家入レオ、試行錯誤を重ねて肯定できた自分らしさ 恋愛観の変化、変わらない向上心も語る
家入レオが約3年ぶりとなるパッケージシングル『ワルツ』をリリースした。表題曲は連続ドラマ『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の主題歌として家入自身の作詞・作曲により書き下ろされたもの。恋を失ってしまったけれど、胸に残る優しい気持ちを丁寧に描写したミディアムバラードに仕上がっている。10代の頃から数々の恋愛ソングを歌ってきた彼女の、人としての成長や恋愛観の変化なども感じ取ることができる1曲だ。今回のインタビューでは「ワルツ」に込めた切ない想いや、ソングライターとして楽曲制作において大切にしていることなどを家入に語ってもらった。ベーシストでありプロデューサーの須藤優(XIIX)から突然送られてきたというカップリングのロックナンバー「愛をあげる」のエピソードも、デビューから13年目の充実した活動ぶりを物語っている。(上野三樹)
「デビューしたときの家入レオを感じてもらえる曲になった」
――18枚目のシングル『ワルツ』。表題曲はドラマ『ミス・ターゲット』の主題歌として書き下ろされたそうですが、どんな制作でしたか。
家入レオ(以下、家入):久しぶりにドラマの主題歌を歌わせていただけるということで、私がやれることは全部やろうと思って臨んだ制作でした。お話をいただいた段階では特に曲調などの指定はなかったんですが、いつ、どういう曲調でリクエストがきても大丈夫なように、バラードもミディアムもアップテンポも全部用意しておこうというのがスタートラインでした。
――ドラマ『ミス・ターゲット』は、松本まりかさんが演じる結婚詐欺師の女性が主人公ということですが、この作品の内容はどのように意識されましたか。
家入:主人公の(朝倉)すみれさんが結婚詐欺師で、愛はなくても男性に対して巧みな言葉を使うんです。でも本当の恋をすることで、その相手には思わせぶりな態度や言葉で惑わすことなんて一切できなくなるんですよね。人を好きになるってそういうことだなと思いましたし、私自身も今、こういうピュアな恋愛ソングを書きたい時期だったので。すみれさんと、そして人を好きになったことがある、恋を失ったことがある全ての人に向けて、その心を毛布で包み込めるような曲にできたらいいなと思って「ワルツ」を作りました。
――「ワルツ」は家入さん自身が作詞作曲をされたんですよね。
家入:はい。今まで担当してきたドラマ主題歌は共作や提供していただいた曲だったので、私自身が作詞作曲をしたのは初めてでした。今回「ワルツ」を試行錯誤しながら作っている時に西尾(芳彦)先生の顔が浮かぶ瞬間が何度かあって。
――家入さんが10代の頃から作詞・作曲を学んでいた音楽プロデューサーの西尾先生ですね。
家入:はい。私はあの方がいなかったら今ここにいないので。現在も私は音楽塾ヴォイスに通っていて、たまにお会いしたりもするんですが、やっぱり音楽的なDNAは染みついているものがあるようです。もちろん西尾先生が作ってきた名曲たちの足元にも及ばないですが、今回「ワルツ」を作りながら、私はやっぱり音楽塾ヴォイスの門をくぐってここにいるんだなと改めて思いました。普段から曲作りをしながら「なんかこのメロディ、もっとよくできそうだな」と思ったときに「西尾先生だったらどうするだろう」なんて考えることもあります。納得のいくメロディや歌詞が浮かばない時間が続くと、つい「もういいかな」って自分で自分を甘やかしそうになる瞬間もあるんですけど、もし西尾先生が自分の曲を街中でたまたま耳にすることがあったら……と考えると「もう1回トライしよう!」と思う(笑)。疲弊してくると逃げたくなることもありますが、そういうときに心に浮かぶ存在が自分の中にいることが財産だと思うし、認めてもらいたいとか、追いつきたいと思う存在がいることはすごく嬉しいことなので。今回の「ワルツ」はもしかしたらデビューしたときの家入レオを感じてもらえる曲になったかもしれないですね。
――まだデビューする前、10代の頃に作曲を学びながら得たものって、どういうものでしたか。家入:向上心だと思います。自分で自分を認めたら、そこで成長って終わるので。音楽塾ヴォイスに来てる方って、どの生徒さんも一生懸命なんです。頑張ってる方しかいないから、純粋に「自分ももっと頑張ろう」と思います。私もデビューから13年目に入って、これまでいろんなことを経験させていただいてきましたが、例えばテレビの生放送なんて年々緊張感が増していくような感じもします。
――キャリアを重ねても、今の自分に甘んじないということなんですね。
家入:やればやるほど先人たちのすごさを思い知ります。24時間をどう使ったらもっと心に響く歌が歌えたり、曲が作れるようになるだろうって考えるんです。例えばこの取材が終わって、家に帰って寝るまでの数時間をどういうふうに使ったら、もっと技術面で向上できるか、深い表現者になれるのか。そういう向上心を持つことの大切さを10代の頃から教えてもらったんだと思います。
「『ワルツ』は笑いながら泣いているような心情に合う」
――家入さんが「ワルツ」を作っていたとき、サビの部分は言葉とメロディが一緒にできたそうですね。
家入:そうなんです。もともとワンコーラス、ギターで弾き語ったデモがあって。ドラマの主題歌のお話をいただいて、もう一度再構築しようと決めました。曲の作り方としては、それこそデビュー当時から変わっていないんですけど、やっぱり最初に出てきた言葉とメロディが強いんですよ。それを完成させていくときに、もっとおしゃれな言葉にしようとか、もっと技術的にちゃんとしたものにしようとか思いすぎると、最初に出てきたときのインパクトや味わいがどんどん削ぎ落とされていって、不思議と心に残らないものになることが多くて。だからたぶん答えは最初から出てるんだけど、そこからもがいていくことで、最初に出てきたものを肯定できるんだと思うんです。私はそういうタイプだから、「ワルツ」も作り直したりもしたんですけど、サビの〈この愛があなたに届かなくても〉はやっぱり最初のメロディがいいんだと思えて、自分にOKを出せました。きっとそういうことって、作曲だけじゃなくて人生もそうなのかも。本当は最初から答えはわかってるけど、悩んでみたり迷ってみたりして、自分は自分としてしか生きていけないんだなって最初から何となく気づいていた答えが揺るぎないものになる。
――「やっぱりこれでいいんだ」と認めてあげられるまでの回り道が大事なんですね。家入:だから曲作りにもレコーディングにも時間がかかりますが、不安点や疑問点を全部つぶしていくことで、最終的に曲に魂が宿るし、「絶対にこれを届けるからね」っていう気持ちになれます。作りながら、試行錯誤しながら、そういう「届けたい」っていう想いを溜めているのかもしれないです。溜めて溜めて(両手を使ってポーズする)、最後に放出するときの威力がこう……。
――“かめはめ波”ですかね、その動きは(笑)。
家入:あはははは。そうです、『ドラゴンボール』のね(笑)。
――アレンジでは鍵盤が3拍子を奏でる部分もありますが、家入さんが思い描く「ワルツ」のイメージってどういうものですか。
家入:「ワルツ」というタイトルは、曲ができてスタッフに聴いてもらうときに何となくつけた仮タイトルだったんです。歌詞を書こうというときに、ドラマの主人公であるすみれさんの気持ちと自分の人生がクロスしたんです。1・2・3の3拍子で男女が楽しく踊っていたのに、いつの間にか自分1人だけがステップを踏んでいるような。そのどこか儚げなワルツのイメージがこの曲にぴったりだなと感じて、そのままタイトルにしました。笑いながら泣いているような心情に合うなと思ったんですよね。