家入レオ、WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』OPテーマで表現した“生きる”ということ 光と闇で描いた温かさ

家入レオ『火狩りの王』インタビュー

 1月14日からWOWOWで放送・配信されるアニメ『火狩りの王』。2018年から2021年に“ほるぷ出版”から刊行された、日向理恵子のファンタジー小説が原作。西村純二が監督、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』シリーズなどで知られる押井守による構成・脚本によって、最終戦争後の世界を生き抜く少年少女のストーリーをシリアスに描き出した。同作のオープニングテーマ「噓つき」を、家入レオが担当する。作曲・編曲は、高橋優やカノエラナなど数多くのアーティストの楽曲に携わる石崎光が担当し、暗闇の中に火を灯すような実に神聖なイメージのサウンドを生み出した。作詞は家入レオと石崎光の共作。主人公・灯子がまだ11歳であることから、幼い子供の視点で書いたとのこと。また、昨年2月にデビュー10周年を迎えた際の気持ちと、灯子たちの覚悟がシンクロし、レコーディングでは泣きながら歌を収録したというエピソードも明かした。『火狩りの王』と自身の運命がつながったことで生まれた楽曲「噓つき」について、家入レオに話を聞いた。(榑林史章)

こういう作品が本当に必要だった

ーー家入さんは、アニメ『火狩りの王』のオープニングテーマ「噓つき」を担当しています。『火狩りの王』という作品に対して、どんな印象を持ちましたか?

家入レオ(以下、家入):噓のない作品だなと思いました。ここ数年はコロナ禍という状況で、結婚も増えたし離婚も増えたというニュース記事を読んだのですが、それはきっと、忙しさのあまり先延ばしにしていた事柄と対峙し、その答えを、多くの人が導きだした結果なのだと思っています。時間があるからこそ自分自身と向き合い、結婚や離婚という結論に至ったのかな、と。自分と向き合うというのは、どちらかというと苦しい作業だと私は思っていて、その苦しみから少し距離をとるために、視野を狭めすぎないように、この数年はポジティブな作品やライトな作品が好まれる傾向にあったように思います。それってとても素敵なことだと思うんです。と同時に、その流れの中でアニメ『火狩りの王』は、人生の光と闇の両方が描写されていて、「こういう作品が本当に必要だったな」と思いましたし、人生の楽しい部分だけじゃなく、そこで生まれる葛藤や裏切りなどもあって、それをアニメという形で描き出す勇気に、とても感銘を受けました。

ーー物語は、最終戦争が終わった後の世界で、火やエネルギーを失った人類が過酷な状況で生きています。もしかすると、今の社会の先にあるかもしれない未来が描かれていると思うと、ゾッとしました。

家入:はい。舞台が最終戦争後の世界ということで、何百年先か何千年先か分かりませんけど、『火狩りの王』のような世界が誕生してしまう可能性って、意外と低くはないんじゃないかと思っています。原始時代から現代、そしてもっと先の未来……結局人間という生き物は、何も変わっていないんだなと思いました。それぞれの立場から見た正義や平和があって、それを知ることでまた葛藤が生まれます。また主人公の灯子をはじめ、メインキャラクターはみんな子供なんです。父親を殺されたとか母親を失ったとか、最初は復讐を生きる意味にしていて、そんな中で、自分と同じような人がいると知ることで、またひとつ表情が大人になっていく。半径1メートルの世界で生きていたのが、どんどん出会いが増えることによって価値観も新しくなって。それって多分、昔も今も未来も変わらない。そういう意味では、とても普遍的なテーマを描いていると思いました。

ーー原作小説は、もともとSF児童文学のシリーズ作品として発表されたものですが、押井守さんが脚本を手がけることによって、大人も楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっていますね。

家入:本当にそうですよね。これだけ伏線があって考えさせられるテーマの作品で、しかも実写ではなくアニメだからこそ、目をつぶらないで直視しようと思える部分があると思います。原作小説でも、時に残酷な描写があったりしますけど、アニメだからこそ「観られない」と思いつつも「観なきゃ」という気持ちにさせてくれるというか。アニメに今まであまり触れてこなかったような大人の人も含め、ぜひたくさんの人に観ていただきたい作品です。

ーーそういう深みのある作品のオープニングテーマを担当するのは、どういうお気持ちでしたか?

家入:お話をいただいて、プロットと原作小説を読んで思ったのは、自分の美学とすごく似ている部分があるなと感じました。もしかすると、そういう共通項を感じて、お声がけいただけたのかもしれません。それに、子供の頃に学校で教えられてきたことは、友達100人できるといいなとか、夢を見ることは良いことだということだったり、もちろん人生にはそういう側面もありますけど、「生きることは楽しい」ということだけを教えられていると、いざ社会に出た時に「こんな過酷な現実があるんだ」と、免疫がなさすぎてすぐに心が折れてしまう人もいると思うんです。それなら私は、光もあるけどその対となる闇もあるということを、知りたいと思う人間です。『火狩りの王』では、生きることの美しさと残酷さが、ちゃんと描かれていて。「噓つき」の歌詞でも、〈ねぇ逃げて負けて泣き叫んで 諦めても わがままでも それも 生きてるってことだと 気付いたの〉と歌っていますけど、そういうことも生きているということの一部なんだよと伝えたかったんです。生きることは楽しいことだけじゃないよ、と。でも、だから大丈夫なんだよ、という光を歌詞にしました。

ーー家入さんはこれまでも、特に10代の頃は、世の中にあるものだけを信じるのではなく、疑いの目を持つようなメッセージソングも歌ってきました。「噓つき」は、そういった部分にも通じるものを感じます。

家入:はい。「噓つき」は、“子供から見た時の大人”という視点を、すごく大事にしようと思って書きました。実際に主人公たちは子供ですし、灯子はまだすごく幼い。子供が大人を責める時の言葉として、「噓つき」は、すごく使われるんじゃないかと思います。だからこそ「これがこうだから嫌なんです」といった風に、理論的だったり専門用語を多用して書くよりも、子供のピュアな言葉が一番刺さるし、ハッとさせられる気がして。『火狩りの王』の中にも、そういうシーンがたくさん散りばめられていました。だから自分も、武器を装備しない強さ、何も知らない強さというものを、曲で伝えられたらいいなと思いました。

ーー親が仕事で約束を守れなかった時など、「噓つき」と言ってしまった経験はきっと誰にでもあると思います。無垢な子供の言葉だからこそ、辛辣に刺さるわけですね。サウンド面では、最初はリズム楽器が全くなく、暗闇の中にボウッと明かりが灯っていて、その光に向かって進んでいくような雰囲気を感じました。

家入:作曲・編曲は石崎光さんなのですが、もともとこのメロディ自体は楽曲のタネとして以前からあったもので、いつか形にできたらいいなと思っていました。そんな時に今回のお話をいただき、「あのメロディが絶対に合う!」と直感的に閃いたんです。それで、それぞれプロットや原作小説を読んで、お互いに感じたことを話し合って。先ほどもお話した、「何も知らない強さ」をサウンド面でも表現したいと思いました。その上で弦を入れたいという話になったのですが、途中で出てくる不協和音のストリングスが、本当に心をかき乱すようなサウンドで。歌詞の〈白と黒じゃ選べないの〉という気持ちを、音でも表現できたのではないかと思います。そういった面でも、改めて石崎さんのすごさを実感しました。

ーー先ほどおっしゃっていた子供の目線というものから考えてみると、あの畳みかけるメロディが、まるで子供が駄々をこねているようなものに思えました。

家入:そこはまさしく、私もそういったイメージを持ちました。抑えていない、大人になろうとしていない感じが、胸を打つのだと思います。

ーー楽曲全体としては、とても不思議な浮遊感とか透明感があるなと思いました。

家入:それは、半分しか現実を生きていないからだと思います。主人公の灯子たちは、生きるのが苦しすぎて、ファンタジーというか自分の想像力に逃げているところがある。私もちょうどデビュー10周年を迎える前に、自分に音楽が向いているのか迷った時期があったのですが、その時はこうして人と話している時でも、魂が半分違う場所にあるような状態でした。そういった苦しい時期の、生きているようで生きていないという感じが、このサウンドにも表れているのだと思います。「ここにはいるけど、この子って、どこにもいないな」って感じる時ってありませんか? そういう感じじゃないかと思います。

ーー心ここにあらずみたいな。でもその浮遊感がとても心地よくて、オープニングからアニメ本編へとスッと入っていけると思いました。

家入:良かったです。ありがとうございます。

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