藤井 風、Number_i……ドラマだけでなくMVも“考察系”が流行 ヒットの要因と歴史を辿る

 近年、エンタメ作品において“考察を楽しめること”がヒットの要因のひとつになっている。

 テレビドラマなら『あなたの番です』(2019年/日本テレビ系)や『テセウスの船』(2020年/TBS系)、直近では『VIVANT』(2023年/TBS系)や現在放送中の『新空港占拠』(2024年/日本テレビ系)など、放送中に真犯人やストーリーの展開を予想する声が多数挙がっていた作品は数知れない。SNSが普及し、自身の意見を手軽に発信できるようになったことで、視聴者の作品との付き合い方も変化している。ただ内容を一方的に受け取るのではなく、いわば参加型。SNSなどで自身の解釈を述べ、それを見て気になった誰かが作品を視聴し、自然と作品が拡散されて話題性が高まっていく。考察系ドラマが増えるのには、こうした背景がひとつあるように思う。

 そんな考察系作品はテレビドラマに限った話ではなく、音楽シーンでも見られる。もともと、歌詞の意味や曲に込められたメッセージを考察する文化はあったと思うが、2010年代後半頃から増えているのが考察系のMVだ。

 それ以前のMVは、アーティストのパフォーマンスを中心としたものや、曲に合わせたショートドラマのようなものが多く制作されてきた。そんななかで、意味深なシーンを取り入れたり、別作品との繋がりを描いたりといった“謎解き”の要素を持ち込んだMVは、特にK-POPシーンにおいて顕著に表れていくようになった。

 なかでも多くの人が想像するのは、BTSだろう。「I NEED U」(2015年)から始まった“花様年華”シリーズは、その後も何年、何作品にもわたって膨大なストーリーを描いたものだ。起きている出来事が順を追って描かれているわけではなく、時系列はバラバラ。試しに「BTS考察」「花様年華 考察」などと検索すると、自身の考察をまとめたサイトやブログ記事が多数ヒットする。話の全貌やMV同士の関連性を把握するために、旧作と新作を何度も往復して観たくなる、ある種の仕組みとも言える。

BTS (방탄소년단) 'I NEED U' Official MV (Original ver.)

 考察系のMVが増えていったことは、MVが単なる楽曲のプロモーションを担う存在(いわゆる“PV”)ではなく、ひとつの映像作品/音楽作品として捉えられるようになったことも大きいだろう。たとえば、NewJeansの「Ditto」(2022年)は、この一曲に対して「side A」と「side B」に分かれた2本のMVが制作されており、曲よりもむしろ映像のほうに重きを置いていると言っても過言ではない。

NewJeans (뉴진스) 'Ditto' Official MV (side A)

 「Ditto」のMVに映るのは、ビデオカメラに残された学生時代の主人公とNewJeansのメンバーの姿。しかし、「side A」の終盤で、主人公の前からメンバーの姿は消えてしまう。気になって「side B」を視聴すると、主人公が自らビデオカメラを壊すシーンや、悲しそうな表情で佇むメンバーの姿が見られ、ラストは大人になった主人公が“映像と変わらない姿”のメンバーと再会するシーンで終わる。「Ditto」は曲だけ聴くと意中の相手への想いを歌った恋愛ソングに思えるのだが、MVの内容から「ファンとアイドルの関係性を歌っている」と解釈する声も多く、MVによって曲の世界観が広がった例と言えるだろう。

NewJeans (뉴진스) 'Ditto' Official MV (side B)

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