GLIM SPANKY『The Goldmine』インタビュー 自らのクリエイティビティ=“金脈”と向き合った傑作に
GLIM SPANKYが、通算7枚目のアルバム『The Goldmine』をリリースした。直訳すると「金脈が見つかる鉱山」という意味のタイトルを冠した本作には、突き抜けるほどダークな感情を歌った「不幸アレ」から、ニック・ドレイクの変則チューニングにインスパイアされてできたアコギのインストナンバー「真昼の幽霊」、自分たちが内包する“作家性”に向き合いながら書き上げたというポップな「ラストシーン」、そして思わずシンガロングしたくなるアンセム「Innocent Eyes」など、これまで以上にバラエティに富んだ楽曲たちが並んでいる。尽きることのない、自らのクリエイティビティ(金脈)を掘り起こしながら進み続けるGLIM SPANKYの「今」が、ぎっしりと詰め込まれた意欲作といえよう。ここ最近は大きな舞台でライブを行うことが増えてきたというふたり。アルバム制作についてはもちろん、コロナ以降のライブ事情についてもじっくりと語ってもらった。(黒田隆憲)
「クリエイティビティを掘り続けていられれば、ずっと幸せだと思えた」(松尾)
――まずは、『The Goldmine』のタイトルの由来から聞かせてください。
松尾レミ(以下、松尾):1コーラス分くらいの曲が、アルバム収録分ほぼ出揃ったくらいの段階でタイトルを先に決めることになったのですが、その時に「gold」という単語をタイトルに入れたいという話になって。
亀本寛貴(以下、亀本):そうそう。松尾さんにたくさん出してもらったタイトル候補のなかに「gold」がつくものが多かったんだよね。
松尾:その時、なぜかニール・ヤングの気分だったんです(笑)。書体もこれまではミッドセンチュリー系のモダンなデザインにすることが多かったんですけど、今回採用した書体は見てもらうとわかるように、ちょっと70年代っぽい感じというか。
亀本:それこそ、ニール・ヤングの『Harvest』やCrosby, Stills, Nash & Youngの『Déjà Vu』みたいなね。
松尾:うん。それで、「gold」にまつわる言葉をいろいろ探していた時に、たまたま私が好きなコスメのアイシャドウに「goldmine」という種類があることに気づいたんです(笑)。調べてみたら「金脈が見つかる鉱山」というような意味で、今回私たちが作りたかったアルバムのテイストや伝えたいと思っていたメッセージにもぴったりだなと。映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌だった「怒りをくれよ」のリミックスを入れることもすでに決まっていたし、そこも「gold」繋がり。そこから、『The Goldmine』というタイトルにしました。
――「伝えたいと思っていたメッセージ」というのは?
松尾:コロナ禍以降、それこそ戦争も始まって、何が正解かがますますわからなくなってきているじゃないですか。自分たちの生活に目を向けてみても、多種多様な選択肢がありすぎて、かえって「どっちつかず」になってしまったり、それで自信を失ってしまったりすることも多い。でも、誰の心のなかにもその人だけの“金脈”があって、それを見つけることができた人は、この不確かな世界でも生きていく糧になると思ったんです。
今はまだ、自分のなかの“金脈”に気づいていない人も、気づいていないだけで必ず心のどこかに“金脈”がある。そのことを信じて掘り続けてほしいなと。それが今の時代に私たちGLIM SPANKYが伝えたかったメッセージなんです。アルバム冒頭を飾るタイトル曲「The Goldmine」も、そんな思いを込めて作りました。
――ちなみに、ふたりにとっての“金脈”とは?
松尾:私にとっての“金脈”は、やっぱりモノを作ること……クリエイティビティなのかなと。それを掘り続けていられれば、ずっと幸せだと思えたんですよね。しかも、その“金脈”は、いくら掘っても決して掘り尽くされることはない。もちろん、曲を作るたびに「もうこれ以上は出ない!」みたいな気持ちになるくらいすべてを出し切っているけど、しばらくするとまたアイデアがどんどん浮かんでくるんです。だから、時には“金脈”が枯れ果ててしまったと感じる時があったとしても、生きている限り自分のなかに存在し続けるものだと信じていますね。
亀本:“金脈”かあ……ムズいなあ(笑)。でもやっぱり僕にとっての“金脈”は、過去の偉人が作った音楽ということになると思います。今、こうやってたくさんの楽曲やアルバムを作っているけど、そこまで「クリエイト(創造)した」という感覚が僕にはないんですよね。ゼロから何かを閃いて、誰も思いつかなかったような曲を作り出すというよりも、先人がこれまで残してきた偉大な遺産から、ビュッフェみたいな感じで拝借してきているイメージ(笑)。皿に盛った料理をどう美しく並べるか、みたいな。
――なるほど。曲作りをビュッフェに例えるのは秀逸ですね。個人的にはタイトル曲「The Goldmine」の、〈僕らやりたいことばかりで/枯れないゴールドマイン〉と歌われる部分、「あらゆることがやり尽くされた」と言われているけど、まだまだ音楽の“金脈”は眠っているという意味にも捉えられます。そもそもGLIM SPANKYは、過去の音楽、文学などを掘り起こして、それを最新型のサウンドとして再構築してきたバンドだし、そのことをあらためて宣言しているようにも感じました。
松尾:ありがとうございます。いろんな解釈ができる曲になったかなと。
亀本:僕も、今おっしゃっていただいたような解釈でこの曲を聴いてたよ。「ポップスなんてもうやることないっすよ〜」って思うこともあるけど、それでも作り続けていればアイデアも湧いてくる。そういうことの比喩かなって。
松尾:もちろん、そういう意味も込めてるよ。音楽だけじゃなくて絵画でもなんでもそうだよね。
――先日、松尾さんがX(旧Twitter)に投稿していた、ご自宅の本棚やレコード棚は、まさに金脈の宝庫という感じでした(※1)。
松尾:あははは! ありがとうございます。
――今回、サウンドのコンセプトやテーマはありましたか?
亀本:これは以前から言っていることですが、自分たちの作品がサブスクにアップされる時って、ジャンル関係なく、いろいろな国の曲と並ぶわけじゃないですか。古今東西、有名無名を問わずすべての曲が同列に並んだ時、聴き心地に違和感のないフォーマットにすることはとても大事だと思っているので、今回も音像の広がり方、低音の厚みなどにはこだわりました。
そのためにはまず、曲作りの段階からサウンドデザインを意識する必要があるんですよね。ただでさえ僕らはヴィンテージの機材や楽器をたくさん使うから、それがモダンに鳴ることもちゃんと計算しなければならないんです。ここ2、3作、特にコロナ禍以降はそういうやり方を追求していて、今作がいちばん満足度の高い仕上がりになりました。
――そういったサウンドを構築していくうえで、影響を受けたアーティストはいますか?
亀本:それこそ超タイムリーですが、アンドリュー・ワット(Maroon 5やデュア・リパ、ジャスティン・ビーバーなどを手がけるプロデューサー)が関わっている作品はめちゃくちゃ聴いています。先日新作をリリースしたThe Rolling Stonesはもちろん、他にもたくさんのレジェンドたちに彼が引っ張りだこなのは、過去の偉大な音楽へのリスペクトを持ちつつ、今時の若者らしいセンスも持ち合わせているからだと思うんです。そんな姿勢も含め、彼にはたくさんの刺激をもらいました。
松尾:私は、ここにきてまたジョニ・ミッチェルとニック・ドレイクをたくさん聴いていました。今回のアルバムで、今までやったことのない変則チューニングで曲を作ろうと思ったんです。今までもDADGADとかで作ったことはあったけど、今回チャレンジしたのはBEBEBEという、ニック・ドレイクも愛用していたチューニング。こういう、音数の少ない変則チューニングの響きの上で、抑揚のあるメロディを歌うとジョニ・ミッチェルっぽくなることを発見して(笑)。それでできたのが「真昼の幽霊」と「Summer Letter」でした。