むト、自らの声に自信が持てるようになるまで シングル『愛故/硝子細工』の制作過程を明かす

むト、自分の声に自身を持つまで

 TikTokでの弾き語り動画をきっかけに表現力豊かな歌声で注目を集め、昨年はMAISONdesや須田景凪の楽曲に参加したことも記憶に新しい新世代アーティスト・むト。彼女が最新シングル『愛故/硝子細工』をリリースした。この作品には、『百千さん家のあやかし王子』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマとして自身初のアニメタイアップ曲となった「愛故」や、気鋭のボカロP・是が提供した「硝子細工」など全3曲を収録。楽曲ごとに様々な表情を見せている。彼女のこれまでや、最新シングルの制作過程を聞いた。 (杉山仁)

『うごメモ』きっかけで興味を持ったボカロ曲

――むトさんが音楽を好きになったきっかけはどんなものだったんですか?

むト:私の場合、小さい頃にピアノを習い始めて15年ぐらい続けていたり、吹奏楽部に入っていたりと、昔から音楽に触れる機会がたくさんありました。家族で出かけるときに車で流れる音楽を母と一緒に歌ったりするのもすごく好きで、本格的に歌い始めたのは中学1年生の頃からでしたけど、歌自体はずっと好きでした。

――2分の1成人式の頃には、すでに「歌手になりたい」と思っていたそうですね。

むト:2分の1成人式でひとりずつ将来の夢を言うイベントがあって、そのときに「歌手になりたい」と言っていました。でも、本当は小説家になりたいと思っていて……。当時の私は本が大好きで、中でもファンタジーがすごく好きで。自分でもそういう物語を書いていました。なのになぜか当日、「歌手になりたい」と言ってしまったんですよね(笑)。

――むトさんは世界観を大切にした活動をしている印象があるので、小説も好きだったという話はすごく納得できますね。歌ではどんなアーティストが好きだったんでしょう?

むト:今だと憧れているのは美波さんで、美波さんをきっかけにギターを始めたりもしました。その前というと……大塚 愛さんのような方たちですね。そこから、中学生になっていく頃には、ボカロ曲ばかりを聴くようになっていきました。

――むトさんがボカロ曲に出会ったのは、ニンテンドー3DSの『うごくメモ帳 3D』(描いたイラストをパラパラマンガ風に動かせるゲームソフト/以下『うごメモ』)だったそうですね。『うごメモ』は音をつけられる機能があって、ボカロ曲もよく使われていました。

むト:米津玄師(ハチ)さん、DECO*27さんもそうですけど、当時あまり顔出しをしていないようなアーティストさんの曲もたくさん使われていて、「なんだこれは?」といろんなアーティストさんを調べるようになったんです。ボカロ曲は、人には出せないほどハイトーンが高かったり、リズムが速かったりと、私の常識を覆すような曲が多くて、「音楽ってルールに縛られないでいいんだな」と思いました。ピノキオピーさんの「胸いっぱいのダメを」とか、今はヨルシカをやられているn-bunaさんの「ウミユリ海底譚」とかを毎回カラオケで歌ったりもしていました。

――ボカロ以外ではどうでしょう?

むト:美波さんの「ライラック」はずっと聴いていました。あとは、ずっと真夜中でいいのに。の楽曲もよく聴いていて、中でも「マイノリティ脈絡」がすごく好きでした。

――自分で歌を投稿してみようと思ったきっかけはどんなものだったんでしょう?

むト:実は初めて歌を投稿したのも『うごメモ』だったんです。それまで、プロじゃないと歌を聴いてもらえる機会なんてないと思っていたのに、自分でも歌を投稿できることに衝撃を受けて。そこで友達ができたり、聴いてくれる人が増えたりしたことがすごく嬉しかったです。ただ、『うごメモ』はその後サービス終了してしまうんですよね(2013年)。それで、その年のお年玉を使ってマイクやインターフェイスなどを全部揃えて、本格的に活動を始めました。

歌いながら「自分らしい歌い方」を見つけていった

――活動を始めてから今までの間で、特に印象に残っていることはありますか?

@muto.k___ @りりあ。さんと@にんじんさんがかっこ良すぎてつい。 #クリープハイプ #社会の窓 #弾き語り #ギター #16歳 #運営さん大好き #おすすめのりたい #バズれ ♬ オリジナル楽曲 - 神透むト - むト

むト:途中で思い立って、TikTokで弾き語りを始めたんですけど、ありがたいことに2つ目の投稿(クリープハイプ「社会の窓」のカバー)をたくさんの方が聴いてくださって、それが「本格的に音楽をやっていきたい」と思うターニングポイントになりました。ちょうど弾き語り自体がTikTok内でも盛り上がっていた頃で。

――当時の歌い方は、今の歌い方とはかなり違いますね。

むト:おっしゃる通りで、昔はyamaさんのようなかっこいい歌い方に憧れていたんです。でも、自分の場合は声帯が細くて歌が薄くなってしまうので、「もっと自分に似合う曲や似合う歌い方があるんじゃないか」と模索し始めたんです。そうしてカバーを投稿していく中で、「こういう曲が似合ってるね」と感想をもらったり、「こういう曲も似合うのかな」と新しい自分を見つける機会があって、どんどん変わっていったんだと思います。

――憧れていた理想の歌声ではなく、自分自身の歌声に自信が持てるようになっていったという感じですか。

むト:そうですね。最初に気づいたときは、「やりたいことと似合うことが違う」と、自分の声質が嫌になったりもしました。でも、最近は自分の声にも自信を持てるようになってきたと思います。

――憧れるシンガーの方についても、また違うタイプの方が増えたりしていますか?

むト:確かに言われてみると、美波さんや、ずとまよ。のACAねさんって力強い歌声の方々だと思うんですけど、ヨルシカのsuisさんとか、Cö shu Nieの中村未来さんとか、柔らかい表現も得意とされているような方にまで広がっているような気がします。

――他にこれまでの活動では、須田景凪さんの「いびつな心 feat. むト」やMAISONdesの「トラエノヒメ feat. むト, Sohbana」といった楽曲へのゲスト参加も気になります。

むト:私はもともとバルーンさん(須田景凪のボカロP名義)の曲をずっと聴かせていただいていたので、「いびつな心 feat. むト」に参加できたことは、夢のような体験でした。須田さんにボーカルのディレクションをしていただいたんですけど、「もっとこういう歌い方をしてほしい」と丁寧にディレクションしてくださって。そのおかげで強い歌い方をすることができました。「トラエノヒメ feat. むト, Sohbana」では、声質としては綺麗さやかっこよさよりも“可愛い”を目指して歌いました。これもSohbanaさんと話し合いながら歌って、すごく成長できる機会になりました。

――誰かと一緒にひとつの曲を作っていくことで、引き出しが広がっていったのですね。

むト:普段家で録っていると、そういう経験って全くないので。「自分ってこんな歌い方もできるんだ」と新しい発見があって、その後の活動にも活きている気がします。

――むトさんが音楽を作るときに大切にしているのはどんなことですか?

むト:最近だと、喋るように歌うのが好きで、話し声をそのまま歌にしたような歌い方を大切にしています。単語が繋がっていたりとか、そういう歌い方が好きなので。あとはやっぱり世界観作りはとても大切で、アートワークも含めて、統一感を大事にして、自分が好きな世界観を表現したいと思っています。これは活動を始めたときからずっと変わらないことです。カバーするときには、原曲をたくさん聴き込んで、原曲との解釈違いが起こらないように気をつけています。逆にオリジナル曲に対しては「いろんな曲を作ってみたい」と思っていて、自分が普段から思っていることを書き留めたりもしているので、そこから引っ張り出してきて曲を作ったりとかもやってみたいと思っています。

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