家入レオが語る、自分と向き合って音楽を作る意味 約4年ぶりのアルバムで表現した“20代後半の赤裸々な葛藤”

家入レオ、20代後半の赤裸々な葛藤

 家入レオが、前作『DUO』以来約4年ぶりのオリジナルアルバム『Naked』を2月15日にリリースした。本作は、そのタイトルが象徴するように彼女がこの4年間に考えていたこと、経験したことが「フィクション」という形を取りながらも赤裸々に表現されている。久保田真悟 (Jazzin'park)やMaika Loubté、下村亮介(the chef cooks me)らを迎えたアレンジ〜サウンドプロダクションは非常にバラエティに富み、家入の持つ多彩な表現力を十二分に引き出している。「私のこの20代が、1曲ずつしっかり反映されたアルバム」と本人が述べているように、10周年の締めくくり、そして12年目への第一歩にふさわしい意欲作を作り上げた彼女に、制作エピソードについてじっくりと聞いた。(黒田隆憲)

家入レオ - 「Winter」(Music Video)

「自分と向き合うって楽しいことばかりではないと痛感した」

――今作『Naked』は、前作『DUO』以来4年ぶりのオリジナルアルバムとなります。完成した今の手応えはいかがでしょうか。

家入レオ(以下、家入):おっしゃったように、今作は4年ぶりということで時間をたっぷりかけることができました。本当に、いつ作ったのか分からないくらい遥か昔のデモを引っ張り出してきた曲もあるし、つい最近書き下ろした曲もあって。私のこの20代が、1曲ずつしっかり反映されたアルバムになったと思います。

――基本的には『DUO』以降に書き下ろした楽曲が並んでいるのですか?

家入:はい。デモというか、アイデアの断片自体は『DUO』以前から存在していたものもありますが、アルバムに向けて本格的に作り込んだのは前作以降です。

――『Naked』というタイトルが象徴するように、本当に剥き出しで赤裸々な歌詞が多い印象です。

家入:私は17歳でデビューして、これまでに何枚もアルバムを作っているのですが、今作はその中でもちょっと異質な作り方になったと思います。ある意味、時代にフィットした作品ともいえるかもしれない。

――というと?

家入:私自身、ここ最近はサブスクで音楽を聴くことが多くなり、アルバムを1枚通して聴くのに「ちょっと体力が要るかも」という感覚になってきているんですよね。そんな中、自分自身もアルバム1枚を通して一つのメッセージやテーマを伝えるというよりは、1曲ごとの純度を高めることにより重きを置いていたというか。

――なるほど。

家入:だけど、一つ自分の中で大きなトピックとなっていたのは、おそらく『Answer』の時にもお話しさせてもらったと思うのですが、“クオーターライフクライシス”についてでした。

――クオーターライフクライシスとは、20代後半から30代半ばの頃に人生や自身の在り方について悩む現象のことでしたよね。大学を卒業して、会社や社会のルールや常識を覚えるので精一杯だったのが、ようやく落ち着いて自分のことを省みる時間が生まれるのが、ちょうどその年齢の頃だと。

家入:はい。特に女性の場合だとキャリアなのか結婚なのか、出産なのかを選択する岐路にも立つと思うんです。選択肢が多い分だけ迷いが生じるし、向き合わなければならないことが増える。大好きで始めた音楽だけど、「本当にこれを長きにわたって続けていけるのだろうか?」という迷いの中で作ったのが、『Answer』だったんですよね。

 そんな迷いの時期真っ只中に、さらにコロナ禍が訪れて……。私だけでなく全世界の人たちが、先延ばしにしていたことと向き合わざるを得ない環境になったと思うんです。この時期に、結婚をするカップルも離婚をするカップルも増えたという記事を読んだ時にも、すごく納得したんですよ。今まで時間がないことを言い訳にしていたものから、逃れられなくなっているのだなと。

――確かにそうですね。

家入:私自身も、クオーターライフクライシスとコロナ禍でこの4年間は本当にキツかったんです。自分と向き合うって楽しいことばかりでは決してないのだなと痛感しました。でも、ちゃんとそこで「私は音楽が好きなんだ」という境地に、音楽を作りながら辿り着けた。その過程で生まれたのが、今回のアルバムに入っている曲たちなんです。そういう意味では、結果的に芯の通った作品になりました。アレンジのバラエティに富んでいますが、完成した今は、そこも含めて「私らしい」と思っていますね。

「もがいてた自分って可愛かったよね!」と言える心境にたどり着いた

――自分自身と向き合う上で、家入さんがこの4年間に取り組んだのはどんなことでしたか?

家入:ちゃんと“生活”しなきゃダメだなと思って、実はコロナ禍になる前に自ら保育園に連絡をして、保育士さんのお手伝いをボランティアでさせていただいたことがあったんですよ。そこで子どもたちを見ていたら、「何気ない日常の中から、こんなにも輝きを見つけることができるんだ!」と感動したことがありました。

――例えば?

家入:幼稚園で「五感を研ぎ澄ませる」という目的のワークショップがあって、寒天を固めたものを子どもたちがニギニギする遊びをすることになったんです。子どもたちの作業するテーブルが汚れないよう、私が大きなブルーのビニールシートを広げたんですね。そしたら子どもたちが、「先生、海が広がってるね!」って。その、全く飾り気のないシンプルな表現に心を打たれたんですよね。その瞬間、曲作り/物作りの“原点”に立ち返るきっかけを子どもたちに与えてもらったというか。

――“原点”ですか。

家入:私は中学から大学までエスカレーター式の女子校に通っていたので、一度どこかで躓いたら、友人を失うんじゃないか、という怖さが常にあって表面的なことしか言えなくなってしまったんです。そこから誰にも言えない気持ちを歌にするようになって。でも、『サブリナ』でデビューして、活動を続けていくうちにいつの間にか自分の気持ちを歌にすることより、「誰かの期待に応えたい」という気持ちの方が強くなっていて。上手にバランスが取れなくなってしまった。

――その時の心境について、先行リリースされた「Pain」で赤裸々に綴っていますよね。

家入:そうなんです。決して当時の私が“偽り”だったと言いたかったわけではなくて。確かに苦しい思いもしたのですが、それでも歌うことをやめなかったから “今”があることを信じて欲しいと思ったんです。そういう自問自答を繰り返す中で気づいたのは、「自分自身を大事にすることこそ、ファンの皆さんや周りの方を大事にすることにつながるのだ」ということ。誰かの期待に応えることよりもまず、自分自身の気持ちと向き合って音楽を作ることを大切にするべきだなって。そしてそれが、どこかで一人泣いている人の気持ちと繋がるってことなんじゃないかなと。

――「Pain」をリリースした時の、ファンの反応はいかがでした?

家入:この曲をリリースすることは本当に怖かったんですけど、ファンの人たちが「おかえり」って言ってくれたんですよ。その時に、私は私を大事にすることが、ファンの人をハグすることにつながるんだと実感したし、この曲で感情をちゃんと出せたからこそ、次の配信シングルにつながる「かわいい人」が歌えたのだと思います。「もがいたり迷ったりしていた自分って、可愛かったよね!」と言える心境にたどり着いた。本当、人生って無駄な瞬間なんてないんだなと思います。

家入レオ - 「Pain」 Music Video

――実際のアルバム作りはどのように行われたのでしょうか。

家入:今回はまずプロットいうか、ちょっとした短編小説を自分で書いて、例えば冒頭曲「Winter」や「悩みたいだけ」だったら、それを久保田真悟(Jazzin'park)さんにお渡しして。そのストーリーをもとにトラックを組んでいただいてから、スタジオに入ってメロディを一緒に作って、そのメロディに歌詞を書いていく。手間暇をかけることのできた制作でした。

――「悩みたいだけ」は、まさに先ほど話に出たクオーターライフクライシスについての曲ですよね。

家入:この曲と「Winter」は、ストックしていた時期が長かった分、よりディープな歌詞になってしまいました。選択肢はいろいろあるけど、その中には相手がいることが前提で進んでいくものもあるわけじゃないですか。だから先のことに思いを煩わせても、結局は目の前のことをやっていくしかないーーということは頭では分かるけど、それでもやっぱり悩んでしまう。「これってひょっとして、自分で悩みたくて悩んでいるだけなのでは?」と思うようになって。

――たくさんの選択肢から、何か一つを選び取るのは勇気と覚悟が要りますし、「どれにしよう?」と悩んでいる状態が実は一番心地よいのかもしれないですよね。

家入:ああ、確かに。よく自分より年上の方と話していると、「この年になると選択肢がどんどん狭まってくる」とおっしゃる方もいるんですけど、これまで選択肢の中からちゃんと選び取り、生きていらっしゃったから「今」がある。「まだ自分は何も選び取れていないな」って俯いてしまいます。逆にその方は、「選択肢がたくさんあって、自由で羨ましい」とおっしゃってくださるから、結局のところいくつになっても人って悩みながら歩いているのかもって。そんなことを考えながら、この曲の歌詞を書いていました。

――「レモンソーダ」は曲調こそ明るいですが、歌詞はとてもシリアスですよね。特に、〈自分らしさ 探すくらいなら いっそ捨てちゃえよ もう〉というフレーズが切実だなと思いました。

家入:おっしゃるように、明るい曲調でありながら自分の中の葛藤というか、「自分は音楽を続けていてもいいのだろうか?」という迷いから抜け出すために書いた曲です。「家入レオらしさって何なんだろう?」とすごく考えていた時期で。それすら手放したっていいんだと思えたときのことを歌っていて。明るい曲調に感じてもらえるのは、そういう葛藤を抜け出せた爽快感を表現できたからだと今は思いますね。

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