Vaundy、米津玄師、ヨルシカ……他者への“模倣”と“オマージュ”の意義を考える

 前置きが長くなってしまったが、Vaundyが掲げた「オリジナルはレプリカの来歴から生まれる。」というテーマは、表現の世界において広く共有されている考え方であり(表現の世界に限らず、学問や科学、哲学の領域においても同じことが言えるだろう)、米津やヨルシカが象徴的なように、そうしたテーマを強く意識して作品を作り上げているアーティストも多い。そのことを踏まえたうえで、Vaundyの新作『replica』に込められた真意について迫っていきたい。

「『やっぱ僕らはレプリカなんだ』っていう自覚が必要で。『オリジナルを作ってる』なんて言ってはいけないと思ってるんです。(中略)オリジナルはどっかにあるかもしれないですけど、オリジナルを作るとなると、火をおこすところまで遡らないと無理なんですよね。だからもう無視するとして。何か核になるものがあって、それに対して世界中にあるレプリカたちが毎日、毎秒、層を作っていって、僕らはその上に立っている。『レプリカのレプリカのレプリカのレプリカ』をずっと作ってるんですよね。レプリカ同士が混ざって、また新しい音楽が生まれたり。今のポップスの核に近い音楽は60〜70年代でほぼ確定してるんで、僕らはそこからレプリカの残像を作っているというか」

(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年12月号より)

 Vaundyは『ROCKIN'ON JAPAN』2023年12月号のインタビューで、音楽を作る過程についてこのように語っている。こうした発言からは、まさに前述した米津やn-bunaの考え方と通じるものであることが伝わると思う。彼は、同インタビューでそれぞれの曲の参照元を説明していて、たとえば「常熱」と「宮」のサウンドのあたたかみは細野晴臣を、「美電球」は坂本慎太郎を意識して制作し、「NEO JAPAN」はBUDDHA BRANDの「人間発電所」のような曲が作りたくて作ったと、制作背景を明かしている。彼はほかにも、Nirvana、blur、Oasis、Radiohead、デヴィッド・ボウイ、The Beatlesなど、さまざまなアーティストの名前を参照元として挙げていた。しかし、このように明確な参照元があったとしても、各曲の歌のメロディ、そして彼自身の歌声やグルーヴは、ほかの誰にも代えられないものであることは間違いない。

 彼が語る“レプリカ”についての考え方は、作品のなかで直接的に言及されることはないが、Disc 1の最後に収録された「replica」(歌詞に〈Space Oddity〉というワードが出てくることからも明らかなように、この曲はデヴィッド・ボウイへのオマージュである)には、長年にわたり先人たちによって更新され続けてきた音楽史に向けて、自身の心情を直接語りかけるような歌詞がある。

〈原点はまた/その身に重ね/導くように僕らを廻す/そして、彼は模倣を称した。〉

 過去に生まれた他者の作品へのリスペクトをもって新しい音楽を生み出すことで、先人たちが繋いできた音楽史を更新していく。そうした営みが、何年後、何十年後、もしかしたら何世紀もあとの表現者にとっての創作の糧や指針、原動力になるかもしれない。そこからまた新しい作品が生まれ、その時代を生きる人々に最新のポップミュージックとして受容されていく。これまでの歴史がそうやって紡がれてきたように、これから先の未来も“模倣”の繰り返しによって紡がれていく。Disc 1のラストナンバー「replica」が最も象徴的なように、今作は私たちリスナーにその果てしないスケールを想像させる力を持つ作品であると思う。

 今作は同時に、現行の日本の音楽シーンにおける基準を一気に何段階も更新するようなクオリティのモダンポップアルバムでもあると思う。それぞれの楽曲は、単なる既存の作品の焼き回しではなく、現行のグローバルヒットチャートを席巻する楽曲たちと並べて聴いても違和感のないサウンドデザインを誇っている。それでいて、各曲のメロディは日本人の琴線を震わすエモーショナルな響きを帯びていて、理屈を超えた感動や興奮をもたらしてくれる。つまり、その意味で言えば、たとえ参照元となる作品を理解していなかったとしても、それは今作を純粋に楽しむうえでは実はあまり関係がなく、全編を通して極上のポップフィーリングを体感することができるはずだ。

 未発表の新曲を中心に構成されたDisc 1(既発曲を収録したDisc 2ののちに制作された)に収録されている多くの楽曲は、彼がひとりで楽器演奏からアレンジまで手掛けているという。まさに今作は、Vaundy自身の音楽への果てなき探究心と絶え間ないトライアルの美しい結実であり、さまざまなタイアップ先の作品や外部のミュージシャンとのコラボレーションによって生まれた楽曲が収録されたDisc 2に至る経験の蓄積があったからこそ、その先のフェーズへと進むことができた作品だと言える。Vaundyが自ら「Disc 2はおまけ」(※4)であると断言する理由はここにあり、やはり今作の真髄は、彼の最新モードが色濃く反映されたDisc 1にこそ宿っているのだと思う。

 彼ら自身がインタビューで語っている言葉とあわせて、ぜひ各作品の真髄を味わってもらえたら嬉しい。また、それを聴いて心動かされたのであれば、各楽曲の参照元になっているアーティストの作品もあわせて聴いてみてほしい。きっと、それぞれが向き合う音楽史のスケールの大きさを豊かな実感をもって感じ取ることができるはずだ。

※1:https://rockinon.com/interview/detail/167520
※2:https://realsound.jp/2017/10/post-122911.html
※3:https://sp.universal-music.co.jp/yorushika/tousaku/
※4:https://twitter.com/vaundy_engawa/status/1724685500231934434

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