詩羽&CENTが語り合う、本当の自分について 「bonsai」で共鳴したふたつの声と正直でいることの大切さ
すごく詩羽のマインドなんですよね、「bonsai」って(チッチ)
――ふたりで音楽をやろうということになっていったのは、どういう成り行きだったんですか?
詩羽:私が「ソロをやろうと思ってるんだよね」という話をして、「一緒に曲やらない?」みたいな感じで誘ったら「やろやろ!」という感じで決まりました。
――初ライブでこの曲はすでに披露されてたわけですけど、ということはかなり最初の段階であったってことなんですか?
詩羽:そうですね。(ソロ名義の)曲作りを2023年の夏にし始めたんですけど、この曲のベースも早めに作ってあって。私のなかでこの曲は、自分ひとりで歌い切るんじゃなくて、誰かと歌いたいっていう思いがあったんです。それでチヒロちゃんとやりたいなと思って、すぐ誘いましたね。
――詩羽さんのなかでこの曲を作るにあたっては、どういうテーマがあったんですか?
詩羽:私が水曜日のカンパネラで仕事をしていくなかで、「天才だ」って言っていただくことが多くて。それはすごくありがたいですし、とても嬉しい言葉なんですけど、それに苦しくなる瞬間もあったりして。自分は「何もできてないのに」と思う瞬間があったからこそ、その言葉の矛盾が苦しくなる時があったんです。でも、みんなが言ってくれる「天才」という言葉は嘘じゃないし、自分が受け入れなきゃいけない言葉だなとも思っていました。だけど、自分が自分のことを「何もできないな」「凡才だな」と思っちゃうところもまた、自分が受け入れ続けなきゃいけないことだなあ、って。そこで「じゃあ私って、何にもできないけど天才なんじゃないかな?」みたいな考えになった瞬間があって。人に褒められたり、人に「すごいね」って言われることで苦しんでる人もいるかもしれないけど、「何にもできないかもしれないけど、天才は天才だ」くらいの気持ちで受け止めたほうがいいんじゃないかな、という感覚になったので、このテーマにしてこの歌詞にしました。
――サビが〈私は凡才〉っていうパンチのある言葉から始まるんですけど、曲全体のなかでそれが謙遜でも諦めでもなく、ポジティブなムードを纏っているのが印象的で。普通「私は凡才だから」って言うと、なんかネガティブな響きになりそうなんだけど。
詩羽:うん。めっちゃポジティブな気持ちで書いてました。
チッチ:歌詞を受け取って、最初は「どういう意味だろう?」ってすごく考えて。結果的に詩羽に聞きました、「どういう意味なの?」って(笑)。私も同じような経験はあるんだけど、100%わかる感じではなくて、お互いが同じテーマのもとで共存するのがいいかなと思ったし、やっぱりすごく詩羽のマインドなんですよね、「bonsai」って。だから、私がそこに味玉みたいな感じでいられたら、と思って。
――トッピング的な(笑)?
チッチ:でも、それってラーメンもおいしくなるじゃないですか。
――あるとないとじゃ大違いですからね。
チッチ:そういうふうにありたいなと思ったし、私は天才じゃないんだったら秀才になるしかないとも思っていたから、「凡才ってなんだ?」って最初感じたんですよ。「凡才」って私ももうちょっとマイナスな言葉だと思ってたので。でも、詩羽が書き上げた歌詞は、いろんなことを経験してきて、今も嫌なことはめっちゃあるけど、「私って天才じゃない?」と思えているのかな、みたいな。そこまではなれていなくても、ちゃんと自分を好きでいられてるんじゃないかなって感じたから、詩羽らしいなと思いました。
自分で「私、ゴリ押しらしいよ」ってもう言ったろ!みたいな(笑)(詩羽)
――でも、今チッチさんは「味玉」といいましたけど、僕はちゃんとスープのなかにCENTも溶け込んでいる気がしましたけどね。
チッチ:やっぱり共通する気持ちは乗せたくて。私の歌う歌詞の冒頭の〈わかりたくもないよ/普通って何だ/聞きたくもないんだ/ただの正論〉というのは自分も常日頃思ってるし、きっと詩羽も感じてるんじゃないかなと思った言葉なので、入れたかったんです。私もBiSHを経験して、ソロでやっていくなかで感じる葛藤もあったし、でもそのなかで詩羽と出会ったことで変わった何かがあるということを書きたかった。だから、歌ってる時はすごく感情が乗るなと思います。
――チッチさんも詩羽さんもすごく感情がこもっているし、普段思っていて、でもなかなか大っぴらに言いづらいことを歌詞の形で言い切ってるような感じがします。普段からいろいろな話をしているふたりだからこそ、お互いに引き出された言葉もあるんじゃないかなって。
詩羽:そうですね。一緒に歌う相手がチヒロちゃんじゃなかったら、私もこの歌詞は書けないなっていう瞬間があったので。自分にとってすごく意味のあるというか、世のなかよりも先に自分を優先することが意外と難しかったりするんですけど、それができた曲かなって思いました。
――〈私はゴリ押しらしい〉っていうラインは、普通書けないですもんね。
詩羽:これは私が実際に言われたことあるから歌詞に書いたんですけど、この仕事してる人たちって、そう言われてる人が結構いて。それってなんかおもしろいなと思いますし、自分で「私、ゴリ押しらしいよ」ってもう言ったろ!みたいな(笑)。言っちゃいけないみたいな雰囲気があるじゃないですか。こっち側が触れちゃいけない、というか。その空気を誰が作ったのかよくわからないけど、みんなの作った常識でそれを壊したい。壊すなら、曲でしかできないことたくさんある。私が普通にこうやって話すのと曲で「♪私はゴリ押しらしい〜」くらいの気持ちで言うのじゃ全然違うけど、言葉としてはすごく強いものだから。
――そことか、チッチさんの〈未来に期待したいから/隠していらんないわ〉というところとか、すごく本音の部分、正直な部分で生きていきたいっていう思いがすごく共鳴してる感じがして。それがこの曲のエネルギーになってるなって思いました。すごいポップな曲だけど、反骨精神というか反抗心というか、そういったものがすごく出ている曲になりましたよね。
チッチ:大人の反抗期ですね。
――しかも、それが切迫感とか怒りとかじゃなくて、楽しさとかポジティブなバイブスで歌われてるっていうのがかっこいいですね。
詩羽:私は本当に明るいテーマで作っていたので。歌詞のなかには嫌な言葉がたくさん出てくるんですけど、でも、それに対して怒ってるわけでも悲しんでるわけでもなく、それを受け入れたうえでわざと言ってるおもしろさとかポジティブさだったので、楽しい曲がよかったっていうことがいちばん大きかったですね。
――笑い声とかめちゃくちゃ入ってるし、雰囲気がすごく伝わってきます。
詩羽:いちばん最後に入ってる笑い声とか、曲のなかに入ってる掛け声とかは、やっぱり愛情をたっぷり込めたかったので。やっていくうちに楽しいものが、より楽しいものになっていったなって思います。
――歌は一緒に録ったんですか?
詩羽:レコーディングは同じ日に録って、最後にその掛け声とかをレコーディングして。やったあとに「よかったんじゃない?」と話しているところまで、そのまま入れました。
――チッチさん、レコーディングはどうでした?
チッチ:びっくりしました。詩羽のレコーディングのスピードが速すぎて。「え、もう終わった?」って。
詩羽:私は迷わないんです。すぐ「これで行きまーす」みたいな感じでやるんです。でもチヒロちゃんは逆で、「これでいいのかな?」って悩みながらやる。レコーディングも真逆のタイプでした。私が先に録ったんですけど、私がもう秒で終わっちゃって。
チッチ:私は絶対3テイクは録るんです。でも、詩羽は1テイクで終わる時とかもあるんですよ。「本当にそれでいいの?」って(笑)。BiSHのレコーディングの仕方に慣れてるっていうのもあるから、「こういうのもあるんだ!」と思ったし、久しぶりに人とレコーディングして、すごく楽しいなって思いました。
――BiSHの時はもちろん何テイクも歌って、そのなかからプロデューサーが選んでくれたわけじゃないですか。でも、CENTでは自分でジャッジする場面が増えて。そういう変化はレコーディングのやり方に反映されていますか?
チッチ:だからこそ、時間かかるんです。「もうちょっといいのができるかも」と思って時間がかかっちゃったり、曲によってはめっちゃ早く終わったり。本当に自分の機嫌による。
詩羽:私はもう、早く終われば早く終わるほどいいと思ってる(笑)。それがおもしろいなって思ってんだけど、本当にやり方が違うんですよ。チヒロちゃんは、こっちにも伝わるくらいわかりやすく悩むので、「これはひとりの時は大変だわ」って思って見てました。
――どっちもありますよね。悩んだほうがいいこともあるし――。
チッチ:そうそう。最初に録ったやつがいちばんいいっていうのもわかるし。でも、マジで速かったんですよ(笑)。
――お互いアドバイスとかしたんですか?
詩羽・チッチ:しない。
詩羽:ハモりを考えるのとかはお願いしたりとか、「掛け声どうする?」とかは話したんですけど、お互いの歌には何も言ってないです。