清水翔太「散った夢の上で泣いたり笑ったりしてる」 新拠点 大阪で芽生えた“唯一の今書きたいこと”
清水翔太から1年3カ月ぶりとなる新曲「PUZZLE」が届けられた。今年3月、デビュー以来地元・大阪に活動の拠点を移した清水。「PUZZLE」は、彼がデビュー前に在籍していた音楽スクールの生徒が参加した楽曲で、夢を追うことの厳しさ、儚さ、素晴らしさを描くゴスペルソングに仕上がっている。大阪に拠点を移した経緯、スクールの生徒たちとの交流、そして「PUZZLE」の制作や10月19日、20日の武道館ライブへの意気込みなどについて、清水自身に語ってもらった。(森朋之)
「生徒に説明することで、自分の歌に対する理解も深まった」
——まずは大阪に拠点を移した理由を教えてもらえますか?
清水翔太(以下、清水):「大阪、好きだな」みたいな気持ちは年々増してきていたんですよ。去年、アルバム『Insomnia』に入ってる「Memories」のMVを地元で撮ったんですけど、自分の母校に行ったり、同級生と20年ぶりくらいに会ったりする中で、地元に対するトラウマみたいなものも乗り越えて。本当の意味で地元を愛せるようになったタイミングで、「拠点を大阪にするのもいいかな」と考えるようになったんです。そもそも僕はあんまりテレビとかに出るわけじゃないし、曲も全部自分で作るし、レコーディングも家でやるので、場所はどこでもいいんですよ。で、3月に大阪に移りました。もう1つの理由としては……今回の「PUZZLE」にもつながる話なんですが、去年くらいからキャレスの同期のメンバーで集まるようになったんです。
——翔太さんが通っていた音楽スクール「キャレスボーカル&ダンススクール」ですね。
清水:はい。それまで全くなかったんですけど、大阪に帰るたびにみんなで集まって、飲んだりするようになって。同期に校長先生の娘さんがいるんですけど、もうすぐ2代目として彼女がスクールを継ぐことになっているんです。いろいろと悩みも聞いていたし、自分にとっても母校だし、やれることがあるんだったらやりたいと思い、去年の12月にキャレスでレッスンを受け持ったんですよね。その後、大阪に引っ越すことを決めて。3月からまたレッスンを始めて、選抜された生徒に対して曲を書いたりもしてたんです。その中で「キャレスのテーマ曲みたいな曲を作ってほしい」という話が出てきて、そのときに書いたのが「PUZZLE」なんですよ。最初はリリースするつもりもなかったんですけど、自分でもいい曲になったなと思ったし、レーベルからも「出したほうがいい」という話があって。生徒にも参加してもらって形にしたという流れですね。去年の12月から始まったストーリーがあるし、いきなりこの曲を作ったわけではないんですよ。
——しかも、すごく自然な流れですよね。レッスンのことをもう少し詳しく聞きたいのですが、生徒の皆さんの様子はどうでした?
清水:最初はすごく緊張していたみたいで、僕がちょっと教えるだけで泣き出しちゃう子とかもいて。僕自身、大阪に1カ月も滞在するのはデビュー以来初めてだったし、レッスンももちろん初めてだったんですよ。1カ月間ビッシリやって、最後は僕も含めて号泣したっていう。『世界ウルルン滞在記』みたいな感じでした(笑)。
——(笑)。翔太さん自身も得られるものがあるのでは?
清水:いろいろありますね。まずは音楽、歌との向き合い方に対する真面目さ、真剣さが上がりました。歌のレッスンでは洋楽を使うことが多いんですけど、教えるためにまずは自分で完コピするんですよ。自分でカバーしたことがある曲に対してもそうなんですけど、「めちゃくちゃ手癖で歌っちゃってたな」ということに気づいて。「ここの音程、思っていたのと違うな」みたいな発見もいっぱいあったし。技術を教えるのもすごく難しいんですよ。例えばビブラートのやり方を説明するために、自分のビブラートを動画で撮って、スロー再生しながら「どのくらいの揺れで、どういう音程で歌ってるのか」を確認したり。感覚でやっていたことを生徒に説明することで、自分の歌に対する理解も深まりましたね。他のアーティストの曲を歌うときもまずは完コピするようになったし、初心に戻った感じもあって。
——歌への向き合い方がリセットされたというか。
清水:そうですね。あと、今流行っている曲をいち早く知れるのも良くて。生徒の年齢は9〜10歳くらいから上は22〜23歳くらいまでなんですけど、一番多いのは中高生なんですよ。その子たちのセレクトで曲が流れてたりするんだけど、知らない曲も多くて。「これ流行ってますよ」「へえそうなんだ!」という会話もしょっちゅうありますね。
——もちろん、「将来はアーティストになるんだ」というモチベーションに刺激を受けることもあるだろうし。
清水:実はそうでもなかったんですよ。それこそ「手伝ってほしい」と言われた理由でもあるんですけど、スクールって、将来性がある子がいたら契約が決まって、すぐ卒業しちゃうんです。卒業ラッシュみたいな波が来ると、まだ力が足りない子たちが残るわけで。輝いている子がスクールにいれば「自分もあの子みたいにならなきゃ」というムードになるけど、そういう子が1人もいなくなっちゃうと「私たち、やってる意味あるのかな」みたいな空気になってしまう。僕に話が来たときは、ちょうど契約ラッシュのタイミングで、1軍の子たちがいなくなってたんですよ。スクールには「まだまだこれから」みたいな子たちばかりで、だから僕に「教えてあげてほしい」という依頼が来たんです。けど、僕が来たことで何もかも変わったんですよね。やる気がなくてサボってた子が、僕とコミュニケーションを取る中でスイッチが入ってめちゃくちゃ頑張るようになったり。急成長する子が増えたし、キラキラし始めた瞬間を切り取りながら作ったのが「PUZZLE」でもあるんですよ。もう十分に上手い子たちではなくて、成長していく中でしか出てこない輝きがあると思ってるので。
「PUZZLE」は夢の厳しさをポジティブに描いた曲
——なるほど。先ほども話に出ていましたが、「PUZZLE」はキャレスのテーマソングとして作り始めたんですか?
清水:最初はそうだったんですけど、キャレスに限らず、音楽という大きい夢の世界のことを描きたくて。僕がキャレスに通ってたのは20年くらい前なんですけど、その中で世に出たのは10人もいないし、片手で足りるくらいかもしれない。何百人の中の一握りの人だけが夢を叶えたわけですけど、当時はみんなが音楽に携わって成功する未来を思い描いて頑張っていたんです。そう考えると……良くない言い方ですけど、キャレスやアクターズスクールみたいなところって、“夢の墓場”みたいな場所だなと思って。たくさんの夢が散って、新しい子たちが入ってきて、新しい夢を描いて、また諦めて。いろんな人の叶わなかった夢や思い、捨てていったパズルのピースみたいなものの上で僕らは夢を見てるんだなと。そういうことをポジティブに書きたいと思ったんですよね、「PUZZLE」は。
——そこには翔太さん自身の思いも重なっているんですね。
清水:そうですね。あとは「いなくなってしまった人のことを忘れない」という気持ちもありました。今のキャレスのインストラクターも、もともとは生徒だったんですよ。「PUZZLE」をみんなに聴かせたときも、まずインストラクターにぶっ刺さって、泣いてる人もいて。「音楽を辞めた子たちのことを思い出しました」って言うんですよね。それこそ一緒にチームを組んで頑張ってたけど、諦めて辞めた人たちがいる。その人たちの思いも拾い集めて、自分の糧にしていくというか。
——もちろん、生徒さんにとってもグッとくる曲ですよね。
清水:「いい曲だな」と思って歌ってるとは思いますけど、まだ若いですからね。本当の意味でこの曲を理解するのは、もうちょっと先なのかなと。こんなこと言ったら元も子もないんですけど……今僕が見ている生徒たちをめちゃくちゃ応援しているし、何かしらの形で世に出ればいいなと思っているけど、「PUZZLE」に参加しているメンバー全員が成功するかと言えば、そうではないと思うんです。音楽を辞めてしまうメンバー、抜けるメンバーも出てくるでしょうけど、その後も違う生徒が「PUZZLE」を歌い継いでいく。そのときに初めて、本当の意味でこの曲が完成するんじゃないかなと。さっきも言ったように“散った夢の上で僕らは泣いたり笑ったりしてる”というのがテーマなので。
——めちゃくちゃリアルな歌なんですね。
清水:僕はやっぱり、そういうところを攻めたくなっちゃうので。綺麗事ではなくて。