Coldplay、想像を絶するほどの光と色彩のスペクタクル サスティナブルなワールドツアー日本公演レポ

Coldplay東京ドーム公演レポ

 2023年11月6日・7日、約6年ぶりとなるColdplayの来日公演『Music of the Spheres World Tour』が開催された。本稿では、6日に行われた東京ドーム公演のレポートをお届けする。

 Coldplayといえば、現代における最も有名なバンドの一つであり、そのライブは「世界最高峰のエンターテインメント」として長年に渡って世界中のメディアやファンから絶賛され続けてきた。一方で、同バンドは2019年にリリースされた『Everyday Life』において、アルバムのワールドツアーを実施しないという決断を下す。光と色彩の壮大なスペクタクルで知られるColdplayのワールドツアーは、その公演自体が莫大な電力を消費するものであり、会場間の移動においても大量のエネルギーが消費されることになる。すなわち、ワールドツアーを行うこと自体が環境に対して大きな影響を及ぼすことを意味しており、それを懸念したバンドは「サスティナブルなワールドツアー」を作り上げるために時間を使うことを選んだのだ。

 2021年にColdplayが完成させたのは、最新作『Music Of The Spheres』だけではない。満を持して開催された今回のワールドツアー自体もまた、現代を代表するバンドとしての在り方を示した一つの作品であると言えるだろう。

 会場となる東京ドームに到着すると、まずは世界中から集まったであろうたくさんの人々の姿に圧倒される。もはや、海外アーティストの来日公演では全く珍しいことではないのだが、それでも今回の会場に集まった客層の幅広さはこれまでに参加したどのライブよりも大きなものであるように感じられ、改めてColdplayが現代を象徴するアーティストの一つであることを示していた(客席にはブラジルやスペインといった国のフラッグを振る人もいた)。会場にはたくさんの列を作る物販ブースと並ぶように、セカンドハーベスト・ジャパン(食品ロスを引き取り、人々へ届ける活動を行うフードバンク)やFoE Japan(地球規模での環境問題に取り組む国際環境NGO)のブースが設けられており、改めて今回の公演がどのような考えの元に開催されているのかを実感する。

 ライブエリアに入ると、アリーナ席の後方に普段のライブでは見慣れないエリアが設置されていることに気づく。たくさんのエアロバイクが並ぶ「パワーバイク」と、数十人ほどが入れそうな円形のスタンディングゾーン「キネティックフロア」だ。これらは、それぞれバイクを漕ぐ/フロア内でジャンプすることでライブ中に使用する電力の一部を発電できるようになっており、観客はアクティビティ感覚でこれらのエリアを楽しんでいた。また、ステージの両脇に設置された巨大なモニターには、チケットの売上の一部がどのような活動に役立てられるのかを紹介する映像が映し出され、開演直前には改めて今回のツアーにおける環境への取り組みをまとめたオープニングムービーが投影され、とにかく徹底してサステナビリティへの意識を強く感じさせる、そしてファンに連帯を促そうとする空間がそこにはあった(各取り組みの具体的な内容については、特設Webサイトにまとめられている/※1)。

 さて、ここまで徹底して「環境への配慮」が強く押し出されていると、従来のライブと比較して演出が控え目なものになっているのではないだろうかと想像することができる。だが、実際に蓋を開けてみれば、そこに広がっていたのは映画『E.T.』の印象的なテーマソングと共に登場したColdplayが繰り広げる、まさしく宇宙的とも言える、想像を絶するほどの光と色彩のスペクタクルだった。

Coldplay

 オープニングナンバーを飾った最新作からの「Higher Power」、2曲目にして早くも投入されたキラーチューン「Adventure Of A Lifetime」の時点で、客席には凄まじい量の紙吹雪と大量のバルーンが投入され、5万人もの観客が着用したLEDリストバンドが放つ7色の光と、バンドを覆うように左右に広がる巨大なスクリーンに投影された美しいサイケデリックな映像がスタジアムを圧倒的な色彩で埋め尽くす。この時点で観客はあまりの壮大な光景に完全に魅了され、楽曲に合わせて歌ったり踊ったりするのは前提として、さまざまな場所で記念撮影が行われているという状態になっており、それはライブというよりは、もはや体験型の巨大なアート作品に飛び込んでいるかのような感覚に近い。だが、何よりも圧倒されるのは、そういった視覚的な演出だけではなく、会場の中心でのびのびと演奏しているColdplayが放つ、スタジアムを丸ごと包み込むようなポジティブなエネルギーだ。音の一つひとつはもちろんのこと、会場の大きさに一切物怖じすることのない、むしろこれが標準と言わんばかりにリラックスしながら歌い上げるクリス・マーティン(Vo/Gt/Pf)のボーカルが観客の感情を優しく引き出していく。

 そのエネルギーは、徐々にこのライブにおける演出の中心となっていく。圧倒的なスペクタクルの中で「Paradise」などの代表曲を披露したColdplayは、アリーナの中央に用意されたサブステージへと移動し、360度を観客に囲まれた状態で「Viva La Vida」を披露した。言わずと知れた名曲だが、ここでは壮大な演出は控え目で、楽曲に合わせて客席全体を明るく照らすことによってバンドが力強く鳴らす音と、観客の大合唱によって一つとなった空間そのものを祝福してみせる。

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