タイ&韓国ライブ、Zion.Tとのコラボシングル……SIRUP、活発なアジア展開に表れる最新モード
2024年のSIRUPは『POP YOURS』から『日比谷音楽祭』、さらにはアイドルやお笑い芸人も出演するイベントまで、振り幅のあるフェスやイベントに招かれ存在感を示してきた。前例を踏襲するのではなく、自分は何者で何をしたいのか。フェスやライブ1本1本、リリースする楽曲1曲1曲にクリティカルな強度を込めてきた彼の2024年の最終コーナーはタイでの初の海外ヘッドラインショー、韓国での初の単独ライブ、そして韓国のR&BアーティストZion.Tとのコラボシングル「CHEESE CAKE」のリリースだった。
バンコクのライブでも共有された互いをリスペクトする感情
これまでも韓国、タイ、台湾のフェス出演や音楽賞への参加を果たしてきたSIRUP。ストリーミングにより海外のリスナーが増えたことで、単独ライブへの素地ができたことに加え、シンプルに自分の音楽を楽しんでいるファンに会いたいというモチベーションも大きかったようだ。今回のソウルでのライブ中、MCで「今回のアジアツアーはやっとみんなに会えるって意味で、ちっちゃいカフェで話すような距離感でやりたかった」と話した。
最初の公演は11月22日のバンコク。SIRUPにとっては初の海外ヘッドライナー公演だ。ちなみにバンコクはライブハウスの存在はまだ希少。会場のBLUEPRINT LIVEHOUSEは2023年にオープンしたばかりのインディーズアーティストのフレッシュなメッカとして、現地の音楽ファンが集う。アジアツアーはギター、ベースとマニピュレーターを兼任するShin Sakiuraとの2ピース編成。機材と演者のみのシンプルなステージだが、オケが流れSIRUPが登場するだけで華がある。「Need You Bad」でスタートしたライブはリアクションも上々。「Superpower」、「MAIGO」へシームレスに繋ぎ、ボーカルの表現力に都度、拍手が起こる。日本でも入門編と言えそうな人気曲からなるセットリストだが、特にメロウなミディアムの人気の高さを実感したのが「Rain」と「LOOP」。「Rain」のロングトーンには誰もが釘付けになっているし、「LOOP」では〈Round&Round&Round〉でシンガロングが起こり、SIRUPも心地よさそうにフェイクする。
まさに絶好調のまま「Last Lover」、「Ready For You」とウォームでスウィートなソウルでほぼ初めての単独公演とは思えない求心力を発揮。さらに80’sフレーバーなシャープなビートの「MY BAD」ではおのおの自由な乗り方をSIRUP自身も楽しんでいるようだ。新曲「GAME OVER」ではMVでも見せたダンスのムーヴも交えていた。終盤は「No Stress」、「SWIM」でさらにヒートアップし、「GO!!」で盛大なジャンプを巻き起こす。勢いのままにラストソング「Do Well(Shin Sakiura Remix)」まで駆け抜けた。アンコールでも何度も謝辞を述べ、「I'm Blessed」、そして同じ空間で音楽を楽しみ、互いをリスペクトする感情に溢れる「See You Again」がバンコクでも共有されていた。
ソウル公演ではSUMINも登場 フロアを歓喜の渦に
そして12月5日。ご存知の通り、韓国は戒厳令の発令で渡韓そのものが懸念されたが無事開催されることに。会場のmusinsa garageは弘大で最大キャパのライブハウスで、スタンディングなら500名程度の収容力。地元バンドはもとより、海外アーティストの公演も行われている。基本的にバンコク公演と共通するセットリストだが、ソウルはワンマンなので5曲多いトータル20曲を披露した。オープナーに「Need You Bad」を持ってきて、早くもハンズアップした手が揺れる様から、韓国でのR&B、ヒップホップナンバーの人気が窺える。高低差のあるメロディとフロウを歌いこなす「Superpower」、Shin Sakiuraのギターソロに歓声が上がる「Pool」、「MAIGO」とフロアがバウンスしている。7曲目の「Rain」まで一気に畳み掛けたあと、同曲について「初めて韓国でライブをした時、メロウなR&Bだと思って観ていたお客さんが、サビで展開が変わった瞬間、顔を見合わせてテンションが変わったのが印象的で」と話す。「その時から時間は経過したものの『Keep In Touch』できてたんじゃないでしょうか?」と同曲へ。曲中でさりげなくSUMINが登場したため、フロアは大歓喜。彼女の儚く切ない声とSIRUPのシルキーボイスが交差する。共演はもう1曲の「Roller Coaster」でも実現し、SUMINのレパートリーも披露した。さらに代表曲「LOOP」から最新曲「GAME OVER」、ライブのキラーチューン「GO!!」などを盛り込んで、ハングルで「次が最後の曲です」と述べて「Do Well(Shin Sakiura Remix)」と、バンコク同様の展開を見せた。
ソウル公演ならではのスペシャルはライブ前日にリリースをアナウンスしたばかりの「CHEESE CAKE」をワンコーラスのみ初披露。何より同曲がZion.Tとのコラボレーションであることを当地でファンに直接伝えられた喜びが爆発していた。次回は2025年1月18日に台北のライブハウスTHE WALLにて、レーベルメイトの春野との2マンライブが行われる。筆者は今回当日の映像で振り返ったが、その都市ごとのカラーも含めて、SIRUPの楽曲の良さとボーカル表現を各地で楽しむ醍醐味がありそうだ。