Number_iの音楽を支えるSHUN(FIVE NEW OLD)が語る、「ギリギリのラインを攻めることができる」理由と濃密な一年

2024年1月1日にデジタルシングル「GOAT」で世界同時配信デビュー、そこから瞬く間にメインストリームに駆け上がったNumber_i。そんな彼らの楽曲を多く手掛けるのが、FIVE NEW OLDのSHUNである。「GOAT」という彼らの代名詞ともなった楽曲は、SHUN、MONJOE、Pecoriからなるプロデュースチームで制作されたものであり、この曲からNumber_iが世界へと羽ばたいたと言っても過言ではない。
2024年の音楽シーンを沸かせた、影の立役者でもあるSHUNは、Number_iの3人をどのようにとらえ、どのようなアプローチで楽曲を生み出しているのか、そして、彼自身どんな一年を送ったのか――。FIVE NEW OLDベーシストとして、プロデューサーとして駆け抜けた濃密な一年について、話を聞いた。(三宅正一)
バンドと個人仕事、バランス感覚を新たにした2024年

――SHUNさんはFIVE NEW OLDの活動のほかにも個人ではNumber_iのプロデュースなど、2024年は多忙を極めた一年だったと思います。休むタイミングはあったのかなと思うんですが、いかがですか?
SHUN:ずっと地続き的にやっていたんですけど、「休みます」と宣言をしたので、去年のほうがしっかり休むことができました。というのも、オン/オフのスイッチがわからなくなって、リフレッシュしなきゃやっていけなくなったんです。だから、携帯にもほぼ触らず、山奥のほうで2、3泊したりしてましたね(笑)。
――逆に言えば、このままだとダメだと思うほど濃密な時間だった。
SHUN:そういう感情もありましたし、どちらかというと2023年は今まで築いた関係値があったうえでのお仕事も多くて、自分の役割も理解していた。でも、2024年はNumber_iの制作があったりして、どこまでを自分がやるべきなのかがわからず、結果すべてに関わってしまうような部分もあって。やりすぎた、というか、そのバランス感覚や時間の使い方がわからなくなったんです。
――そんななか、FIVE NEW OLDとしての2024年はどんな一年でしたか。
SHUN:バンドとしては『HIGH CARD』(TOKYO MXほか)のアニメのオープニング主題歌を「Trickster」(2023年)、「Showdown」(2024年)と、2作連続で担当させていただいて。そのリリースが1月にあったものの、HIROSHI(Vo)くんの鼻の手術もあったりで2024年の前半は従来とは異なる活動ペースでした。彼の休養と回復を考える時間のなかで曲作りをしなければいけないという気持ちはありながらも、メンタルも含めて絶好調とは言えない状態が2024年の前半。だから、倉庫兼制作部屋を借りて、制作部屋のDIYをしていました。壁を塗ったり、吸音材を貼ったり、今後曲を作るために快適な場所を作ろうと作業をしていました(笑)。
――いつか場所を作ろうというビジョンがあったんですか?
SHUN:以前にもガレージを借りて倉庫兼制作場所として使っていたんですけど、冬は寒いし、夏は暑いし、ということでだんだんみんな集まらなくなってきて(笑)。だったら、ちゃんとみんなが集まれる場所を作ろうということで、去年作ったんです。
――そこでプリプロダクションをしたり?
SHUN:そうですね。曲作りやメンバーで集まったりもしますし、FC向けに行っている月イチの配信もそこでやっています。
――バンドの流れとしては、3月19日には、初のベストアルバム『FiNO is』をリリース。今はニューアルバムに向けた楽曲制作に着手してる?
SHUN:それはそうなんですけど、闇雲に作っても仕方ないという時期にもなっているというか。これまでにメジャーで4枚のアルバムをリリースしてきて、その焼き増しになってもという気持ちもあるし、誰に届けるのかも含めて一旦迷走期に突入してしまった。もちろん楽曲はレコーディングしていますし、いいなと思う曲もあるんですけど、果たしていまのタイミングで出すべきなのか、そういったことも含めて去年はずっと試行錯誤していました。
FIVE NEW OLDはまだ知られていないマイナースポーツのような存在

――FIVE NEW OLDは今後どういう音楽像を軸にして、どこに発信していくのか、射程はどういう位置付けなんですか。
SHUN:そこが難しくて……。これまで自分たちが思っていたファン層が、コロナ禍以降で印象が変わってきたりしていて。若い子たちも増えてきたんです。それはアニメの主題歌を担当したことも理由だと思うんですけど、そういった新しい層が入ってくるなかで、もちろん今までのファンの方を大事にして作りたいし、作ることを前提には考えていますけど、新しく入ってきたファンの方にはどう楽しんでもらえるのか、「Showdown」というアニメの曲をきっかけに入ってきてくれた人たちは、どこまでついてきてくれるのか。そのさじ加減が難しくなってきたんですよね。
――では、まだその悩みの最中にいる。
SHUN:一年間そういったことを考えながら活動してきて今思うことは、別にそんなことを気にしなくてもいいっていうことでもあって。自分たちが「こうだ」と思うものをリスナーの方は聴きたいし、待っていてくれる。だからこそ、自分たちが自信を持って「今はこれがいいよね!」と、1stアルバムの時くらいの勢いや初期衝動で「やりたい」と思うものを前提に考えないといけないなと思っています。アウトプットがどんな形になるかはわからないですけど、根底はそこが大事だなと。
――それは、メンバーの総意ですか?
SHUN:みんなマインドの部分ではそうですけど、HIROSHIくんはまだ少し悩みながら、ですかね。でも、メンバーであり、もともとアレンジャーとして入って、俯瞰でバンドを見てきた僕からすると、すごく悩んでいるけれど、まもなくいいものができそうだなと思います。いかに枯れるかが大事だったりもするので、彼がもう少し枯れ切ったらポンっといいものが生まれる気がする。だから、もう少しですね(笑)。
――2025年は結成15周年イヤーでもあります。SHUNさんがバンドに加入して8年くらいですかね?
SHUN:はい。8年くらいなので、(15年の)半分はバンドのメンバーとして過ごしていますね。
――その前はアレンジャーとして関わっているので、トータルで10年くらいはバンドとともに過ごしているわけで、10年経つときっといろいろありますよね。
SHUN:(笑)。でも、本当にそうですね。最初は今とは異なるスタイルでしたし、ポップパンクをやっていましたから。
――そこを考えるとさまざまなことを経た感じがしますけど、スタイルが変わってからは海外と時差のないバンドサウンドであり、ポップサウンドと向き合ってきたバンドだと思いますし。それは今後も変わらないことだと思いますけど、SHUNさんは今後のバンドをどう見据えていますか?
SHUN:裾野を広げて音楽を作っていると、どうしても芯がぼやけてしまうことが多いなと思っていて。いわゆる音楽オタクの集まりで音楽が大好きなメンバーが作っているからこそ、うちのバンドはとても音楽的だし、それをすごく伝えたいし、その部分がなかなか伝わっていないことにギャップを感じたりもしている。ただ、僕は一貫して、FIVE NEW OLDはまだ知られていないマイナースポーツのような存在だと思っているんです。
――なるほど。
SHUN:たとえば、カーリングはすごく地味なスポーツと言われていたのに、マイクをつけたり、見せ方や解説を華やかにすることで、国民的な人気スポーツになりましたよね。見せ方やルールがわかった途端に面白くなる、僕らもそんなバンドだと思っていて。その方法として、あの手この手でポップなものを作ったり、いろいろと挑戦している段階ではあるんですけど、そうなってくると音楽的な部分をどこまで維持しつつ、こだわりながら伝えていけるか、その塩梅はもう一度考え直さないといけないな、と。「これがやりたかったよね」というメンバーの総意はブラさずに、この先も伝えていけたらいいなと思います。
――では、次にリリースするニューアルバムがターニングポイントにもなってくる。
SHUN:ターニングポイントにしないといけないと思っています。