Ado「自分を好きになるために一歩を踏み出せた」 覚悟を歌い続けた2024年最後の新曲「Episode X」を語る
愛知での振替公演は残っているものの、ひとまず10月13日、Kアリーナ横浜でツアー『モナ・リザの横顔』千秋楽を迎えたAdo。「Adoの新たなる横顔を見せる」というテーマのとおり、そのライブはまさに「見たことのないAdo」がてんこ盛りだった。もちろん今までもAdoは常に挑戦をし続けてきたわけだが、そこに込められた彼女自身の思いが溢れかえるように伝わってくるという意味で、Adoの新たなステップを目撃したという感動があった。
そんななかリリースされたのが、この「Episode X」という新曲である。映画『劇場版ドクターX』の主題歌となったこの曲を書き下ろしたのは、Ayase(YOASOBI)。彼らしいパワフルで緻密なサウンドに乗せて歌われるのは、『ドクターX』の主人公大門未知子の物語であると同時に、自分自身を奮い立たせながら前進し続けるAdo自身の物語だ。エポックとなるツアーを経た今だからこそ、この曲が持つ意味はとても大きい。そして、そこに込められた思いは、新たなワールドツアーを控えた2025年に向けてもAdoの燃料となっていくはずだ。(小川智宏)
自分を好きになるために一歩を踏み出せたような感じがしました
――まずはツアー『モナ・リザの横顔』、おつかれさまでした。まだ振替公演が残っているところではありますけど、ひとまずツアーを走り終えて、どんな感慨が残っていますか?
Ado:今回のテーマとしては「新たなるAdoをお見せしたい」というのがありまして。私にとっても新しい自分の姿、そして皆さんにとっても新しいAdoとしての姿をお見せしたい。それを『モナ・リザの横顔』というツアータイトルにも込めました。ギター演奏だったり今まで見せてこなかった新しいパフォーマンスを取り入れてみたり、私が作詞作曲した楽曲を初めて公開したり、新しい試みもあって、それらを受け入れてもらえるのかという不安もありましたが、それ以上に私がまた自分を好きになるために一歩を踏み出せたような感じがしました。走り抜けた今、本当に自分自身にとってものすごくいいツアーになったなと思っております。
――僕も千秋楽を拝見したんですけど、本当におっしゃったとおり、見たことのないAdoがいたるところに現れてくるような感じでしたよね。セットリストでも「うっせぇわ」や「新時代」をあえてやらないとか、「0」のライブ初披露があったりとか、アンコールでギターを弾いて歌う姿も含めて、かなり驚いたし、感動しました。
Ado:ありがとうございます。
――そもそも、こういうツアーを今回やろうと思った理由というのは、どういうところにあったんですか?
Ado:私はもちろんこれまでも自分のやりたいことに向き合ってきましたし、自分が望むままに進んできたつもりではありますが、「私自身がやりたいことって何なんだろう?」「求められたことだけやるのが正しいのかな?」とたくさんの時間が過ぎていくなかで漠然と思うことがありました。
――うんうん。
Ado:私の最終的なテーマは自分を愛すること、自分を好きになるということなので、いろいろなものを気にして、いろいろなものに従って自分を潰してしまう――そんな未来をきっと自分は受け入れないだろうなと思ったので、「とことん好きなことやってやればいいじゃないか!」と。この際、今まで諦めてきたことや「需要がない」と言われるかもしれないけれど、それでも自分がやりたいことをやってみるのがいちばんいいんじゃないかな、と。このツアーがきっとそのチャンスになると思ったので、もう一度ギターを引っ張り出して弾き直したり、作詞作曲をもう一度やり直したり、自分の可能性を広げていくことをして、あらためてスタートを一歩踏み直したような感じでした。
――本当に挑戦でもあるし、冒険でもあるし、そういうツアーになりましたよね。
Ado:すごく冒険でしたし、それこそ私が作詞作曲した「初夏」という曲をお披露目する前のMCで「次が最後の曲です。最後の曲は私が作詞作曲した曲です」と言ったら、シーンとしたあとに「え?」というような声を上げられていて(笑)。それは正直、すごく恐ろしいことでもありましたね。「うわ、本当に求められていないかもしれない」とか思って。本当にドキドキハラハラとはこのことか、という体験でしたね。
――そういう意味では、これまでのワンマンライブやツアーとはまた違う感慨というのもありましたか?
Ado:そうですね。今までは自分自身の夢を叶えるということだったり、新たなる境地へ踏み出していくことをテーマにしていましたが、意外にも自分自身をテーマに置いたライブは(国立競技場で開催した)『心臓』はありましたが、もっともっと私自身のパーソナルな部分に振り切ったようなツアーは、『モナ・リザの横顔』が初めてだったんじゃないかなと思いますね。
――先ほど話にあったとおり、Adoさんにとっては“自愛”、自分を愛するということがすごく大きなテーマとしてあり続けているわけですけど、今回のツアーをやったことで自分自身に対する思いというのも変わりました?
Ado:「よし、これをやり切ったから自分のことを好きになれたぞ!」というわけにはもちろんいきませんでしたが、でも着実にこのツアーを行う前、そして諦めたことに向き合う前の自分よりは、今の自分のほうが受け入れられるかなと思える心境にはなりました。
自ら作詞作曲をした「初夏」――「私の痛みや思いが届いてるといいな、って」
――アンコールではギターを弾いて歌いましたけど、個人的には特にアコースティックギターをプレイした「向日葵」が印象的でした。当然といえば当然ですけど、やり方が変われば歌も変わるんだなあ、って。
Ado:「0」と同じように、「向日葵」をアコギで歌うというのも千秋楽公演が初披露でした。ツアーでエレキギターを弾いてきたなかでアコギを追加したというのもあって、全然弾く感覚も違いますし、ギターの厚さとかも違いますし、何より歌う楽曲もエレキで歌った作品とは全然違う曲調なので、結構緊張しました。何なら、(「向日葵」が)いちばん緊張したかもしれないです(笑)。「向日葵」は、落ちサビのところで私のギター1本になるので、もう「ここで崩壊したらすべてが崩壊する!」みたいな(笑)。でも、実際にステージに立って披露している時は、心があたたかくなりました。純粋に私の歌を聴いてほしいな、というか。「私の歌がちゃんと皆さんに届いてると嬉しいな」「私がこのツアーに込めた思いが皆さんに届いてると嬉しいな」と思いながら歌いました。私自身も優しい気持ちになりましたね。
――やっぱりギターを持っていると、歌ううえでの気持ちも変わりますよね。
Ado:そうですね。歌1本ではなく自分も演奏して表現の幅がギターも追加されるぶん、武器がひとつ増えたような感覚で。「こうやって歌うのと同時に優しく弾きたいな」とか「ギターをこうやって弾くから私の歌をもっとこうやって強くしよう」、反対に「(歌を)弱くしよう」とか、自分のなかの表現の遊びみたいな要素も増えてくるので、そこでまた新しい歌声が届けられたのかなと思います。
――ちなみに興味本位で聞くんですけど、エレキとアコギどっちが好きですか?
Ado:うーん……エレキですかね。
――そうなんですね。
Ado:もちろんアコギも好きですが、エレキギターを持ってステージに上がるということにずっと憧れてきましたし、いろんなアニメや漫画の影響をものすごく受けて、それこそ『モナ・リザの横顔』でも披露した「あのバンド」も『ぼっち・ざ・ろっく!』の結束バンドにめちゃくちゃ影響を受けてセットリストに入れさせていただいたので。純粋に「ロックしてるぜ!」という感覚でもあって、なんだか憧れが叶えられた感じがしたというか(笑)。純粋にかっこいいなと思いますね。
――「あのバンド」のカバーは、あのスタイルでやるのにまさにふさわしい曲でしたね。
Ado:もちろんパフォーマンスをしている自覚もありますが、同時に私のオタクの体現みたいになってるんじゃないかとも思っちゃって(笑)。それこそ、本当にやりたい放題なセトリだったかなと思うので、ちょっと恐縮でした。
――いや、素晴らしかったですよ。そのアンコールの最後には「初夏」を披露して。ステージであの曲を歌い終える瞬間、どういうことを思ってました?
Ado:やっぱり……これまでずっとボカロPの皆さんをはじめ、いろんな作家さんに楽曲を書き下ろしていただいている身ですし、自分の思いや熱意を書き下ろしていただいた歌にも込めて今までもステージに立ってきましたが、私の言葉で自ら作詞作曲をするということは、ストレートに私の思いを直接届けることができるということなので。誰にどう思われてもいいから、とにかく私の痛みや私の思いが来てくれた皆さんに届いてるといいな、って。何を言ってるかわからないかもしれないけれど、どうかちゃんと私の熱意が私の覚悟が届いてほしい。そういう思いでいっぱいでした。
――うん。当たり前ですけど、刺さり方が違いましたよ。いろいろな思いが乗っかって、すごく強い歌になっていたなと思います。
Ado:ありがとうございます。