清水翔太、赤裸々な言葉で歌った“今言いたいこと” ネガティブな葛藤の先で見出した自分らしい表現スタイル
清水翔太が通算10作目となるオリジナルアルバム『Insomnia』を6月28日にリリースした。前作『HOPE』以来、約2年ぶりとなる本作は、昨年9月リリースのシングル曲「Baby I love you so」以外はすべて新曲。「ただただ自分が言いたいことを曲にした」というコメント通り、トラックメイク、リリックを含め、現在の清水翔太が生々しく表現された作品となった。本作に至るプロセスについて、彼自身の言葉で語ってもらった。(森朋之)
『Insomnia』の“尖ったモード”にたどり着いたきっかけ
――ニューアルバム『Insomnia』の収録曲は、「Baby I love you so」以外はすべて新曲ですが、アルバム制作に入ったときはどんなビジョンがあったんですか?
清水翔太(以下、清水):『HOPE』はコロナ禍を踏まえて、時代に対して温かいものを投げたいという気持ちが強かったんですよね。けど今回はかなり違っていて、“言いたいことを言う”モードというか。かなり尖っている方向性かもしれないですね。そうしないと筆が進まなかったし、『HOPE』の反動もあったと思います。
――確かに今回のアルバムには、清水さん自身のプライベートな部分を含め、かなり赤裸々なことを表現した曲が多いですね。
清水:そうですね。要は“どこを切り取るか”だと思うんですよ。同じ出来事であっても、温かい部分を切り取るのか、冷たい部分を切り取るかで違ってくるというか。どこに焦点を当てるかはそのときの感覚なんですけど、今回は全く気を遣ってないんですよね。どう受け取られるかは気にせず、「これが面白い」「これがカッコいい」という自分の感覚で作ったので。
――そういう意味では、ソングライターとしては極めて健康的ですよね。
清水:いい作品を作ることが前提ですけど、こういう作り方のほうが自分に合ってる気がするんですよね。自分のキャラのイメージとしては、温かい曲のほうが合ってると思うんですよ。ただ「言いたいことを言わないと進めないな」という瞬間がやっぱりあって。たぶん、今後もそれを交互にやっていく気がしています。『HOPE』はエバーグリーンで温かい方向性で、今回の『Insomnia』が尖っているというのも、そういうことなのかなと。
――以前は“ハートウォームな曲を歌う清水翔太”というイメージを意識していたんですか?
清水:そうですね。『PROUD』(2016年)以降はそのイメージを気にしないようになったんですけど、それ以前は常に意識していたので。みんながイメージする清水翔太、周りの人たちが思う清水翔太をやるべきだなと。「曲のなかで清水翔太らしくないことは言わない」と決めていたところもありましたからね。今は全く気にしてないですけど(笑)。
――アルバムの起点になった曲は?
清水:「Memories」かもしれないですね。「アルバムの曲もできてないし、気分転換に旅行しようかな」と思って、今年の1月に地元(大阪府・八尾市)に帰ったんです。曲のなかでも書いてるんですけど、いじめられていたこともあって、学校にほぼ行ってなかったんですよ。なので友達もほとんどいないし、地元の八尾市に対しても「好きって言いきれない」感じがあって。でも、自分にとっては乗り越えないといけない壁というか、年齢的にも「そろそろ向き合わないといけないな」と思ってたんですよね。
――なるほど。
清水:デビュー直後に、たまたま再会した同級生がいて。その後は会ってなかったんですけど、今年1月に帰ったときに、「同級生に会いたいんだよね」ってその子に久しぶりに連絡したんです。それから実際にみんなに会って、ちょっとした同窓会みたいになったんですけど、子どもの頃の感覚をリアルに思い出したんですよ。で、東京に帰ってきて速攻で書いたのが「Memories」なんです。
――メジャーデビュー曲「HOME」(2008年)のアフターストーリーにもなっているし、清水さん自身にとっても大きな意味がある楽曲だと思います。
清水:自分でもすごく気に入っていて、一部分をYouTubeにアップしたんですよ。ただ、この曲を通して「頑張れ」とか「諦めるな」「恐れるな」みたいなことを言いたいわけではなくて。ただ「俺はこうだったよ」ということだけをシンプルに歌いたかったんですよね。歌詞でも書いたんだけど、〈こんな思い出しかないんだ〉〈それでもこの街が好き〉と言えるのは、自分がある程度成功して、胸を張って帰れたからだと思うんですよ。そうじゃなかったら、ずっとトラウマみたいなものが残ったかもしれないだろうなと。「Memories」を聴いて勇気づけられる人がいるかもわからないし、救おうとも思っていない。その切り取り方が今の自分なんですよね。『HOPE』のときは「何かを変えたい」「できるなら救いたい」と思っていたので、そこは大きく違う。「Memories」は切り取り方の違いがすごく象徴的に出ているのかなと。この曲を書いたときに、「やっぱりこういう書き方はいいな」という感じでスイッチが入ったので。
曲の中に落とし込んだ“身勝手な自分”
――そこでアルバムの方向性が見えたと。「Life Style」もそうですが、鋭いフレーズが多い印象があって。ラブソングもいつも以上に生々しい気がしますが、これも実体験がもとになっているんですか?
清水:今回のアルバムはラブソングが少ないんですよ。「Baby I love you so」はファンに向けているし、ラブソングと言えるのは「Fallin」「Moonlight」「SUMMER」「More than friends」かな。これはすべての曲がそうなんですけど、実体験かどうかは“割合”なんですよね。すべて妄想だけで書いた曲はなくて、どこかに実体験が入ってるんですけど、「それをどこまでドラマティックにするか?」ということなんです。実体験が50%で、ドラマティックに描写している部分が50%ということもあるし、その割合が10%と90%だったり、90%と10%だったりするっていう。実在する人物を主人公にした映画と同じですね。今回のアルバムはドラマティックに描いた曲の方が多いかな。
――「君がいない、僕らの日常」も印象的でした。大切な人がいなくなり、喪失感とともに生きるという内容ですが、この曲の背景を教えてもらえますか?
清水:この曲もかなりドラマティックに書いてるんですけど、単純に友達がいなくなった状態を歌ってるんですよ。ケンカ別れだったり、仲が良かった友達が海外に行って何年も会わなかったり。この曲を作ったきっかけは……僕、すごく自分勝手なんですよ、たぶん。アーティストはそうじゃないと成り立たないところもあるんですけど、どうしても自己中心的になりがちというか。とある芸人さんで「後輩をごはんに連れて行くときは、後輩の時間を使わせてるんだから奢るべき」と言っていた人がいて。僕もそういう気の遣い方はするんだけど、その代わり、店は自分で選ぶんです(笑)。そんな生き方しかできないんだけど、そうすると周りの人とテンポがズレることもあるし、「ペースが違いすぎるから付き合えない」って会わなくなってしまう人もいる。そういう経験をたくさんしているんですよね。ただ、「君がいない、僕らの日常」も「Memories」と同じで共感してもらえるとは思ってなくて。「自分はこうなんだ」って歌ってるだけなんですよね。
――なるほど。「東京ライフ」はKANさんのアルバム『HAPPY TITLE -幸福選手権-』(1989年)に収録されていて、シングルカットもされた曲のカバー。ピアノと歌のアレンジですね。
清水:「東京ライフ」は2パターンあるんですよ。1990年代に発売された『めずらしい人生』(ベストアルバム)収録のバージョンはピアノの弾き語りなんですけど、もともとのシングルバージョンはドラムやベースも入っていて。僕はそっちを聴いてたんですけど、今回のカバーするにあたってMANABOONにアレンジを頼んだら、ピアノで編曲してきたんです。彼はピアノバージョンで認識していたみたいなんですけど、「これもいいな」と思って。
――清水さんが「東京ライフ」に惹かれていた理由は?
清水:デビュー前から聴いていて、ずっと好きな曲だったんですよね。その後『ツルモク独身寮』という漫画を読んでたら「東京ライフ」の歌詞が引用されているシーンがあって、「めっちゃセンスいい」と思って。しかも主人公がショウタ(宮川正太)っていう(笑)。あと、「東京ライフ」って僕が生まれた年(1989年)にリリースされているんですよ。いろいろあって、ちょっと運命的なものを感じていたんですよね。少し前にKANさんにお会いして、「『東京ライフ』が大好きです」とお伝えできたし、アルバムを作ってるときになぜか「『東京ライフ』のカバーが必要だ」と思って。アルバムの雰囲気が切り替わるスイッチになっているし、収録できてよかったです。おこがましいけど、KANさんと僕の曲には通じ合うものがあるような気がするんですよ。“自分はこうなりたい”という理想というか。僕にとっては目指すべきアーティストの一人ですね。