倖田來未は“QUEEN OF LIVE”となぜ呼ばれるのか 下積み時代から磨き上げたパフォーマンスと愛され続ける人間性

ギリギリまで攻めたセクシーな衣装、ダンス、歌詞で「エロかっこいい」というオリジナルワードを日本中に浸透させた歌手、倖田來未。彼女は「エロかっこいい」のスタイルで、大胆に生きることの楽しさ、魅力を提唱し、旧来的な価値観を前進させた。そして瞬く間に若者たちの心をつかんでいった。特に同性の支持は熱烈なものがあり、女性から見ての憧れの対象を指す「ガールクラッシュ」の先駆的存在とも言えるだろう。
ただ、意外にもブレイクするまでに時間はかかった。2000年11月にシングル曲「TAKE BACK」で全米デビューを果たし、翌月には日本デビュー。しかしCDのセールスはあまり伸びなかった。加えて、事務所の方針によりテレビ出演は制限され、クラブでパフォーマンスする日々だった。倖田は当時について「10年も歌えたら最高だろうって思っていたんです。だって、“3年で3枚アルバム出して売れなかったら引退”って言われてたから」「この先いつまで歌わせてもらえるんだろうっていう気持ちがずっとあったんです」と、“戦力外通告”への怯えが常に近くにあったと話している(※1)。
そんな倖田にとって起死回生の1曲になったのが11thシングル『LOVE&HONEY』(2004年)だ。同シングルには、庵野秀明監督による映画『キューティーハニー』(2004年)の主題歌である人気アニメソングのカバー「キューティーハニー」が収録。それを機にテレビ出演が増え、「エロかっこいい」のキャラクター像を押し出し、それにふさわしいダンスパフォーマンス、ルックス、歌い方を見せ、世の中にセンセーショナルなインパクトを与えた。
エンターテインメント性の高いライブを実現する倖田のパフォーマンス力
そんな倖田に対し多くの人は、“イケイケ”な印象を持っているのではないか。ただ筆者が倖田にインタビューをおこなったとき、彼女は「(自分は)実はすごく守りに入りたいタイプなんですよ」と自分について口にし、「『エロかっこいい』というテーマにしても、デビューをしてそれを確立できるまでの間、批判的な意見がとても多くて。心が折れかけるときも、もちろんあった。だけど『自分が格好良いと思えるなら、それでええやん』と貫き通して、『倖田來未=エロかっこいい』が出来上がりました」と語っていた(※2)。
不安や葛藤に襲われても、ブレることなく「エロかっこいい」を貫き、やがて自分のものにしていった倖田。しかしそれが一過性のブームで終わらなかったのは、彼女が“QUEEN OF LIVE”と呼ばれるほど、圧倒的なライブパフォーマンス力の持ち主であることにほかならない。
基盤にあるのは前述したように、デビューしてずっとクラブという生身の現場で切磋琢磨した経験。クラブという場所は、彼女に興味がない客がほとんど。目の前に多くの“無関心”が広がる環境の中、倖田は一人でも自分に目を注がせるために奮闘。そこで自力を身に付けた経験が倖田を支え、その後のパフォーマンス力に繋がっている。
筆者は2019年11月8日、倖田のライブ『大阪文化芸術フェス2019 KODA KUMI LIVE JAPONESQUE re(CUT) 』(COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール)を取材したが、そこではエンターテインメントの最高峰を見ることができた。「So Nice」(2012年)で花魁に扮して花魁道中を再現しながら歌う妖艶さには、うっとりさせられた。hideの名曲のカバー「ピンクスパイダー」(2013年)では、命綱なしで鳥かごのセットの上に立ってそのままリフトアップ。鳥かごは高度を上げるにつれて揺れが大きくなるが、まったく動じることなくパワフルな歌声を聴かせた。それは体幹の強靭さと優れたバランス感覚、そして相当強い脚力がないとできないこと。余談だが、この日の倖田のパフォーマンスがあまりに素晴らしかったため、筆者は仕事でありながら、彼女のTシャツを2枚購入した。すごいライブを見せてくれた倖田への感謝を、グッズを購入することであらわしたかった。それくらいのライブだった。
そういったエンタメ性を極める大規模ライブのほか、近年はフルオーケストラコンサートやビルボード公演など、ボーカリストとしての高いスキルを存分に発揮できるステージにも挑戦している倖田。ライブに対するストイックな姿勢は25年間ずっと変わらず、“QUEEN OF LIVE”の肩書きに恥じないトップパフォーマンスを見せ続けている。
また筆者が鑑賞した2019年の公演をはじめ、倖田のライブはドラマ性に富んだものが多い。そのドラマの背景にあるのは、倖田のファンを指す「倖田組」への想いだ。倖田のライブには、長年彼女を応援するファン、親子揃ってのファン(母親&娘の組み合わせが多い)、新しいファンなど、非常に幅広い。ライブでは、自分にエールを送り続けてくれるファンへの感謝を必ず口にする。そして人目を気にせず涙する。そういう倖田の感情の豊かさが、ライブをドラマチックにしていくのだ。