白上フブキ×Revo(Sound Horizon)異色の“二国間会談” 文化の壁も越える、音楽エンタメの面白さ

白上フブキ×Revo異色の二国間会談

FBKINGDOMというストーリーを広げていきたい(白上)

僕らの星座/白上フブキ(FBKINGDOM国歌 )

ーーその後、「僕らの星座」はどのようなやり取りを経て作られていったのでしょうか?

Revo:ミーティングを持たせていただいて、そこでお話を伺いました。さきほどインタビュアーさんとの雑談の中でタイアップに関するお話も若干させてもらいましたが、僕としてはこれもはタイアップの感覚なんです。フブキさんは一人の人格ではあるけれども、僕からすると“白上フブキ”というエンタメ作品に捧げる楽曲を作る感覚もありました。なので色々とフブキさんの知らない部分について調べたり、直接お話を聞いたりして、そこで膨らんだものを曲にしていくような形で進みました。原作を書いているのが自分であれ、他人であれ、実在の人物であれ、音楽にするプロセス自体はあまり変わってないかもですね。

ーー白上さんはミーティングの際にどういったイメージを伝えましたか。

白上:実際にRevoさんとお話をすることになり、本当にめちゃめちゃ緊張したんですが、FBKINGDOMという国のイメージを頑張って伝えました。私の国は発足したばかりですが、それでも今の私たちの軸になっているのは、仲良しでみんながそこにいて、ゲームをしたり遊んだりする友達のような感覚で、いまはまだ村のような小さな規模だけど、それを大きな国にしていきたいということをお伝えしました。当日お会いした際には大まかなことしか話せなくて、ミーティングが終わった後に「本当にあれで良かったんだろうか、ちゃんとお伝えできたのだろうか?」と頭を抱えました。……実は、直前までお伝えする内容をパソコンのメモにまとめていたんですけど、間違えてパソコンを再起動してしまいまして……データが吹っ飛んだ状態で「やらかした!」と思いながらお話しすることになってしまい、うまくお伝えできたのか不安で不安で……。でも、その後いただいたデモを聴いて本当に感動しました。全部伝わっていたし、すごくいい解釈をしてくださっていて。涙を流しながら聴かせていただきました。

Revo:フブキさんは「うまく伝えられたか不安だった」とおっしゃいましたが、本人の熱や気持ちが伝わってくればね、こちらとしても曲をひらめくムードが生まれてくるものなんで、大丈夫ですよ。逆に理詰めで国の細かい諸々がね、マニフェストがどうとか、社会保障がこういう形で……みたいな現実的なイメージがありすぎても楽曲にするのが難しいですよね。僕もエンタメの世界の人間なので、エンタメとしての軸がどこにあるのか、それが僕の想像するものと乖離がなければ補強できるといいますか。やっていることの形態が違っても、どこかにファンと呼ばれるような人がいて、その人たちに対する思いやどういうことを提供していきたいのかという軸には共通するものがあるから。

白上:私もホロライブでアイドルをする以上はいろんなエンタメに手を伸ばしたいですし、いろんな活動を通じてFBKINGDOMというストーリーを広げていきたいと思っているので、エンタメとして扱っていただけることがすごく嬉しいです。

ーーRevoさんはこの楽曲は詞先・曲先、どちらで作られたものですか。

Revo:僕はあんまりそういうことって覚えていないんですが、思い出してみますね。まずはプロット……というほど大げさなものではないけど、「曲中でこういうことを表現するべきだ」というようなキーワードを並べて、それを念頭に曲を想像してみるんです。いつもやる方法なので。この曲はサビ始まりかな? というイメージがあったと思います。しっとりアレンジでまず主体となる“私”という存在が生まれ、そこから盛り上げるイメージで楽曲を広げる時、私が繋ぐべき“世界”が生まれてきたらエモいなと。そういう時系列に沿いながらあまり奇をてらうことなく考え始めたんじゃないかな。多分その時点で僕が持っているイメージが普通にスルッと出てきて、言葉と音符が自然と繋がって頭サビができて、その後はもう少し構成を練るというか、どういうキーワードをどういう流れで盛り込んでいくのが一番エモいかを考えて作っていったんだと思います。

 イントロの詞は、こうだったら“エモい”なというものがメロディと一緒に自然と出てきてーーまあ“エモい”という言葉自体もどう捉えるかは人によると思いますがーーこういうストーリーだったら自分も素敵だなと思うし、歌う人も聴く人もみんなが国に対して“エモさ”を感じてもらえるんじゃないかと。あと……これは自分でも言語化できていない部分があって、それをすべて言語化する必要があるのかもわかりませんが、冒頭の〈ハジマリはきっとひとつの願い それを抱いて私は生まれた〉という歌詞。僕、それがVTuberだなと思うんですよ。人は生まれてくるときに何か願いを抱いているわけではなくて、気づいたら生まれているじゃないですか。でもVTuberって、絶対に自分はこういうことをしたい、こういうことを伝えたいという願いや思いがあって生まれた存在だと思うんですよ。この世界に、ある種現実にはないものが、願いの力で生まれている。だから始まりの歌詞はやはりこれだろうと。

白上:そのエピソードが聞けて嬉しいです。確かに私もこの世界に足を踏み入れたとき「こういう自分になりたい」という気持ちを持っていて、そこから始まったと思います。歌詞を読んで自分と照らし合わせても、ファンの目線で読んでいてもあまりにも合っていて、心の中を読まれたんじゃないかという感じです。VTuberというものの世界観を表現してくださっていて、もう本当にすごいの一言でございました。

ーーその後、レコーディングはどんな形で行われたのでしょうか。

Revo:こちらの方で打ち込みのデモを作って聴いていただいて、OKが出た後に必要な生楽器の録音をして、最終的にフブキさんの歌を乗せるときにはこちらのスタジオに来ていただいて、ディレクションしながらレコーディングを行いました。

白上:いただいたデモをたくさん聴きまして「こういう感じに歌おう」というイメージも持ってスタジオに伺ったのですが、いざレコーディングとなったら緊張で全てが吹っ飛んでおりまして、Revoさんのディレクションに頼りきりになってしまったことを終わった後に恥じました。本当にファンなので緊張してしまって、でもこれは自分の歌だから、その気持ちは抑えて歌に向き合おうと思ったんです。ただ自分には経験も技術も足りなくて……。その中で精一杯、この曲を歌い上げたいという気持ちで望みました。パートごとにRevoさんから「もっとこういう風にした方がいいよ」というディレクションをいただいて、素直に実行して。本当に良い楽曲にしていただけたと思っていますが、当日は緊張8割で、後から「もっと自分ってこうだったよ〜!」と自分の太ももをパーンと叩いたりして。

ーー印象に残っているディレクションはありますか。

白上:歌ってる時も本当に緊張していて、あまり感情が乗せられなくて。それをRevoさんに「ここが初音ミクみたいになってるから〜」と言われたのはよく覚えています。自分でも確かに! って(笑)。だからなるべくリラックスして自分らしさを出していこうという気持ちで望みました。

Revo:人間が歌うことには“人間が歌う理由”があると思うんですよ。歌詞をどう解釈してどういう風に表現しようかと考えるところに価値があると思うし、そこに人間のパワーとか魂みたいなものが宿るべきだと僕は考えていて、それをもうちょっと伝えやすいように、「もう少し乗せた方がドラマがわかりやすくなると思うよ」と伝えたんです。たとえば同じようなメロディが2回あった時に、同じように歌うのが良いのか? 明確な意思があってそうなっているなら良いんだけれども、無いんだったら込める気持ちは本来少しずつ違うはずで、それが伝わりやすい表現の仕方があると思うので、何かやってみようと。一応フォローさせてもらいますが、初音ミクさんをディスっているわけではありません。歌っているのと歌わされているのは、似ているようで違うという話だと思っていただければ。

ーーRevoさんは今に至るまで数多くのアーティストのレコーディングに立ち会ってきたかと思うのですが、白上さんの歌にはどういう印象を受けましたか?

Revo:本当に声が“抜ける”というか、人の耳に届きやすい声でそれは誰もができるものじゃない。歌の経験があまりないというお話がさっきありましたが、それ以前に必要な強さ、自分の声で何かを届けることができる人の輝きというか、そういうものを感じました。技術はもっとね、後から付いてくる部分があると思うんですけど、すごく武器になる素敵な声の人だなぁと思って。実際に会ってお話をさせてもらっても、本当にこの声なんですよ。

白上:はい。

Revo:声を作るとちょっと無理をするところが出てくると思うんですけど、それがない。天然物のすごさを感じました。あとは、普段の僕は自分が作った世界に対してボーカルを入れていくので「もっとここはこういう気持ちを入れた方がいい、こういう物語の場面なので」というようなディレクションは結構言う方なんですが、フブキさんの場合は「お任せします」って言うことが多かったと思います。「すこん部の方たちに対しての愛を込めて、もう1回歌ってください」みたいな、ふんわりとしたディレクション!(笑)。でも当たり前だけど、フブキさんは僕よりも自身の世界についてよく知っているわけじゃないですか。それはこちらが想像するよりもご自身の気持ちを前に出してもらうほうがずっと良いと思うので、それをもっとくださいと、そういうことは結構伝えました。

白上:レコーディングはまさにこういう感じで、「こんな思いでやってください」と言われて、そう言われるとすっと入ってくるので、「なるほど、こんなふうに自分を出していいんだ」ということを知って。Revoさんのディレクションを通して、今後の自分の音楽についても学ぶことがたくさんありました。次に歌う時には、もっと自分を出していこうと。歌に関しては素人なので、どこまで自分を出していいのかが本当にわからなくて。でもRevoさんは感情を優先してくださったので歌いやすかったですし、もっと頑張らなきゃなと思えたレコーディングでした。

ーー楽曲の音色はどのように決定したのでしょうか。音色を選ぶうえで指針になるテーマやコンセプトはありましたか。

Revo:打ち合わせの際に「星」というキーワードが出てきたんです。一番星や五芒星、そういうものが自分の世界観の中にモチーフとして存在しているというお話があって。そこから導き出されるワードって、最終的には星座になるんだろうなと。音としても星空が見えるサウンドにしたいなと思い、結構ポップでありつつキラキラした音を意識したと思います。

ーー個人的には、特にドラムの打ち込みが特徴的だと感じました。

Revo:僕は普段自分が作っている音楽にはあまり打ち込みは入れないんですが、この令和の時代にVTuberという先端の存在とコラボして楽曲を作る時に、ちょっとデジっぽい感じ、メカっぽい感じは入れてみたくて。そこに人間の魂のエネルギー、ソウルみたいな部分が融合しているような、そういうものを表現してみたかった。そこで今回は曲の土台となるリズムの部分から打ち込みにしたらいいだろうなと自然に思ったんですよね。

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