平理央がラブソングを通じて伝えたいこと 楽曲制作の原体験からデビューまでを振り返る

平理央がラブソングを通じて伝えたいこと

「ライブラリ」ができたおかげで今、生きれている気がする

平理央 - やさしい嘘 (Music Video)

――良い循環システムですね。「やさしい嘘」は結構パーソナルな曲だと思うんですけど、作り上げたときの手応えはどういうものでしたか。

平:こういうパーソナルな歌になればなるほど、手応えよりも「やっちゃったな」っていう罪悪感みたいな方が大きいかもしれないです。でもアレンジャーのdetch(CANDYGIRL)さんにソウルミュージック風のおしゃれな感じにして聴きやすくしてもらったから、みんなに聴いてもらってもギリギリ許されるかなと思います。

平理央 - 恋はラムネのように (Music Video)

――そして昨年8月に配信リリースされた「恋はラムネのように」は神宮外苑花火大会をモチーフにした歌詞に、シティポップ調の軽快なサウンドが組み合わさっていますが、これはどんな制作でしたか。

平:僕が通っていた高校が、神宮外苑花火大会をやっている神宮球場(明治神宮野球場)に近くて。だから花火大会のときの学校の雰囲気や匂い、温度感みたいなものが夏の楽しさを象徴するものとして自分のなかに残っていて。あの街で青春を送った僕だからこそ書けるものがあるんじゃないかなと思って書いた曲です。もともとは全然違うテーマの曲だったんですけど、アレンジをつけてもらってその音を聴いたときにインスピレーションが広がって「これは花火大会の歌だ!」って思ったんですよ。雷に打たれたみたいな感覚で、新しい命を吹き込まれた感じがしました。

――このあたりになるとリリースを前提に曲を作られていたと思いますが、曲作りも以前とは違ってきましたか。

平:そうですね。誰が聴いてもわかるものにしなきゃいけないという気持ちはありますし、だからこそ何回も書き直しました。やっぱりパーソナルすぎる内容だと、僕はこういう人間なんですと言ってるに過ぎないので。みんなに伝わるものって何だろう、どういう状況がキュンキュンするんだろうとか、そういうことを周りの友人たちに恋の話を聞かせてもらって、全力でそれに共感して自分が体験したかのように体に入れまくることを、とにかくしていました。僕ではない他人の物語を自分のこととして受け止める、そのワンクッションがあって書いた曲って伝わるものになるなって。だから他者と喋ることが、音楽で人に伝えることの第一歩だなと思いました。「恋はラムネのように」はそういう試みがあってできた曲です。

平理央 - ライブラリ (Music Video)

――そして今年の2月14日に配信リリースされたばかりの「ライブラリ」はまさに、平さんのそうした曲作りの過程があってこそ生まれた珠玉のバラードですね。〈好きになってほしいから/好きになったわけじゃない〉というサビは特に、発明的フレーズだと思います。

平:僕もこの曲は今のところ、自分が書いた曲のなかで一番好きです。自分とは切り離したところで周りにも伝わる曲って何だろうっていうことと、もともと自分が大事にしてきた美学の両方を、なんとか合わせて生み出すことができた曲なので、書けて良かったです。ミュージシャンとしてこれから生きていく上で、最低限この曲は書けなきゃいけなかっただろうなと思いますし、この曲のおかげで今、生きれている気がします。

――「あなたが好き」というシンプルな想いを、どんなオリジナリティでもって表現するのかはJ-POPの命題だと思うんですけど、そこに挑みつつ、平さんご自身の“人に好きだと伝えたくて曲を書き始めた”という原点にも繋がりますよね。どんな生みの苦しみがありましたか。

平:この曲を作ったのは夏だったんですけど。伝えるということに格闘していました。わかりはするけど、僕が歌わなくてもいいよねっていうものを書いてしまったら、それはプロじゃないと思うんで。でもなかなか納得いくものが書けなくて、たくさん悩んでいたときに……僕は信じられない距離を歩くと絶対に何かしら生まれるっていう決まりみたいなものがあって。30キロとか40キロとか、ボロボロになるまで歩いて、疲れたときに曲ができるみたいなことがあるんです。

ラブソングを通じて伝えたいもの

――確かに、Instagramの投稿を見てても「この人どれだけ歩くんだろう?」って思いました(笑)。

平: 自宅は東京の北の方の郊外なんですけど、そこからお台場まで歩いたんですね。それによって自分のなかにあるぐるぐるとした余計な思考や不安を取り払って、完全な瞑想状態に入るんです。自宅から歩いて、荒川橋を渡って、上野を過ぎて銀座を越えて、浜松町、そこからお台場に着く頃には夜でした。お台場の海浜公園で、屋形船が停まっているのを眺めながらへたりこんで汗びっしょびしょの状態だったんですけど、そこで「ライブラリ」の〈好きになってほしいから/好きになったわけじゃない〉というサビが全部出てきました。

――すごいですね。何時間歩いたんですか。

平:9時間です。自分のなかで、ポップスのバラードとしての正解を出したいというテーマがあって。玉置浩二さんだけでなく、J-POPのバラードがすごく好きなんですよね。絢香さんの「三日月」や平井堅さんの「瞳をとじて」、MISIAさんの曲にも好きなバラードがたくさんあります。そうした平成のJ-POPバラードを経て、SNSやマッチングアプリなどスマホで思い出をたくさん残せる今の時代の、切実でありのままのバラードを書きたいというテーマがあって作ったのが「ライブラリ」でした。

――これから10年、20年と歌い続けられる名刺代わりとなる曲ができましたね。

平:ありがとうございます。そう言ってもらえて良かった。頑張りました。

――平さんがラブソングを書く理由って何だと思いますか。

平:例えば初恋のときの、ご飯まで食べられなくなるほどの体の反応や大きな衝動って、大人になるとだんだんなくなってきたりもするんですけど……人が人を好きになるって恋愛だけじゃないというか、人生のなかで家族や友達を愛することのひとつのメタファーとして、ラブソングを捉えることもできるなと思っていて。今のところ僕にとってラブソングを書く理由というのは、あなたに恋してるっていうことだけじゃなくて、目の前にいる人が“かけがえのない人である”と伝えて、その存在を肯定したいんです。だから、僕を愛してくださいというよりも、「あなたは魅力的でとても素敵だよ」っていうことを伝えたい。そういう根本的な部分の肯定を、ラブソングを歌うことでやっていきたいなと思っています。

――これからアーティストとして多くの経験をされていくと思いますが、目標としていることや理想のアーティスト像はどのようなものですか。

平:「ライブラリ」を通していろんなミュージシャンの方からも反響をいただけているので、周りの素敵なミュージシャンを巻き込んで、少しずつカルチャームーブメント的なものにしていけたらいいな、なんてことは思います。J-POPをしっかり自信を持って作ることが今の音楽シーンに対するカウンターになるんじゃないかなと個人的には思っていますし、それを信じてくれている人たちが周りにいるので、ここからみんなを巻き込んでいろんな挑戦をしていけたらいいですね。

■リリース情報
Digital Single「やさしい嘘」
2023年5月31日リリース
配信サイトまとめ: https://riotaira.lnk.to/yasashiiuso

Digital Single「恋はラムネのように」
2023年8月16日リリース
配信サイトまとめ: https://riotaira.lnk.to/koiharamunenoyouni

Digital Single「ライブラリ」
発売日:2024年2月14日
配信サイトまとめ:https://riotaira.lnk.to/library

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