THE YELLOW MONKEYはさらに新たな物語を進んでいく 3年半ぶりの東京ドーム公演で刻み込んだ“今”
THE YELLOW MONKEYが4月27日、東京ドーム公演『THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 "SHINE ON"』を開催した。
彼らがライブを行うのは、コロナ禍真っ只中の2020年11〜12月に実施された『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』以来、約3年4カ月ぶりのこと。『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』以降、一時的にバンドの動きを止めてメンバーそれぞれソロ活動を行っていたTHE YELLOW MONKEYだったが、この期間も決して順風満帆とは言えないものがあった。もちろん、brainchild’sとして作品発表&ライブを行った菊地英昭(Gt/以下、EMMA)、ソロ名義のほかHEESEY WITH DUDESやTYOとしても周年ライブを行った廣瀬洋一(Ba/以下、HEESEY)、ドラマーとしてさまざまなアーティストとの共演を重ねてきた菊地英二(Dr/以下、ANNIE)と、順調に音楽活動を続けていたメンバーもいたが、フロントマンの吉井和哉(Vo/Gt)は2021年夏にソロ活動を再開させるも、翌2022年1月に喉の不調でソロツアーを中止。以降、2年近くにおよびライブ活動を停止していたが、2023年10月に自身の健康状態について報告。3度にわたる声帯ポリープの手術ののち早期の咽頭ガンであったことが明らかになり、ガンは根治したものの完全復活にまで至っていないことがアナウンスされた(※1)。
しかし、バンドは吉井の回復に合わせて新曲を準備。同年11月からスタートしたドラマ『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-』(WOWOW)の主題歌として、書き下ろし新曲「ホテルニュートリノ」を提供し、翌2024年1月1日にデジタルリリース。これと前後して、2023年12月28日には日本武道館で無観客生配信イベントを実施し、翌年3月には全国5都市をまわる『THE YELLOW MONKEY SUPER BELIEVER. Meeting 2024』を開催し、ファンを喜ばせた。
そんななかで決定した、2020年11月以来となる東京ドーム公演。当時は観客数や声出しなどの制限もあったが、フルキャパシティで観客の声出しあり公演となると2020年2月の京セラドーム大阪公演以来となり、この日は誰もが待ち望んだ一日となることは明白だった。と同時に、昨年10月の時点ではフルステージをまっとうするにはまだまだ満足のいく状態ではなかった吉井が、そこから半年を経てどこまで回復しているのか。少なからず不安も抱えてこの日を迎えた筆者のようなファンも、きっといたことだろう。
そんな複雑な感情のまま、クラシックロックの名曲が流れる会場に一歩足を踏み入れると、ステージ上のスクリーンでは開演に向けたカウントダウンが進んでいた。その数字が100秒を切ったところで、客席からは盛大な拍手と声援が湧き上がり、眩い照明と相まって次第と高揚感が増していく。カウントが“0”になったところで会場が暗転し、スクリーンにライブタイトルが表示される。オープニングSEに続いて会場内にピアノの音色が流れ始めると、ステージ上に次々とメンバーのシルエットが浮かび上がる。そこからサイケデリックなオルガンを背に、吉井が「ついにこの日がやってきました。今宵は“SHINE ON”、皆さんと俺たちが最も輝く日でありたいと思います。2020年に声が出せなくなった時、皆さんからたくさんの声を集めて、この東京ドームで2万人と、小規模でやらせていただきました。その時の声もここで復活させたいと思います。今日は遠慮なくたくさん大きな声で、騒ごうぜ!」と挨拶。このエモーショナルなメッセージに、感情を抑えきれないオーディエンスは喜びの声を上げ、吉井のカウントに続いてある名曲のワンフレーズを大合唱する。前回の東京ドームでは涙を呑んで無言でステージと向き合ったが、この日は思う存分に歌える……そんな気持ちが会場の約5万人からダイレクトに伝わるなか、ライブは「バラ色の日々」にてドラマチックなスタートを遂げた。
この日は2016年の再集結以降バンドをサポートしてきた鶴谷崇(Key)に加え、90年代のTHE YELLOW MONKEYにとって欠かせない存在だった三国義貴(Key)が約20年ぶりに参加。そんなスペシャルな編成から繰り出されるグルーヴィーな演奏に合わせて、オーディエンスはバンドに負けじと大きな声で歌い楽しむ。そんな幸せな光景を前に、吉井は伸びやかな歌声を響かせ、復活を高らかにアピールしてみせた。そこから吉井とEMMAが2本のギターリフを絡ませて進行する新曲「SHINE ON」で、バンドの現在進行形の姿を提示。渋みのなかにもセクシーさが感じられるこの曲では、観客がクラップを重ねることでさらなる一体感を見せた。
ここまでの2曲で事前に抱えていた不安が完全に払拭された……そんなオーディエンスも多かったことだろう。加えて、「ここまで長かったです。いろいろ言いたいことはたくさんありますけど、今夜はそういうことよりも、THE YELLOW MONKEYのロックンロールを久しぶりにぶちかましたいと思います。ヒット曲はありませんけど、代表曲のオンパレードでいきます!」という吉井の言葉に、さらに高揚した気持ちでライブと向き合えたのではないだろうか。
以降も「Romantist Taste」「Tactics」「聖なる海とサンシャイン」「BURN」「ROCK STAR」と、人気のシングル曲やライブに欠かせない定番曲を連発。要所要所でオーディエンスのシンガロングも発動し、ようやくコロナ禍前までの“あの頃”が戻ってきたと手応えを感じる瞬間も多々あった。それは我々観客のみならず、ステージ上のメンバーも一緒で、歓喜に満ちた観客の歌声を前に、吉井をはじめとするメンバーたちは何度も笑みを浮かべていた。個人的には、序盤のハイライトとして「聖なる海とサンシャイン」を挙げておきたい。ライブでそれほど頻繁に披露される楽曲ではないものの、この日は曲のイントロダクションとしてEMMAの情熱的なギターソロを用意。バイオリンやオルガンを彷彿とさせるサウンドエフェクトが施されたギターサウンドに鶴谷が奏でるシンセサイザーが重なることで、往年のLed Zeppelinを思わせる幻想的な空気を見事に作り上げた。もちろん、曲本編に突入してからもEMMAの「抑揚を抑えながらも、随所でエモーショナルさを見せる」ギタープレイは冴え渡っており、バンドが今も進化を続けていることが窺えた。
続くMCで、吉井は「因縁の東京ドーム」という表現をしたが、その“因縁”はこの日もつきまとうこととなる。この前後から、吉井の声が序盤とは違って聴こえ始めたのだ。すでにこのMCの時点で彼は声を枯らしており、ベストな状態ではないことが窺える。しかし、「楽園」「SPARK」と往年の名曲が立て続けに披露されると、吉井はそんなことお構いなしに情熱的な歌とパフォーマンスで観る者を魅了。そんな彼をバンドはエネルギッシュな演奏で支え、客席からも温かい歓声や歌声、クラップが送られ、特別な空気感を作り上げていく。途中、ANNIEによるダイナミックなドラムソロ、HEESEYを迎えてのリズム隊ソロなどを挟んで新曲「ソナタの暗闇」、再集結後のライブ定番曲「天道虫」でTHE YELLOW MONKEYの“今”を見せつけ、ヒットシングル「太陽が燃えている」ではEMMAがアリーナ中央のミニステージで圧巻のギターソロを披露するなど、緩急に富んだセットリストで楽しませてくれた。
その後、本公演で唯一の映像演出が用意された。ここでは吉井の声帯の映像が公開されると同時に、彼の喉の不調から手術、そしてガン発覚とその治療、復活に向けた準備などが吉井やメンバーのコメントとともに紹介されていく。「死を意識した」という吉井の発言が、東京ドームにいる5万人にズシリと響く……そんなドキュメンタリー映像に続いて「人生の終わり (FOR GRANDMOTHER)」が演奏されるという構成は、それまでの祝福モードとは異なるシリアスなものだった。死と直面した時期を乗り越え、今この曲を鳴らす意味。かつて自身の祖母に送ったこの曲を、時が経ち年齢を重ね、自分自身の人生と重ねて表現する理由。〈僕が犯されたロックンロールに希望なんてないよ/あるのは気休めみたいな興奮だけ それだけさ〉という歌詞がリリース当時以上に重く響き、声を枯らしながら歌う吉井や、情熱的な演奏で彼の思いに応えるバンドの面々の覚悟が痛いほどに伝わった。