米津玄師「KICK BACK」、米レコード協会ゴールド認定が持つ歴史的意味 本人コメントも踏まえて考察
米津玄師の「KICK BACK」が米レコード協会(RIAA)によりゴールド認定を受けた。日本語詞の楽曲がゴールド認定を受けたのは史上初となる。
これがどういう“快挙”なのか。日本の音楽シーンにおいて、どんな意味合いを持つのか。この曲が米津玄師のキャリアにおいて、どういう位置づけなのか。筆者が先日ゴールド認定を受けて米津にインタビュー取材を行った際のコメントも踏まえて、考察したい。
RIAAのゴールド認定は、米国内で50万ユニット以上を記録したことを意味する。かつてはCDやレコードの売上枚数によって算出されていたが、2016年に計算方法が見直され、デジタルシングル1枚のリリースまたはストリーミング150回再生で1ユニットとしてカウントされるようになった。同じく100万ユニット以上を記録するとプラチナ認定を受ける。
端的に言うと、ゴールド認定というのは、アメリカの音楽マーケットにおいて「ヒットした」ということがRIAAによって公式に認められた、ということである。J-POPの楽曲がその成果を手にするのは初めてのことだ。
日本語詞の楽曲がアメリカにおいてヒットした例として多くの人が思い浮かべるのは坂本九の「上を向いて歩こう」だろう。この曲が「SUKIYAKI」としてBillboard Hot 100で1位となったのは、今から60年前の1963年のことだ(RIAAのデータベースによると、この曲はA TASTE OF HONEY、4 P.M.による英語カバーがそれぞれゴールド認定を受けている/※1)。
それから数十年にわたって多くの歌手やアーティストが“アメリカ進出”に挑戦してきたが、RIAAのゴールド認定を受けた国内アーティストのヒットソングというものは生まれてこなかった。そういう意味でも、今回の件は歴史的な快挙と言って過言ではないだろう。
「KICK BACK」はTVアニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマとして書き下ろされ、2022年10月12日にリリースされた楽曲だ。当初から海外での反響は大きかった。翌13日にはSpotifyの世界で最も再生されている楽曲デイリーランキング「トップ50 – グローバル」に47位でランクイン。同チャートに国内アーティストがチャートインするのは史上初となった。
もちろん支持を広げたきっかけとして『チェンソーマン』の存在は大きい。近年では海外でのアニメ人気は拡大の一途にあり、同作の主題歌としてこの曲のことを知った人は多いはずだ。
原作連載時から『チェンソーマン』に強い思い入れを持っていたという米津自身にとっても、同作に携わったことは大きな経験になったようだ。インタビューで彼はこう語っていた。
「今も『チェンソーマン』の連載が続いているので、毎週欠かさず読んでいます。ずっと面白いし、本当に稀有な漫画だと思います。こういう素晴らしい作品に関われることができたのはポップソングを作ってきた身としてすごく光栄なことだし、そういう実感が日に日に大きくなる感じがしますね」
ただ、数あるアニメ主題歌の中でも「KICK BACK」が突出した成果を打ち立てた要因は、やはり曲の持つ魅力それ自体にある。米津が作詞、作曲し、常田大希(King Gnu、millennium parade)と共同アレンジを行ったこの曲は、ドラムンベースを基盤にしつつ、たびたび転調を繰り広げる、ジェットコースターのような展開の楽曲だ。モーニング娘。の「そうだ!We’re ALIVE」をサンプリングしていることも話題を呼んだが、それだけにとどまらない突飛なアイデアの数々が詰め込まれている。それがインパクトと波及力につながっている。米津は楽曲制作をこう振り返っていた。
「自分としてもすごく楽しくやれたと思います。仕事というより、編曲に一緒に入ってくれたKing Gnuの常田大希とのやり取りも含めて、友達と遊んでいるような感じも同時にあった。すごく幸せな時間だったなと、今になって強く思います。『KICK BACK』を作っている時は、ふざけるというか、ムチャクチャやってやろうぜというか、そういうものが満ちている感じがあって。またこういうことをやりたい気持ちが強くなってきていますね」