トゲナシトゲアリ、2部構成ライブで見せた現在の最高地点 日本武道館に夢を繋げたパシフィコ横浜公演

昨年春に放送されたTVアニメ『ガールズバンドクライ』劇中の主人公たちによるバンドと連動するリアルバンド、トゲナシトゲアリ(トゲトゲ)が2月7日、『トゲナシトゲアリ 5th ONE-MAN LIVE “鳴動の刻”』を、神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールにて開催した。昨年から美怜(Dr)、凪都(Key)が活動休止中であり、この日も理名(Vo)、夕莉(Gt)、朱李(Ba)の3人にサポートメンバーを加えた5人でライブを展開。真ん中に休憩を挟むかたちで、前半戦はTVアニメ『ガールズバンドクライ』の放送前に発表された楽曲、後半戦はTVアニメ放送以降の楽曲という2部構成によって、アンコールを含めた全21曲が披露された。また9月に日本武道館公演を開催すること、10月に劇場総集編が公開されることなど、ファンにとって嬉しい報告も発表された。

会場に響き渡る観客の手拍子に乗って、ステージに登場した夕莉、朱李。最後に理名が登場し、アカペラでデビュー曲「名もなき何もかも」のワンフレーズを熱唱すると、一気に大歓声で沸いた会場。それを合図に豪快なバンドサウンドが続くと、会場が一斉に沸き立った。「極私的極彩色アンサー」では、理名が「ヨコハマー!」と叫ぶ。客席からは曲に合わせてクラップが響き渡り、〈ハイ!ハイ!〉と勢いよく掛け声が飛んだ。



最初のMCでは、会場の印象やライブタイトルの“鳴動”の意味などを説明しつつ、朱李節が観客を翻弄した。「ホールということで椅子があるので、今のうちに座って体力を温存しておいてくださいね」と、最初は優しい口調だった朱李。しかし「“鳴動”って、大きな音を立てて揺れ動くことなんですよ。それ、ちゃんとできるんですか? やれんのか!」と徐々に口調が荒ぶり、挙げ句に「なに座ってんですか、誰が座っていいって言ったんだよ!」と、理不尽なMCで会場を沸かせる。全席指定のホール会場で最初はメンバーだけでなく、観客もどこかかしこまって緊張していた様子が、朱李の理不尽MCのおかげもあって、気がつけばこれまでのスタンディング会場のような熱気に満ちた空気が出来上がっていた。


クリスタルのかけらのような映像をバックに演奏した「傷つき傷つけ痛くて辛い」は、最後にバッと全員が一斉に後ろを向く演出にドキッとさせられる。「黎明を穿つ」では、間奏で理名が1本2本3本と指を立てると、その本数分のキメが打ち鳴らされる演出の他、夕莉と朱李が向かい合って演奏する様子も印象的だった。


MCでは「広島から上京したばかりの頃は、レコーディングとかアフレコとか、いきなりいろいろ始まるし、何が何だか分からなくて、うわ〜ってなりながら壁を乗り越え、本日ここに立っています」など当時を振り返った理名。またあるMCでは朱李が、「そんな理名は東京に出て来たばかりの頃、一人でおうちに帰れなくて、必ずスタッフやメンバーに送ってもらっていたんです」と明かす場面も。アツい演奏と、ちょっとユルいトーク。その絶妙なアンバランスさもまたトゲトゲの魅力だ。


前半戦の最後は、4曲を一気に畳みかけた。鬱屈とした雰囲気から、メロディアスなサビへと展開し、最後にパワフルなロングトーンを響かせた「理想的パラドクスとは」。爽快さのある「運命に賭けたい論理」は、間髪入れず青空と白い雲の映像をバックに演奏。クールに黙々とギターを弾く夕莉は、周りの音に集中するかのように目を閉じて演奏する場面も。赤いライトに照らされて妖しげな雰囲気も纏った「サヨナラサヨナラサヨナラ」では、早口で一気にたたみかけるようなメロディを歌う理名からときおりブレス音が漏れ聞こえ、ボーカルの難易度の高さがうかがえた。掛け声、クラップだけでなく、こぶしを振り上げながら〈爆ぜて咲いた〉と観客が一緒に歌った「爆ぜて咲く」。朱李はベースを高く掲げたり、スラップやタッピングなどの多彩なテクニックを披露。ステージを動き回りながら朱李と理名がすれ違ったとき、理名が朱李の背中をポンと叩いてコミュニケーションを取っていたのも印象的。バンドを組んでから二年という月日は決して長くはないが、どれだけ濃密だったか、どことなく感じ取れた瞬間だった。