「もうBiSHの衣装も作れる気がしない」 デザイナー 外林健太が振り返る、人生を削って縫い続けた彼女たちとの8年間

 BiSHの解散を前にして、衣装本『BiSH COSTUME BOOK 2015-2023』が発売された。約90種、500点以上の衣装を収録した圧巻の作品集だ。そのBiSHの衣装を作り続けてきたのは外林健太。なぜこれほど大量の衣装を、マンネリに陥ることなく作ることができたのだろうか?

 外林のアトリエを訪れ、倉庫の衣装の数に圧倒されながら、BiSHと歩んだ約8年間について聞いた。(宗像明将)

『紅白』衣装は「なかなかのプレッシャーがあった」

ーーBiSHに限らず、WACKのアイドルは外林さんによる衣装とアーティスト写真が多いですが、忙殺されているんじゃないですか?

外林健太(以下、外林):そうですね。BiSHぐらい売り上げてるグループになると、年間で他のグループの倍ぐらい衣装を作ってましたし。

ーー第1期BiSから関わってきて、さらにWACKのアーティストを手がけるなかで、BiSHを他のアイドルと差別化したポイントはなんでしょうか? 肩にツノ、肩パッド、タータンチェックなどの特徴がありますよね。

外林:差別化し始めたのは、けっこうメディアへの露出が増えてからかな。第1期BiSに関しては、自分が面白いと思ってるものしか作ってなかったんです。アイドルでもなければ、ファッションでもなかったような、学祭みたいなものを作ってました。渡辺(淳之介)さんとずっと一緒にやっていて、WACKが成長してから、世の中的な目線も気にして、ファッションや社会性も考えていった面はあります。

 渡辺さんも松隈(ケンタ)さんも、もろ男社会で生きてきて、アイドルなんて興味がない人たちだったんですけど、僕はレディースしか作りたくなかったので、そこをうまいこと擦り合わせて、かわいいアイドルとは違う衣装にしようとしました。WACKには、渡辺さんの好みの「がんばれる女の子」が入るので、特別にスタイルも良くなければ、整った子でもなかったりするんです。なので、露出をひかえたかっこいい服なら、誰でも似合うかなと思って。脚やワキに目が行っちゃうような衣装が、僕は好きじゃなくて。まぁ僕も目は行っちゃうんですけどね、男の性(さが)で(笑)。でも、ロックバンドなら別に脚とか見ないじゃないですか、音楽を聴きに行く感覚があるから。やっぱり渡辺さんの音楽を世の中に広めたいっていう感覚も含めて、そこは重要なところだなと思ってました。

ーー『BiSH COSTUME BOOK 2015-2023』を読んで驚いたのは、衣装のテーマです。「DEAD MAN」は古屋兎丸の『ライチ光☆クラブ』、「NON TiE-UP」は「全身タイツ」、『LiFE is COMEDY TOUR』は『8時だョ!全員集合』、『REBOOT BiSH』は「早稲田カラー」と意外なものが多いですね。

外林:『REBOOT BiSH』は、渡辺さんが早稲田大学で、たぶん代々木(ライブ『REBOOT BiSH』の会場は代々木第一体育館)の予備校に通ってたんですよ。たぶんただそれだけなんですよ、本当に(笑)。

ーー(笑)。そういうお題を楽しんで作っていた部分もありますか?

外林:それはありますね。逆に僕は、お題がないまま何かを作ることができなくて。ゼロ発信ができないって若い頃から思っていたんです。なのでアーティストにもなれなかったし、アパレルブランドも作れなかった。渡辺さんから一言でもいいからテーマをくれたほうが、歌詞も含めて乗っかりやすいし、自分の幅が広がるなと思っていますね。

ーーそうなると、BiSHのデビューライブの衣装はどういうイメージで作ったんでしょうか? 初期はパンクを意識した衣装が多いですよね。

外林:BiSHを始めるときに、渡辺さんはSEX PISTOLSが好きだから、マルコム・マクラーレンになりたいと言っていて。それでSEX PISTOLSの衣装はヴィヴィアン・ウエストウッドだったから、「俺がマルコムをやるから、おまえはヴィヴィアンをやってくれ」と言われてスタートしたんです。なので、SEX PISTOLSの初期の衣装を意識してはいるんです。BiSHは、アイドルとして認知されるだろうなと思ったし、パフォーマンスに関しても踊れる子もいました。だからアイドルとしてのアプローチがあっていいかなと思って、かわいい感じのスカートとかにはなっていたなと思います。

ーー「ヴィヴィアンをやってくれ」と言われて、それに応じるのもすごいですよね。

外林:でも、ヴィヴィアンというより「パンク」と言われていたのがやりやすくて。「ロック」だと、黒と合皮ぐらいしかないから、幅の広いジャンルで気持ち的には楽ではありました。一発目だから、「すごいものを出さないといけない」っていうプレッシャーはめちゃくちゃあったんですけど。

ーー『And yet BiSH moves.』の早着替え衣装は、「本番で失敗するのでは」という不安はありませんでしたか?

外林:むしろ僕はやりたいぐらいで。他のアイドルって、休みを入れて、だいたい2、3着は衣装を着るじゃないですか。でも、BiSHは1着しか衣装がなくて、着替えがなくて寂しいなと思っていたんです。その時は2着作れる嬉しさもあって、ただただ楽しみでやってました。

ーー赤白衣装からの『第73回NHK紅白歌合戦』の衣装も気合いが入ったのではないでしょうか?

外林:気負いはめちゃくちゃありましたね。正直、最後の出場の可能性もあったし、僕の人生的にも今後ないかもしれないので、なかなかのプレッシャーがあったんです。乃木坂46も出てたので、普通にかわいい衣装やかっこいい衣装じゃなくて、ちょっとぶっ飛んだ方がいいかなと思いながらキラキラにしました。

ーー反響を見て、狙い通りの感触はありましたか?

外林:反響というか、本番はカメラがアイナ・ジ・エンドの寄りばかりで、全然テレビ用の衣装を作れていなかったなっていう後悔がめちゃくちゃありました。歌割りもありますけど、半分ぐらいアイナを映してたんじゃないかな。ちゃんと全員の引きもあるんですけど、だいたい胸から上しか映っていないという感じで。

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