『学園アイドルマスター』楽曲で体現する“アイドルへの挑戦状” 歴代シリーズと一線を画す異色の作家陣

 「アイドルマスター」(以下、アイマス)シリーズ6年ぶりの新ブランドとして、『学園アイドルマスター』が2024年5月に始動した。「アイドルへの挑戦状」をコンセプトに掲げ、「アイマス」初の学園モノという真新しい設定も話題を呼んだ通称「学マス」。いざ蓋を開けばアイドルたちへの楽曲提供陣もこれまでの「アイマス」とはひと味違う異色の面々が揃い、その点でも従来の「アイマス」ファンのみならず直近の音楽シーンリスナーからも大きな注目を集めている。

全体曲 「初」(作詞・作曲:原口沙輔 編曲:宮川 弾、原口沙輔)

 話題の筆頭は、やはり学マスの顔ともなる全体曲「初」だろう。作詞・作曲を手掛けたのは、今やすっかり時の人である人気クリエイター・原口沙輔。また編曲には過去にラヴ・タンバリンズとしても活動し、今なお大勢のアーティストへの楽曲提供や制作参加を行う宮川弾も共に名を連ねている。

 「人マニア」「イガク」ほかボカロ曲を中心に、現在21歳の若さですでに確固たる知名度を誇る原口沙輔。しかし同作の音楽プロデューサー・佐藤貴文氏曰く、曲制作を依頼したのは彼がまだ今ほど世間からも見つかっていない高校生の頃。楽曲を一聴して驚くのは、やはり当時の原口沙輔もといSASUKEの“制作対応力”の高さだ。華々しく煌びやかなアイドルテイストを軸としつつも、サウンドには時折彼自身の強烈な個性も見え隠れする。その一癖ある音像からは、今ブランドの確固たる挑戦の意志も見て取れると言っていい。

 また登場する各アイドルたちの楽曲も、甲乙つけがたい魅力を放つものばかりが揃う。

花海咲季 「Fighting My Way」(作詞:HIROMI 作曲・編曲:Giga)

 今作を牽引するキャラクターの一人である花海咲季。学園に首席入学を果たした勝気なエリートである彼女の曲「Fighting My Way」は作詞をHIROMIが、そしてこちらもVOCALOIDシーン出身の人気を誇るトラックメイカー・Gigaが作編曲を担当する。

 従来よりアタックの強いビートや重圧的なエレクトロサウンドが特徴的なGigaだが、そのムードは持ち前の才がありながらも努力を怠らず、常に上を目指す咲季の強固なハングリー精神にまさしくジャストフィット。声優・長月あおいの幼さを残す声とのコントラストも印象強く、アイドル楽曲としても良い意味で異彩さを放つナンバーとなっている。

月村手毬 「Luna say maybe」(作詞・作曲:美波 編曲:美波、真船勝博)

 そしてもう一人の今作の顔となるアイドル、月村手毬の楽曲「Luna say maybe」では作詞作曲に美波、編曲には彼女と共に真船勝博がクレジット。EGO-WRAPPIN'やレキシ、藤井 風など多くのミュージシャンと活動を共にする真船はもちろんだが、迫力ある華やかなオーケストラサウンドやエモーショナルさを纏うメロディラインなど。メインで制作を務めた、美波“らしさ”を思わせる要素が楽曲では随所に散らばっている。そのルックスで一見クールに見えがちな手毬の、秘めた爆発力が色濃く落とし込まれた一作だ。

「アイヴイ」(作詞・作曲・編曲:ツミキ)

 さらに彼女のセカンドソング「アイヴイ」の制作を担当したのは、「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」「ビビデバ」のヒットも記憶に新しいツミキ。疾走感のあるサウンドと手毬の懊悩や孤独を滲ませる歌詞とのコントラストも鮮烈で、リリースからまだ間もないながらすでに大勢のファンの心を掴む1曲として人気を博している。

藤田ことね 「世界一可愛い私」(作詞・作曲・編曲:HoneyWorks)

 自身の活動動機を「お金のため」と言って憚らない点からも異色さを滲ませるアイドル・藤田ことね。作詞・作曲・編曲をHoneyWorksが担当した楽曲「世界一可愛い私」では、ルックスに自信のある彼女のあざとくかつタフなアイドルとしての個性が、そのタイトルからも如実に垣間見える。

 近年は特に裏表のある等身大な少女性を描くことに長けたHoneyWorksと、ことねのキャラクター性はまさに相性も抜群。豊かな感情表現や、強烈な自我と表裏一体の芯の強さを、彼女の魅力としてしっかり落とし込んだ1曲とも言えるだろう。

倉本千奈 「Wonder Scale」(作詞:大森祥子 作曲・編曲:兼松 衆)

 一方おそらくことねとは真反対の家庭環境に育った倉本千奈も、お嬢様でありながら自他共に認める“おちこぼれ”のアイドルという、非常に強いインパクトを放つ人物だ。

 だが、恵まれた生育環境故のあっけらかんさはある種大きな武器ともなる。童話のお姫様のようなその純朴さを前面に押し出した「Wonder Scale」は、作詞を大森祥子、作編曲を兼松衆が担当。『けいおん!』シリーズやプリキュアシリーズなどのビッグタイトル曲を数多く手がける大森、名作ドラマ・映画の劇伴を数多務めてきた兼松。両者の強みに千奈の特性を反映した、ファンタジー特化のナンバーに仕上がっている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる