YOASOBI、なぜ「あぁ」が頻出? “らしさ”を作り出すikuraの歌の凄さ――全曲聴き比べてみた

 2023年の押しも押されもせぬ代表曲のひとつと言えば、誰もがYOASOBIの「アイドル」を思い浮かべるだろう。『第74回NHK紅白歌合戦』でもSEVENTEENやLE SSERAFIM、NewJeans、乃木坂46やNiziU、そしてano、橋本環奈といった錚々たるメンバーとのコラボレーションで番組のハイライトを生み出したことが印象深い。

 そんなYOASOBIの楽曲には、「あぁ」というワードが頻出することにお気づきだろうか?

 歌詞に記載される「あぁ(嗚呼)」はもちろん、フェイク、スキャットといった意味合いで使用される「あぁ」など、YOASOBIの楽曲にはさまざまな形で「あぁ」というワードがikuraのボーカルによって歌われている。本稿では、YOASOBIの全曲を通して聴き比べることで、それぞれにおける「あぁ」の役割を検証したいと思う。

 まずは、歌詞に記載されている〈嗚呼〉から振り返ってみたい。歌詞に〈嗚呼〉が使われているパターンは実はそこまで多くなく、「群青」と「もしも命が描けたら」の2曲。「群青」はikuraの〈嗚呼〉から〈いつもの様に/過ぎる日々にあくびが出る〉と、現実の世界で代わり映えしない日常を憂うフレーズに繋がっていく。「もしも命が描けたら」は〈僕が起こした奇跡に/涙流し喜ぶあなたに/どうしても伝えたい〉と、命と引き換えに“あなた”の愛する“彼”を救い出した“僕”の最後の想いを伝えるフレーズへと繋がっていく。「嗚呼」は感情に心を動かされて発する言葉であるが、「群青」では退屈さを憂う感情、「もしも命が描けたら」では人生の終わりを目前にした“僕”の覚悟の感情が込められている。YOASOBIのコンポーザーであるAyaseが歌詞に「嗚呼」を組み込む意図を感じさせる2曲と言えるだろう。

YOASOBI「群青」Official Music Video
YOASOBI「もしも命が描けたら」Official Music Video

 YOASOBIの名前を世に知らしめたデビュー曲「夜に駆ける」においても「あぁ」というフレーズが歌われている。最も分かりやすい箇所では最後のサビ前に使われている「あぁ」だろう。〈君の笑顔に溶けていく〉というフレーズから流れるように歌唱される「あぁ」のフェイク、その直後に転調し楽曲最大の山場であるラスサビに突入する。「夜に駆ける」に限らず、YOASOBI楽曲においては転調の直前に「あぁ」というフェイクが組み込まれるパターンがいくつか存在する。「優しい彗星」や「三原色」、「祝福」はその好例だ。ラストサビ+転調というと、Mr.Children「Tomorrow never knows」や宇多田ヒカル「First Love」、MISIA「Everything」といった日本のポップスを代表する名曲でも使われてきた、言わばJ-POPの黄金パターンとも言えるが、YOASOBIはこの黄金パターンに「あぁ」のフェイクを組み込むことでYOASOBIらしいJ-POPを確立したと言ってもいいだろう。

YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video

 テレビアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(毎日放送・TBS系)のオープニングテーマ「祝福」も、「あぁ」を合図にラストのサビで転調するという構成だ。加えて「祝福」には、2カ所で「あぁ」のフェイクが盛り込まれている。それはサビの〈ずっと共に戦うよ〉と〈目一杯の祝福を君に〉というフレーズ。実際に音源を聴いてみると「ずっと あぁ 共に戦うよ」「目一杯の あぁ 祝福を君に」と、フレーズの狭間に「あぁ」が組み込まれている。この〈目一杯の祝福を君に〉というフレーズは『水星の魔女』最終回となった第24話のタイトルにも使用され、楽曲におけるラストフレーズでアニメ作品も締めくくるという演出が『水星の魔女』ファンも巻き込み、大きな話題を呼んだ。楽曲にとってもタイアップ作品にとっても重要な〈目一杯の祝福を君に〉というフレーズに「あぁ」が挟み込まれていることは、YOASOBIにとっても「あぁ」というスキャットが楽曲を構成するひとつの重要な要素と考えていることの証左とも言えるのではないだろうか。

YOASOBI「祝福」Official Music Video (『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマ)

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