No Lie-Sense、ナンセンスを追求した10年 鈴木慶一とKERAが『Twisted Globe』を語り尽くす

No Lie-Sense『Twisted Globe』を語る

 人生とは不条理なもの。だからこそ、音楽にはナンセンスが必要だ。鈴木慶一(ムーンライダーズ)とKERA(ケラ&ザ・シンセサイザーズ、有頂天)が結成したNo Lie-Senseは、アバンギャルドなポップセンスと遊び心溢れる実験精神で音楽におけるナンセンスさを追求してきた。そして、今年2023年でデビュー10周年を迎えるなか、新作ミニアルバム『Twisted Globe』を12月27日、10インチのアナログでリリース。「未来」をテーマにして、No Lie-Sense的ナンセンスの新たな境地を切り開いた。ジャンル不明で意味不明。そんな作品を生み出して、ほくそ笑んでいる2人に話を聞いた。(村尾泰郎)

2050年くらいの「未来の音楽」がテーマ

――デビュー10周年おめでとうございます。『Twisted Globe』はアニバーサリーということで制作されたのでしょうか。

KERA:いえ、10周年なのは忘れてました(笑)。

慶一:10年以上やってる気がするよ(笑)。

KERA:今年3月に僕の還暦記念ライブをやった時に、慶一さんにゲストに来てもらって、そのステージで「そろそろやりましょうか」って言ったんですよ。それで4月に僕の芝居が終わってから、次の芝居までの合間を縫って、小さなものでもいいから何か作ろうってことになったんです。

慶一:時間的にフルアルバムは作れないし、ミニアルバムでどうかな、と考えて10インチになった。

――5曲入りで10インチというサイズ感がいいですよね。あまりないフォーマットなのでアニバーサリー感が出ている気がします。前作『駄々録~Dadalogue』(2020年)はアルバム制作中に「ダダ」というテーマが生まれたそうですが、今回も何かテーマがあるのでしょうか?

KERA:今回は作る前に話をしましたね。そこで「未来」とか「SF」というキーワードが出た。

慶一:未来の音楽、というか、未来に鳴っている音楽を想像して作ってみようと。

――イメージとしてはどれくらい未来なんですか?

慶一:2050年くらいかな。

KERA:我々はそれ以上生きてないだろうし(笑)。僕がSFを題材にした芝居を作ろうとしていたのもあったんですよね。

慶一:そして、未来というキーワードのもとに使う楽器を選んでいった。

――そういうわけで、今回は電子楽器が多いんですね。

慶一:未来の音楽を考えると、ギターよりもガジェットっぽい電子楽器かなと。

――今回使われた電子楽器の音はチープでノイジー。最近のエレクトロニックポップのサウンドとはちょっと違います。

慶一:今のエレクトロニカはやけに音がきれいだからね。まず、最初のレコーディングの日にKERAがインスタコードというものを持ってきたんだ。ボタンを押すとコードの音が鳴る、ギターみたいな形の電子楽器。

KERA:たまたま買ってたんです。曲を作る時に、どのコードがいいのかを確認しようと思って。

慶一:No Lie-Senseのアルバムを作る時は、まず新しい楽器を持ってくる。しかも、小さな楽器(笑)。

KERA。その楽器を使っていると、毎回面白いものが生まれるんですよね。そういうことってNo Lie-Senseだけですけど。

――インスタコードの音色に導かれて曲が生まれていった?

慶一:インスタコードっていうのはギターを弾き慣れていると扱いにくいんだけど、使っているうちにギターを弾くのをやめたんだ。今回は1曲も弾いてなくて、使った弦楽器はバンジョーだけ。

KERA:慶一さんがギターを一切弾いてないというのも、このアルバムの特徴ですね。

――一方、KERAさんがいろんな電子楽器を弾いてますよね。

KERA:どうやって弾くのかわからないまま音を出しているんですよ。The Rolling Stonesのブライアン・ジョーンズが、レコーディング前に楽器屋でインドの楽器とかいろいろ買ってきて弾き方もわからないまま使ってたじゃないですか。よく言うとそんな感じです。よく言いすぎだけど(笑)。

――楽器が弾けないまま勘で演奏する、というのはニュー・ウェイヴ精神に通じるところもありますね。

KERA:そうだね。インスタコードを使って曲を書いたから、今回はコードからメロディを考えてるんです。そこはこれまでの作曲法と違うところですね。これまでは僕が持ってきたメロディに、慶一さんなりゴンちゃん(レコーディングエンジニアを担当したゴンドウトモヒコ)にコードを当ててもらって、しっくりするものを選んでたんです。インスタコードを使って曲を作っているうちに、コードに合わせてメロディを変えるのも面白いと思えてきた。

――そうした変化の影響もあってか、今作はこれまで以上に曲の珍妙度が増しましたね。歌詞も音楽もナンセンスさが深まった。ナンセンスという病が進行したというか。

KERA:病って(笑)。

慶一:未来の音楽、というテーマということもあったかもしれないけれど、2人でやってるとどんどん珍妙になっていくんだよ。

実験性、デタラメさと緻密さ、自虐のユーモア…2人が生み出す“ねじれ”は極限状態に

No Lie-Sense 10周年記念ミニアルバムTwistedGrobe

――アルバムだと全体のバランスやコンセプトが練られているのでどこか整合性があるんですけど、今回はそういったものから解き放たれたぶん、1曲1曲が濃い。なので、収録曲について最初から順番に伺いたいと思います。まずは「ディストピア讃歌」。これはKERAさんの曲ですが、本作でこれが一番ポップと言えるかもしれません。

KERA:他の曲のバランスを見て曲を書いたからポップになったんです。自分の癖ですごく早口で歌うところがあるんですよ。舌を噛みそうになるくらい。ライブでは大変だろうな、と思いながら曲を書いてました。

――ジャズっぽいところがあったり、宇宙人と地球人の会話が入ってシアトリカルなところがあったりと、KERAさんのテイストが出ていますね。

KERA:宇宙人は謙虚なんだけど地球人の方は逼迫していて、なんだかんだで宇宙人がじわじわと地球を支配する。映画の『マーズ・アタック!』とか筒井康隆の小説みたいな世界ですね。

慶一:宇宙人の声をどうするかでかなり苦労した。

KERA:高い声を重ねているんですけど、わかりやすく高い声だけにするとか、逆に低くしてみるとか、いろんなやり方を検討しましたね。

――昭和の特撮に出てくる宇宙人みたいな感じですよね。この曲には本日休演の岩出拓十郎さんがギターで参加しています。慶一さんは過去に本日休演と共演をされていますが、そういう縁で?

慶一:この作品を作っている時にKERAが突然、本日休演のファンになったんだよ。それでKERAの提案で弾いてもらった。シンセが大量に入っているカオスなパートだけど、KERAはそれだけでは足りないと思ったんだろね。

KERA:慶一さんがギター弾かない宣言をしていたので、じゃあ、岩出くんに頼もうと思ったんです。絶対、こういうギターはうまいと思っていたから。すっごい顔して弾いてましたよ(笑)。

ーーUFOが大挙して地球に押し寄せている映像が浮かびました(笑)。2曲目は慶一さんの曲で「越し難き敷居を蹴る時」というすごいタイトルです。

慶一:これは変なことを思いついてやってみた曲だ。パッと和音が鳴って、それが16分音符ずれる。打ち込みも全部ずらしてあったり、いわばディレイ効果なんだけど、そこにメロディを乗せるっていうのをやってみたくて。かつて現代音楽の人たちが生でやっていたようなことなんだけどね。

ーー現代音楽に通じる実験性を遊び感覚でやってるのがNo Lie-Senseらしいところですが、不思議なメロディですね。ちょっと雅楽っぽい感じもあって。

慶一:ロックでもポップスでもないメロディを乗せようと思って。いろんなメロディを試してみた。

ーー〈蛇蝎磨渇(だかつまかつ)それまたマジヤバシく〉というサビは、歌で聴くとお経みたいで何を言ってるのかわかりません。でも、〈蛇蝎磨渇〉というパーカッシブな言葉の響きが特徴で、それがメロディに乗ってギクシャクした奇妙なグルーヴを生み出してますね。

慶一:ギクシャク感は重要だね。ジェイムズ・ブラウン的だ、なんてムチャクチャなこと言ってるけど(笑)。

KERA:〈蛇蝎じゃないので 蛇じゃないので〉って二重に否定するところがおかしいんだよね。蛇と思われるのがよほど心外なんだって思って(笑)。

慶一:最近、衛星放送のヒストリーチャンネルばっかり見てて。古代の歴史とか宗教とかを知ると、蛇と人間の間に何かあったに違いないって思うんだよ。蛇って神だったり、悪魔だったりするから。

ーー〈蛇〉の次が〈猿〉。「モンキー・ガールズ」はKERAさんが書いた曲ですが、どうやら猿の子供たちの物語ですね。

KERA:猿って僕が結構、歌詞に登場させる動物なんです。この曲は暗い宇宙空間に病院の白い部屋が浮かんでて、そこで生まれた赤ん坊が猿で、みたいなイメージですね。

――そういう話を伺うと『2001年宇宙の旅』や『猿の惑星』を連想しますが、歌詞でいろんな言葉遊びをしてますね。歌詞を文字で読まないとわからない仕掛けもあって。

KERA:レコーディングにすぐにでも行かないといけない状況で、うんうん言いながら書きました(笑)。

慶一:スタジオでKERAを待っていると「あと30分待ってください」という連絡が次々とくる。これは歌詞が書けてないな、と思ったよ(笑)。この曲はどんな歌詞がつくのか想像もつかなかったね。この曲に限らず、とんでもないメロディに一体どんな歌詞が乗るのか、それを待つ楽しみがNo Lie-Senseにはある。

――お二人の歌詞はどちらも常軌を逸してますから(笑)。この曲はサウンド面ではダブっぽいですね。

KERA:僕がメロとコードを持っていったら、慶一さんがレゲエにしようって。

慶一:KERAがインスタコードでコードを弾いたのを聴いて、レゲエが合うんじゃないかと思った。それもジャマイカじゃなくニュー・ウェイヴのレゲエ。The Pop Groupとかね。

――確かにエイドリアン・シャーウッドのダブワイズみたいに都会的で硬質なサウンドです。

KERA:そう。深夜な感じ。

慶一:それでゴンドウくんに「ドン・チェリーみたいなホーンが欲しい」と頼んでフリューゲルホーンを吹いてもらい、それを加工した。そして、私がシンベ(シンセベース)を入れたんだ。私が打ち込みでベースを入れる時は基本レゲエになる。ダブを初めて聴いた時の衝撃が大きかったからかな。

――KERAさんは、インスタコード、モノトロン、ローランドなど様々な電子楽器を弾いてます。

KERA:いやいや、弾くというよりノイズを出してるって感じですよ。

慶一:そのノイズをレゲエのリズムに合わせていくんだよ。どの音を合わせて、どの音を合わせないか。コンピュータの画面を見ながら緻密に作業をしていく。

――デタラメに演奏したものを緻密に加工する。デタラメさと緻密さが共存しているのもNo Lie-Senseの面白さですね。続く「唾と墨汁」は慶一さんの曲。曲名もすごいですけど、曲の最初の言葉が〈よだれかけ〉(笑)。もしかしたら、ロックの歌詞に初めて〈よだれかけ〉が登場した歴史的な瞬間かもしれません。

慶一:これはKERAを驚かそうと思って書いた。最近、慣れてきたのか驚かなくなってきたけど(笑)。

KERA:いや、あっけにとられましたよ。こんな歌詞が乗るなんて思いもしなかったから。

慶一:何か別のことで英語でよだれかけをなんていうのか調べてたんだよ。そしたら、このメロディに合うぞ、と閃いた。

――よだれかけの英単語を調べてた、というのもおかしい(笑)。この曲には〈尿瓶〉とか〈尿意が止まらない〉なんていう一節も出てきますが、それを老人の慶一さんが歌うことでさらにインパクトが増してますね。

KERA:同じ歌詞を若い人が歌っても、これほどの衝撃はないと思うよ。慶一さんが「ah-老衰mambo」(『駄々録~Dadalogue』収録曲)の歌詞を書いてきた時も驚いたけどね。自分だったら絶対あんな歌詞は書けない。70歳を超えた人が〈よだれかけ〉って歌うパワーはすごいよ。

――破壊的なまでに自虐的(笑)。

慶一:自虐は重要だよ。そういう自虐的なユーモアのセンスってイギリスにしかないんじゃないかな。

KERA:そうですね。イギリスの笑いって、まず自分を笑っちゃう。自虐で自分を落とすだけ落としたところから始めれば、キツいことを言っても大丈夫なんですよ。アメリカのコメディに時々イラっとさせられるのは、それがないからなんです。

――Monty Python(モンティ・パイソン)をはじめイギリス的なユーモアは、慶一さんとKERAさんに共通するものですね。この曲は音響的な仕掛けが施されているのも特徴です。突然、一音だけ大きくなったりして。

慶一:かなり細かく音を作ってるね。

KERA:慶一さんがほっぺたを叩いてパーカッションにしてたり。

慶一:あれ、痛かったよ(笑)。ああいうのって、コメディアンがよく、やってたんだ。

KERA:そうですよね。オチの時にほっぺたをポンと鳴らしたり。この曲って「イート・チョコレート・イート」(1stアルバム『First Suicide Note』収録曲)みたいにヴォードヴィルの曲っぽい雰囲気がありますね。

慶一:だから、歌詞の最後に「お時間が来たようで」と言ってる。

――演芸っぽさ、ヴォードヴィル感っていうのはNo Lie-Senseのエッセンスのひとつですよね。

KERA:うん。そこは継続していきたい。三木鶏郎からの流れもあるし。

慶一:モンティ・パイソンにもヴォードヴィル感あるからね。

――そして、最後の曲がKERAさんの曲で「デンドロカカリヤ」。

慶一:(今回の作品に)インスト曲が入っていた方がいいねって話をしたら、KERAがインスタコードで作ってきてくれた。

KERA:アルバムのエンディングになるような曲が欲しい、ということなのかな、と思って、ちょっと寂しくて、でもメロディ自体は暗くないようなものにしました。すごくシンプルなメロディーですけどね。

慶一:メロディを聴いた時、The Village Stompersの「ワシントン広場の夜はふけて(Washington Square)」という曲を思い出したよ。

KERA:ああ、確かに。昔、サントリーのCMで使われてましたね。あと、サミュエル・ホイがカヴァーしてるんですよ。子供達のコーラスで。

――へえー。それは知りませんでした。それにしてもすごい曲名です。

KERA:安部公房の小説のタイトルなんです(『水中都市・デンドロカカリヤ』)。レコーディングの時、曲に声を入れようということになって、その場で思いついたんです。メロディに合うなって。

――最後に脈絡なく安部公房が出てくるというのもすごい。サミュエル・ホイにも歌って欲しいですね(笑)。

慶一:この10インチも、ここまでくるとねじれ具合が極限状態になってるね。かなり〈TWISTED〉だ。

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