SARM、EP『IRiS』から始まる新たな道 “今の自分”に初めて正直になれた理由を語る
SARMが、デジタルEP『IRiS』をリリースした。今作には、「BONBON GiRL」、「D♡VE QUEEN」、「AI ga shitaino」、冨田恵一(冨田ラボ)とともに制作した「Tefu Tefu」、先行配信されていた「IRiS」、最新曲「高級フレンチよりあなたとつくる深夜のフレンチトーストがすき。」の全6曲が収録されている。この一年で徐々に変化を遂げてきたSARMの音楽は今後どこへ向かっていくのか。そして、今向き合う自分自身について、じっくり話をしてくれた。(編集部)
究極の自由、空がなぜ青いのか……幼少期から変わらないSARMの視点
――SARMさんのディスコグラフィを追っていくと、昨年8月の「D♡VE QUEEN」のリリースをもってモードが切り替わったような印象を受けました。
SARM:そうですね。いちばん最初に音楽活動を始めた10代の頃から一緒に作っていたプロデューサーから旅に出てみたいという気持ちもあって。そんななかで新しいプロデューサーと制作をスタートしたタイミングでもあったので、それがガラッと変わったように受け止められたところもあるのかもしれないです。
――旅に出てみたいという思いは突然湧き上がってきたものなのでしょうか?
SARM:一昨年の年末か去年の年始頃、自分がどう生きていきたいか、最後にどう死にたいかを考えた時に、ひとつのわかっている世界だけではなくて、何か違うところを見てみたい、違う何かを感じたいという意識が生まれてきて……そこからですね。急に目覚めて、いろいろなプロデューサーと組んでみたいと思うようになりました。
――そういう境地に辿り着いた経緯を教えてください。
SARM:やっぱりコロナ禍じゃないですかね。はっきりとはわからないんですけど。でも、突き動かされるみたいな感覚で芽生えた感情だったので、何か大きなきっかけを考えるとおそらくコロナ禍だろうなって。自分の核の部分を見つめるきっかけになった時期でもあったので、どうやって生きていくかを自ずと考えていくことになったんだと思います。
――「BONBON GiRL」がヒットした直後、SARMさんにとっての代表曲が生まれた直後にそのイメージを刷新するような新基軸を打ち出すことについて逡巡はありませんでしたか?
SARM:それは特に気にしていなかったかも。いろいろな顔があって、いろいろな服を着てもいいかなと思って。自分としては根本が変わったつもりは全然ないですね。
――SARMさんの変化はアートワークにもはっきりと表れていると思うのですが、ざっくり言うとサウンドも歌詞も従来よりぐっとスケールが大きくなった印象を受けます。「D♡VE QUEEN」以降、歌詞については広義での愛や死生観を主題にしているようですが、これはSARMさんが好きな本として挙げているダンテの『神曲』やヘッセの『シッダールタ』とも非常に相性がいいテーマだと思います。そもそも太陽や月に由来するSARMさんのお名前自体も森羅万象的な壮大さをイメージさせるところがありますが、こうした世界観に対する愛着は昔からご自身の中に強くあったものなのですか?
SARM:どうなんでしょう? でも、小学生の頃にふとひとりで「なぜ空は青いのだろう?」と考えたりはよくしていて。その延長で「なぜ自分が生きているのだろう?」みたいな、そういうことを考える癖はありました。
――子供のころから哲学的なことを思考していたと。
SARM:「極限の自由ってなんなんだろう?」みたいな、自由とは何かについて放課後に友達と話したりして。ちょうどその時に歴史の授業で縄文時代について学んでいて、その影響もあると思うんですけど。みんなは飛行機に乗って世界の至るところに行けたり、インターネットでいろいろなものを見たりできることが自由なんじゃないかって話をしていたんですけど、でもそれは便利という意味での自由さはあるけど、精神的な心の解放ということでの自由ではないと思っていて。縄文時代の人々は日が昇ってきたら起きて日が沈んだら寝て、お腹が空いたら木の実や魚をとって食べたりする、日常の暮らしのなかで世界ができていた。当時は人と人とのつながりも現代より強かったと思うし、もちろん法律もないし戦争が起こるような状況でもなくて。そういうものこそが究極の自由なんじゃないかって友達と討論したりしていました。
――それはまさに今音楽を通じて表現されているようなことと地続きになっているとも言えますよね。そうした歌詞の世界観の一方、音楽的にはダンスミュージックを中心とする現行のトレンドのサウンドを積極的に取り入れるようになりました。SARMさんは自身の歌のベースにある音楽としてジャズやブルース、ソウルを挙げていますが、デビュー間もない頃にインタビューでロニ・サイズをフェイバリットにピックアップしていたこともあって。ルーツミュージックの一方で、先鋭的なダンスミュージックの動向に対する関心も強いのでしょうか?
SARM:好きですね。特にドラムンベースだったりフューチャーベースだったり、ベースミュージックが大好きで。そもそもダンスミュージックを好きになったきっかけが幼稚園の時に聴いた「恋のマカレナ」(ロス・デル・リオ/1993年)なんですよ。あのサウンドが衝撃的で。そのあと「恋のマイアヒ」(O-Zone/2003年)や「江南スタイル」(PSY/2012年)にも同じように衝撃を受けました。そういうダンスミュージックを聴いているなかでベースとキックの音が好きなことに気がついて。その流れからベースミュージックに惹かれていったと思いますね。
――昨年11月リリースのシングル「AI ga shitaino」でジャージークラブを取り入れていたのも、自分のなかにもともとあったものがナチュラルに出てきた感覚と言いますか。
SARM:はい。まさにジャージークラブをやりたいってプロデューサーと話をしていて、日本の情緒にも合うようにアレンジして取り入れました。
――現行のサウンドを積極的に取り入れていくことに伴ってボーカルの取り組み方にも変化は生まれていますか?
SARM:自然と変わっているかもしれないです。自分のいいと思える部分は水みたいなところというか、あらゆるものに順応できるところだと思っていて。そういうよさが出ているのかもしれませんね。