詩羽&CENTが語り合う、本当の自分について 「bonsai」で共鳴したふたつの声と正直でいることの大切さ
2023年7月からソロプロジェクトをスタートさせ、11月には東名阪でのライブハウスツアーも成功させた詩羽が、1stアルバム『うたうように、ほがらかに』以降初のリリースとなる新曲をリリースした。その楽曲とは、かねてから親交の深いセントチヒロ・チッチのソロプロジェクト・CENTをフィーチャーした「bonsai feat. CENT」。彼女のソロ初ライブの時からステージにチッチが登場して披露されていた曲が満を持してリリースとなったわけだが、この曲が素晴らしい。詩羽の芯にある思いをストレートに綴った歌詞とアッパーで力強いサウンドに、CENTの歌声と、これまたセントチヒロ・チッチらしい意思のこもった言葉が絡み、曲全体からとてつもないエネルギーが湧き出してくる。ふたりはどんな部分で共鳴し、あるいはどんな部分をリスペクトし合い、この曲にたどり着いたのか。出会いから今作の制作の裏側まで、語り合ってもらった。(小川智宏)
ふたりが感じる誰かと何かを作り上げる喜び
――詩羽さんは今年ソロプロジェクトを始動してここまでやってきましたが、いかがですか?
詩羽:「楽しい」っていうのがすごい純粋な感想で。この前、東名阪のライブハウスツアーをやらせていただいたんですけど、「もっとライブをやりたいな」と心から思えるライブになりましたね。
――チッチさんは詩羽さんの初ライブの時もステージに登場しましたし、彼女の活動を間近で見てきたと思いますけど、どんなことを感じていますか?
セントチヒロ・チッチ(以下、チッチ):私も経験したことですけど、プロデュースされているなかでは自分の思っていることやカルチャーを出しづらい部分もあって。でも、詩羽のソロはすごく詩羽らしさがあって、純粋に、少女みたいに楽しめているのが伝わる。いい/悪いって結構簡単に決められちゃうけど、詩羽がよければそれがいちばんいいと思うので。そういうライブができてるなと感じるし、サポートのバンドメンバーの方たちもすごくいい人で。ちゃんと詩羽らしくいられるようにしっかりサポートしてくれてる人たちなので、めっちゃいいなって思いますね。あと……曲がいい(笑)。
詩羽:やったあ(笑)。
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――もちろん水曜日のカンパネラの詩羽とソロの詩羽というのは全然違う側面だと思いますし、どちらにもそれぞれのよさや楽しさがあるんだと思うんですけど、今こうしてソロをやっているなかで感じる喜びや楽しさって、どういうものがいちばん大きいんですか?
詩羽:バンドができること自体が私はすごく嬉しいですし、誰かとステージに立ってひとつの音楽を奏でるっていうことが今までなかったので。水曜日のカンパネラでは、音が出て私が歌うという流れが当たり前のようにあって、でもバンドでやる時はイヤモニからみんなの、あまりにも自分勝手な音たちが集まってひとつの曲になっているっていう。そのこと自体が私にとってはすごく珍しいことだったので、それをライブできていることを幸せに感じます、誰かと何かを作り上げるということが。
詩羽=簡単じゃない人、チッチ=学びを与えてくれる人
――今回CENTとのコラボ曲「bonsai feat. CENT」がリリースされたわけですが、そもそもふたりはどういうふうに出会ったんですか?
チッチ:最初はテレビで同じ企画に呼ばれて出たんです。あんまり人付き合いがうまくない、友達が少なそうな人が集められるというもので(笑)。だけど、その日は仲良くなることもなく、挨拶程度であんまり目も合わせずに帰ったんですよ。でも私は個人的に詩羽を尊敬してたし、出ていたドラマもすごく好きだったので、「感動した」という思いを伝えようと思ってメッセージを送ったんです。そうしたらごはんに誘ってくれて。
――もともと表現者としての彼女のことはよく見ていたんですね。
チッチ:見ていたけど、仲良くなれるとはまったく思ってなかった(笑)。むしろ(BiSHの)メンバーに置き換えたら、私ではない、ほかのメンバーと仲良くなるのかなと感じていたんです。でも、興味があったから「試しに伝えてみよう」って。そこから、詩羽は私に興味を持ってくれたのかもしれない。
――逆に詩羽さんは、セントチヒロ・チッチのことをどういうイメージで見ていたんですか?
詩羽:BiSH時代は全然詳しくなかったけど、もちろん知ってましたし、テレビとかで見ることもあって。私からすると、女の子のグループで活動してる子たちって、それだけで私ができないことをしている人たちなので、そういう意味でもすごい人たちだなと思ってました。勝手に「明るいのかな?」と思っていたから、私と合うのかどうかは本当にわからなかったんです。でも、話してみたいなという気持ちがすごく純粋にあったので、話してみようと思ってごはんに誘って。はじめは探り探りだったんですけど、チヒロちゃんの素直さが私にはすごく心地よくて。そこからどんどん好きになっていきました。
――最初にごはんに行った時って、どんな話をしたんですか?
詩羽:どんな話をしたんだったっけね?
チッチ:忘れた(笑)。
詩羽:でも、いつも本当になんでもない話をしてますし、お互いのすごく内々の話もする時もありますし。学生の頃に友達がいたらこんな感じだったのかな、というような関わり方です。ずっと仕事の話してるとかでもないし、ただ日常であったことを話したりする。私が叶えられなかった、学生の頃から仲良い友達がいたらきっとこんな感じなのかなあ、みたいな。
チッチ:思ったことは深く喋れるんです。理解し合うとかじゃなくて、自分が今思っていることとか、どうありたいかを普通に喋れるって面白いなあ、と。対談みたいになるよね。
詩羽:たしかにね。定期対談をやってるよね(笑)。意見も全然違うし、価値観も全然違うので、同じトークテーマでも、出す答えが全然違くって。お互いに「なるほど!」と思うことは結構ありますね。
チッチ:詩羽は、はっきりしているようで、はっきりしないところもあって。「あ、ここははっきりするんだ」「でも、ここは違うんだなあ」みたいな。そういう発見が毎回あるんです。だから、自分で今教科書を書いてるんですよ、詩羽の。
詩羽:教科書? 取扱説明書みたいな?
チッチ:そうそう。取扱説明書を自分のなかで溜めていて。「たぶんここは踏み込まないほうがいい」とか「これは別に言わなくていいことだ」と思うこともいっぱいあるし。だから、全然簡単じゃないんです。こんなに簡単じゃない人、初めて見た(笑)。でも、だからこそ自分にとってはすごく成長に繋がってるんだと思うんですよね。普通に生きてると、他人のことは実はあまり考えられてないんだなって気づくし、正解だと思っていることは決して正解ではなくて、別に正解を出さなくてもいいっていうことも気づけるし。ポップなことを歌っていると、やっぱりポップな人に見られてしまうこともあると思うんですけど、全然そうじゃなくて。すごく自分の人生について考えてきたんだろうし、そういうこともちゃんと伝わってくるから。思ったより、すごくしっかりしてる。
――逆に詩羽さんはどうですか?
詩羽:物事に否定的じゃないからこそ、話せることがすごく多くて。いろんなことを教えてくれますね、チヒロちゃんは。自分のなかではごく普通だと思ってたことが、普通じゃないことに気づける瞬間って意外と少なくて。だから「なんで?」と思っちゃうことがあったりするんですけど、でも話していくうちに「私はここがズレていたんだ」とちゃんと気づけることが多かったりして。日常的に学びも多いです。「否定することをしないようにしよう」という考えがお互いのなかにあるし、人と一緒にいて学びが多いということがすごく新鮮だったのかもしれないですね。先輩として見てるわけでもなく、私は友達として見ている。そういう人からたくさんのことを教えてもらえるのって、なかなかないんじゃないかなと思うから。自然な形でいろいろな学びを与えてくれる人だなって思いますね。