韓国の3ピースバンド・wave to earth、新作携え再来日 心地よい音の波をアジアから世界へ

wave to earth、来日公演レポ

 韓国の3ピースバンド・wave to earthがニューアルバム『play with earth! 0.03』を携えたワールドツアーの一環で再来日。1月21日にZepp DiverCity (TOKYO)でワンマンライブを開催した。昨年は“韓国のグラミー賞”と称される『韓国大衆音楽賞(Korean Music Awards)』で「今年のアーティスト」にノミネート。彼らの他にはNewJeans、Beenzino、Silica Gel、JUNG KOOK(BTS)、Carina Nebulaという人気・実力を兼ね備えたアーティストが並び、高い支持を得ていることがわかる。また、昨年のワールドツアーでは北米ツアー2万枚以上のチケットが完売。今年6月にニューヨークで開催され、タイラー・ザ・クリエイターやオリヴィア・ロドリゴがヘッドライナーを務める『The Governors Ball Music Festival』への出演も決定しており、活動開始からわずか5年で全世界が注目するバンドに成長した。この日も日本のファンはもちろん、会話やメンバーへの熱い声援から韓国の他さまざまな国籍のファンが参加していたことがリアルに見てとれた。男女ともに20代が大半だが、K-POPや洋楽リスナーも混在する最近のフェスに似た様相も呈していた。

wave to earthライブ写真
キム・ダニエル
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チャ・スンジョン
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シン・ドンギュ

 自身の音源が開場BGMとしてうっすら流れる中、その連なりでさりげなくメンバーが登場するという自然体のスタート。メンバーのDaniel Kim(キム・ダニエル、Vo/Gt)、John Cha(チャ・スンジョン、Ba)、Dong Kyu Shin(シン・ドンギュ、Dr)に加えサックス兼ギターとキーボードの5人編成だ。SEにリアルの演奏が重なり「are you bored?」が本格的に始まると、揺らぎを含んだ大きなグルーヴに包み込まれる。続く「play with earth!」は主に鍵盤に80’sフレーバーを感じるノスタルジックなナンバーだが、なにしろダニエルのボーカルが作り出す感情と情景の喚起力がすごい。スマホのカメラを向けながらも演奏に聴き惚れているオーディエンスが大半で、驚くほど誰もが立ち尽くしている。ダニエルの日本語はかなり流暢で「この曲知ってる?」とイントロを爪弾く様子の近しさはZeppクラスの箱とは思えない親密さを醸す。そうして「peach eyes」、「bad」と溢れるメロウネスやネオアコにあったような爽快なソウルのエッセンスが融合した曲たちは音源のある種ローファイなタッチを大きく凌駕するダイナミズムを孕んで、バンド名や曲名通り、地球と遊ぶグルーヴといった感じだ。みずみずしさと少しの懐かしさを含むメロディ、概ね70~90ぐらいのゆったりしたBPMはMZ世代にとって何よりの癒しなのだろう。最初のブロックをバンドが最新アルバムの中でもお気に入りだという「beck.」までゆったり、しかし一気に演奏した。

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 煽るようなMCはなく、率直に再来日を果たした喜びを伝えるMCでは、ダニエルの「バンドを始めて6年ぐらいなんですけど、最初から一番行きたかったのは東京です。バンドを始めた理由がELLEGARDENなので、日本への感情は強くなりますよね」といった言葉に、日本人リスナーから驚きの声が上がる。ジャンルは違えど、彼が突出したギター&ボーカルであることの裏付けだと納得した。

 意味が掴めなくても声の表情で涙が出そうになる特質を持つ彼の真骨頂がアカペラ始まりの「slow dive」で極まってくる。サポートギタリストとのユニゾンギターの繊細さ、間奏でエモーションが溢れ出るギターソロは構成としてはオーセンティックですらあるのに一切の古さを感じない。というか、新しい・古いの二項対立が意味をなさないほど、今この瞬間の感情をプレイにアウトプットしているからだろう。ドンギュのスローなキックとリムショットがジャジーな「holyland」では歌に寄り添うサックスのソウルネスも際立つ。しかもスローバラードだと思って浸ってるとプログレやフュージョンに近接するコード感で空間が拡張していく意外性も。心地よい音の波に揺られ続けることこそがwave to earthの無二の体験だ。ムーディな曲でのダニエルの歪む声が印象的だったのは喪失感をテーマにした「homesick」で、ブルージーに傾きそうな曲調をコーラスのSEや揺らぐピアノの旋律で現実離れした聴感に転化する。ジャンルが無化され途方もない空間を作れるのもこのバンドの特徴だろう。内面にダイブするような名演が続く中、ギターのボリュームつまみで揺らぎを表現する出だし、そしてゆっくり上昇していくリフに大きな歓声が上がったのが人気曲「love.」。恋愛はもちろん、異なる人間同士が分かりあうことの奇跡によって癒される主人公が想像される歌詞が呼吸を合わせる演奏で共有されていく。ダニエルのロングトーンは心の奥底からの声だ。このバンドに対しての知識を持たなくても伝わる歌の強度に圧倒された。

wave to earthライブ写真

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 ドンギュもスンジョンも日本語で懸命にMCをしてより温かなムードに満たされたところで、イントロのメロディをシンガロングするように促し、「pueblo」を披露。ウォール・オブ・サウンドに包まれた後は意外なブギー調のリフとリズムを刻み始め、同時にメンバー紹介。そのまま「annie.」に突入し、曲中ではオーディエンスが「F**k you.I am saying」を叫ぶ場面も。ハングルで“アニ”はノーの意味でもあり、マイペースなバンドの姿勢を歌うこの曲はちょっとしたアンセムのようでもあった。

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 さまざまな言語が混ざるアンコールの嬌声も感動的だったが、改めてサポートメンバーも含む全員に水を向けるダニエルとメンバーの温かいキャラクターも心に残る。“かわいいジャガイモちゃん、ポテトボーイ!”と紹介されたスンジョンはもっと日本語が堪能になりたいらしく「誰か東京に部屋を貸してくれ……冗談!」と笑わせたり、サポートメンバーの韓国語をダニエルが訳したり。誠実でユーモラスなコミュニケーションやワードセンスはwave to earthだけでなく、他のKカルチャーにも通じるニュアンスのように思う。「wave」、「seasons」、そして大団円は人気曲「pink」で、アウトロでは熱いインストセッションを展開し、どこまでも音楽至上主義の5人を印象付けたのだった。

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