いチームの監督ばかりやらされたけど、俺に感謝してくれたのは、ヤクルトの元球団社長・相馬(和夫)さんだけ。原は名監督かね?

――13年の監督生活のうち8回リーグ優勝を果たしています。

野村:よく知らないけど、今年は吉村(禎章)や、宮本(和知)、元木(大介)らの手腕が良かったのかね。優勝するチームは監督以上にコーチ陣が優秀なことが多いから。

監督として必要なもの

――コーチの話でいうと本書の中ではヤクルト時代の教え子でもある宮本(慎也)ヘッドコーチを評価されていましたが、1年で退任となってしまいました。

野村:現在のプロ野球の監督の共通点は「世渡り上手」。あいつは典型的な世渡り下手。“政治”ができないから時代に合わないんだろうね。現役時代は本当によくやってくれたよ……。各球団のオーナーというのは、野球を知らない未経験の人が多いから大変だよ。

――先日、巨人軍史上歴代最高キャッチャーと言われる、阿部慎之助選手が引退を発表しました。

野村:阿部はキャッチャーじゃなくなってしまったから、もったいなかった。2年目とかで日本シリーズに出て、ものすごく成長した。それがこれからっていうときに怪我が原因でキャッチャーをやめて、残念だと思ったんだ。日本シリーズの経験というのは、キャッチャーにとって本当に大事なんだ。森(祇晶)なんていうのは名捕手の典型だけど、あれだけ日本シリーズを経験していると、まったく違うよね。

――現役でいうと、西武の森友哉選手がパ・リーグでは野村さん以来となる54年ぶりのキャッチャーで首位打者を獲得しました。

野村:俺のときとはまったく状況が違うよ。俺のときは強打者全員が打ち合わせしたように調子が悪くて、たまたまだから(笑)。

――そんなことは絶対にないです! 野村さんが指導した育てたキャッチャーですと、矢野燿大さんが今季から阪神の監督を務めチームを3位に導きました。

野村:来年の上昇も期待してるよ。監督またはヘッドコーチにキャッチャー経験者を置くのはいいね。

――そしてピッチャーですが、ヤクルト時代の教え子の1人、高津(臣吾)2軍監督が来季から1軍監督に任命されました。

野村:ピンとこないけどねぇ(笑)。できるのかね?

――独立リーグでも監督を務め、投手コーチ、2軍監督として経験を積んでの任命なので、期待できるのではないでしょうか?

野村:そうね。でもプロ野球80年の歴史があるけど、ピッチャー出身の名監督はいないんだよ。先日惜しくも亡くなった金田(正一)さんが例外で優勝したけど、続かないよね。ピッチャーというのはみんなに背中向けているから、野手とかのありがたみや重要性がわからないんじゃないの?

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「著者」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる