Ms.OOJAらしさとして自分自身を受け止める楽しさ “今”と向き合い続けた先で『最終回』を歌う理由

Ms.OOJAが約2年半ぶりとなる10thアルバム『最終回』を3月26日にリリースした。同作はリード曲「最終回」を筆頭に、メジャーデビュー15年目を迎えた今、ファンと共有したいメッセージを込めた作品だ。収録曲10曲すべてからMs.OOJAのメッセージを感じられる必聴の1枚、そして15年目の心境について、本人にじっくり語ってもらった。(高橋梓)
ファンとの心の距離が縮まったことで浮かんだメッセージ
ーーまずは、メジャーデビュー日である2月16日に行われた、おじゃファミ(Ms.OOJAのファンクラブ会員の呼称)限定ライブ『Ms.OOJA 10th New Album 「最終回」 全曲お披露目Live』の振り返りからお願いします。
Ms.OOJA:お客さんが何も聴いていない状態で、いきなり新曲をライブでお届けするという特殊なものでした。終わった後にInstagramで「どの曲がよかった?」とコメントを募ったのですが、まっさらな状態で聴いてもらったからこそ「この曲ってこういう風に伝わるんだ」と思うようなリアルな声が多くて。やってよかったなと思いました。
ーー意外だった声はありましたか?
Ms.OOJA:「Eye to Eye」などのわかりやすい曲が届いていたようです。他には「Last Night」や「どんな過去でも未来でも」などインパクトのある曲が記憶に残ったみたい。なるほどね、と思いました。

ーーそこでお披露目された楽曲が収録されたアルバム『最終回』がリリースされました。アルバムのコンセプトを改めて教えてください。
Ms.OOJA:実は、もともとそんなにコンセプチュアルに作っていなかったんです。でも「最終回」という曲ができた時に、すべてがバチッとハマったような気がして。「私が伝えたかったメッセージってこれだ」というものが見えたので、『最終回』というタイトルにしました。コンセプトは「ファンとともに作ったアルバム」ですかね。というのも、メジャーデビュー15年目を迎えた今、ファンと一緒に成長してきていると強く感じていて。聴いてくださる方にますます寄り添った楽曲を作りたいと思うようになったんです。今回収録されている楽曲は、「どんな過去でも未来でも」以外は、ここ1〜2年で作った曲。ファンの方と作り上げたという感覚があります。
ーー今のお話を聞いて2つ疑問が湧きました。まず、今回収録されている楽曲は「最終回」と何かしら繋がっている印象を受けるんですね。ということは、「最終回」を一番最初に作ったのですか?
Ms.OOJA:それが違うんです。近年作った楽曲が結果的に全部「最終回」に繋がっていただけなんですよね。たぶん、近年の伝えたいことがわかりやすく集結したのが「最終回」だったという。
ーー近年作る曲には共通した軸があったと。
Ms.OOJA:そうなのかもしれません。ここ最近、おじゃファミライブや全曲リクエストライブ、インスタでのお手紙朗読ライブなどをやっていて、コロナ禍を経てファンとの距離が近くなった気がしているんです。しかも、デビュー当初から観てくださっている方も多くて、皆さんと一緒に時を経ているんですよね。お手紙などを通して、おじゃファミの皆さんの人生やドラマを知る機会があって「私よりも波乱万丈だな」「それを乗り越えて今この場にいるんだな」と感じることも増えました。そういった経験から「みんなで強く生きていこう」というメッセージを届けたいと思いましたし、私の音楽がその方々にとってすごく重要な役割を果たしているとも感じていて。もっと一緒に人生を歩んでいけるような音楽を届けたいという思いはどんどん強くなっていますね。
ーー今のお話が2つ目の疑問にも繋がるのですが、今作は「ファンの方と共有したいメッセージを込めた作品」とのことです。なぜこのタイミングでそういった作品を作ろうと思われたのでしょうか。
Ms.OOJA:やっぱり、ファンの方と距離が近くなったというのは大きいですね。コロナ禍で物理的にファンとの距離が遠くなってしまいましたが、配信をやったり、テキストでメッセージを送ってくれたり、心の距離は逆に近くなったんです。そしてコロナ禍が明けて物理的にも近くなったことで、ファンとのあらゆる距離が縮まったからだと思います。
ーー最初にMs.OOJAさんのライブを拝見した時点で、「お客さんとの距離が近い!」と思った記憶があるのですが、それよりも近くなっている?
Ms.OOJA:そう! 最近やった全曲リクエストライブなんてすごいですよ。その場で「なんでMs.OOJAのことを知ったの?」「いつ頃知ったの?」という話をして、その方々が選んでくれた曲を歌うという(笑)。お客さんは10人だけだったのですが、当選しなかった方もそのやり取りを聞いているだけで楽しいと言ってくれていました。我ながらいいライブを思いついたなと(笑)。
ーーそういったファンとの関係性を築いたからこそ、『最終回』ができたと言っても過言ではないのですね。
Ms.OOJA:あとは「私が音楽でみんなを引っ張っていきたい」という思いもあると思います。「聴いてくれる皆さんを元気にしたい」「これからの人生も一緒に歩んでいこう」というメッセージも込めて『最終回』を作りました。

「最終回があると思うからこそ幸せに生きていける」
ーーでは、楽曲についても聞かせてください。まず、リード曲「最終回」から。こちらはsoundbreakersの大野裕一さんが“最終回”というテーマを提案されたそうですが、そのテーマを聞いた時にどう感じられましたか?
Ms.OOJA:めちゃくちゃいいなと思いました。「確かに!」と思いましたし、その視点はなかったとも思って、絶対伝えなきゃいけないと感じました。作っている時はリード曲にしようとまでは思っていませんでしたけど、アルバム全体の曲が出揃った時に、「これしかないよな」と導かれた感じがありましたね。
ーー改めて「最終回」の意味をお聞きしてもいいですか?
Ms.OOJA:私たちは人生の中でいろんな“最終回”を迎えて、それを見送りながら生きています。すぐ忘れてしまうような最終回もあれば、ずっと心に残る最終回もあって、それは年齢を重ねれば重ねるほど増えていくもの。だからこそ強く、優しくなれるし、最終回があると思うからこそ幸せに生きていけるんですよね。ネガティブな意味だけではなく、「最終回があるから今の自分がある」という意味も込めて作った楽曲です。
ーーそういったメッセージのもと作られた楽曲ですが、制作はどのように進めたのでしょうか。
Ms.OOJA:芸森スタジオで合宿をした時に、大野くんがトラックを持ってきてくれていて。そのトラックに対して、ピアニストのクレぴょん(クレハ リュウイチ)とともにメロディと歌詞をつけていきました。いつもスタジオで作っているのですが、外の景色はほとんど見えないんですよ。でも、せっかく芸森スタジオにいるから外の景色が見たいなと思って、ゲストルームで外を見ながら作業をしてみました。ちょうど雨上がりだったのですが、歌詞の冒頭にあるように窓に雨粒が残っていて、その向こうに木々のざわめきがあって、雲が動いていて。その景色を眺めている時に「今見ている景色と同じものはもう二度見られないんだろうな」と思いました。その儚さを感じていたら、自然と言葉が溢れてくるんですよね。気づいたら涙がバーッて出ていて。クレぴょんを見たら、クレぴょんも泣いていました(笑)。
ーーその場所だから出てきた言葉とメロディだったのですね。
Ms.OOJA:そうなんです。芸森スタジオのゲストルームって、かつて坂本龍一さんがずっと使われていた部屋なんですよ。そういう空気感もあったのかなって。というのも、イントロを聴いた時に「坂本龍一さんっぽい」とおっしゃる方が多かったんです。スピリチュアルじゃないけど、その場所、その人としか共鳴できない瞬間ってあるんだなと感じました。

ーーおっしゃる通り、自然の壮大さを感じられる歌詞になっていますが、この歌詞を活かすためにサウンド面で行った工夫もありましたか?
Ms.OOJA:というよりも、このサウンドだったからあの歌詞が生まれたという感じですね。トラックを聴いた時に、絶対景色を見ながら書いたほうがいいというインスピレーションがありました。
ーー芸森スタジオだからこその作り方だと。
Ms.OOJA:そうそう。もちろん東京で曲を作ることもありますが、この曲は芸森スタジオの景色が見える曲になったと思います。
ーーMs.OOJAさんは芸森スタジオで楽曲を作ることが多いですよね。環境は一緒なのに、まったく違う楽曲ができ上がるのが不思議だなと思います。
Ms.OOJA:作るメンバーが違うということもありますが、季節や天気によっても全然違うんですよ。雨が降っていたり、曇りだったり、雪が降っていたり……曲って天候に影響されるんですよね。面白いですよ。