『学園アイドルマスター』楽曲で体現する“アイドルへの挑戦状” 歴代シリーズと一線を画す異色の作家陣

篠澤 広 「光景」(作詞・作曲・編曲:長谷川白紙)

 また千奈に次いで“おちこぼれ”である篠澤広も、一際異彩を放つアイドルの一人だろう。14歳で海外の大学を卒業するレベルの高知能を持つ反面身体能力が極端に低く、圧倒的にアイドル向きの特性ではない彼女。しかし“向いていない”からこそアイドルを目指し、困難への挑戦を至上の喜びとする、歴代シリーズでも指折りの変わり者だ。

 楽曲「光景」を手掛けたのは、こちらも音楽シーンで近年独自の色を放ち続ける異端児として熱い支持を集める長谷川白紙。強みである前衛的なサウンドメイクを駆使し、他のアイドルには決して持ち得ない彼女の特異かつ彩り鮮やかな視点を見事に切り取っている。なお、管弦編曲にブラジリアンミュージックのレジェンドアーティスト アルトゥール・ヴェロカイが参加していることは、ディープな音楽ファンの間でも話題になった。

有村麻央 「Fluorite」(作詞:やぎぬまかな 作曲・編曲:Moe Shop)

 作詞をやぎぬまかな、作編曲をMoe Shopが手掛けた「Fluorite」は、子役の過去から成長に伴い理想の自分とかけ離れてしまった葛藤を抱えたアイドル・有村麻央のナンバーだ。

 幼少期から憧れた“かっこいい”女性と、自らの“かわいい”容姿の乖離に悩む彼女。結果どちらもを兼ね備えた唯一無二のアイドルを目指し始める彼女の夢を彩る存在として、日本×フランスのハイブリッドなカルチャーを素養とするトラックメイカー・Moe Shopの起用はまさに適役と言える。自己イメージを一新する決意を瑞々しく描いた歌詞にも、他者のキャラクター性を輝かせる裏方仕事を天職とするやぎぬまの鮮やかな手腕が光る。

姫崎莉波 「clumsy trick」(作詞・作曲:渡辺 翔 編曲:奈須野 新平)

 同様に、姫崎莉波もまた自己と他者のイメージ乖離に苦悩した経験を持つアイドルの一人である。彼女の楽曲「clumsy trick」は作詞・作曲を渡辺翔、編曲を奈須野新平が担当。両者共にこれまで「アイマス」のみならず、数多のアイドル・声優曲やキャラクターソングを手掛けている。確かな実績を持つ熟練プロクリエイター同士のタッグが実現した1曲だ。

 従来の妹キャラから年上キャラへの大胆な方向性転換を行い、プロデューサーと共に再起を図る莉波。キャラチェンジに戸惑いつつも確かなオンリーワンアイドルへの一歩を踏み出した彼女の奮闘が、本ナンバーではポップかつキャッチーに描かれている。

紫雲清夏 「Tame-Lie-One-Step」(作詞・作曲・編曲:東 優太)

 重ねて、紫雲清夏も自らの過去由来の葛藤と苦悩を隠し持つアイドルと言えるだろう。楽曲「Tame-Lie-One-Step」を手掛けた東優太は、昨年より本格的な活動を始めた名実共に新進気鋭のサウンドクリエイター。未だ作品数は極小なものの、なにわ男子やにじさんじ所属・山神カルタの楽曲制作にも携わっており、今後の活躍にも大きな期待が寄せられるニューカマーと言ったところか。

 不真面目な一面こそあるものの、明るくフランクな性格を大きな魅力とする清夏。トレンド感ある軽快なナンバーの背後に潜む、彼女の秘められた一面にもぜひ注目して欲しい。

葛城リーリヤ 「白線」(作詞・作曲・編曲:ナユタン星人)

 そんな清夏と浅からぬ縁を持つ葛城リーリヤは、才能の低さを圧倒的な行動量でカバーする“努力の天才”とも呼ぶべきアイドルだ。気弱ながらも見る者に等しく勇気を与えるその明るく前向きな姿勢が、リードナンバー「白線」には彩り豊かに落とし込まれている。

 楽曲の制作を担当したのは、現在のVOCALOIDシーン復興の一端を担ったボカロPとして未だ衰えぬ人気を獲得するナユタン星人。従来曲ではシンプルなサウンドの印象も強い彼だが、本作ではピアノやストリングスといった稀少な音色も活用。同時に軽快な裏打ちのビートなど、確かな彼の個性が滲む要素も楽曲の随所に散らばっている。

花海佑芽「The Rolling Riceball」(作詞・作曲:佐藤貴文 編曲:半田彬倫)

 6月1日に新たに登場したのが、花海咲季の妹 花海佑芽。補欠入学の新入生でありながらも、身体能力抜群の元アスリートでアイドルとしてのポテンシャルはピカイチ。入学からグングンと成長を見せ、花海咲季にとって溺愛する妹でありながらも、最大のライバルとして強く意識している存在だ。

 彼女の明るく元気いっぱいなキャラクター性を反映した「The Rolling Riceball」は、一筋縄ではいかない中毒性も持ち合わせたアップテンポナンバーに。鍵盤とバンドサウンドによる感動的な幕開けから急に電波ソングの様相へと変化する進行は、数多の「アイマス」シリーズ曲を手掛けてきた佐藤貴文のセンスが詰まっている。

 このように、従来の「アイマス」シリーズ以上に、そのラインナップから楽曲への本気度が伺える学マスのサウンドクリエイター陣。作品では当然、今後も新たにアイドルや彼女たちの楽曲が追加を予定されている。物語を形成する彼女たちアイドルの成長はもちろんのこと、その道を思い思いに彩る新たなクリエイター布陣にも今後引き続き注目していきたい。

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