連載『lit!』第68回:King Gnu、マカロニえんぴつ、緑黄色社会……今年の夏に存在感を示したロックバンドの新作5選
ヤングスキニー「愛の乾燥機」
近年の日本のバンドシーンを見渡すと、恋愛をテーマにした楽曲を歌う新世代のバンドが目立つと感じる。それは、今の10代、20代の表現者にとって、またその世代のリスナーにとって、恋愛が切実なテーマになっていることの表れなのかもしれない。ひとりでも幸せに生きていける時代においてもなお、他者と共に人生を生きることの意義は不変であり、人との繋がりが失われていたコロナ禍が明けていくなかで、今、多くの人がその意義について再確認し始めているのだろう。そして、新しいラブソングが増え続けている現在のシーンにおいて大きな存在感を放っているのが、ヤングスキニーである。
かやゆー(Vo/Gt)が綴るラブソングに滲む切実さは卓越していて、今回の新曲「愛の乾燥機」は、その真骨頂のような渾身の一曲である。何度も繰り返される〈ゆらゆらゆらゆらゆらゆら揺れている〉というサビのフレーズ。その後に続く〈無理して気持ちまで揺らしている〉〈揺らがない気持ちも揺れている〉といったアンビバレントな情感を表した一節が深く胸を締めつける。誰かと生活を共にするのは、楽しいだけではない、むしろ思い通りにならないことばかりだし、辛いこと、悲しいこともたくさんある。それでもなぜ多くの人々は、誰かに恋をして、愛してしまうのだろうか。その極めて普遍的なテーマを、ヤングスキニーは愚直に、そして懸命に追求し続ける。9月27日にリリースされるメジャー初のEP『どんなことにでも幸せを感じることができたなら』では、彼らが提示する新たな答えに触れることができるはずだ。
I's『永遠衝動』
2021年、あの(Vo/Gt)を中心に結成された4人組ロックバンド。彼女が「ano」としてのソロアーティスト活動と並行する形で、新しく“ロックバンド”という表現形態を求めた理由は、一度でもこのバンドの音楽を聴けばひしひしと伝わるはずだ。押さえられない衝動をダイレクトに伝え切るために必要だったのがこの剥き出しのバンドサウンドであり、まるでリミッターがぶっ壊れてしまったかのように暴発する感情のすべてを余すことなく託したロックナンバーの数々、それらを披露するライブの場は、表現者としての彼女にとって必要不可欠なものなのだろう。ano名義の「ちゅ、多様性。」のクリティカルヒットを経て、今まで以上に巨大な認知と支持を受けているあのだが、そうした状況のなかにおいても満たされることのない空虚な気持ち、怒りや苛立ち、悲しみが渾然一体となった怒涛のエモーションが、今回の新作において無尽蔵に炸裂している。特筆すべきは、今作のタイトル曲「永遠衝動」だ。あのは、爆裂的な高速ビートのなかで〈大人になって失った衝動なんてひとつもないの/初期衝動なんかじゃない 永遠衝動〉と力強く歌い上げる。経験を重ねて、その過程でどれだけの人気を得ても、彼女の根底にあるのは決して尽きることのない衝動であり、それこそが揺るがぬアイデンティティとなっていることがはっきりと伝わってくる。そのブレない表現姿勢は、この生きづらい世のなかで“生きるのクソヘタ”ながらも必死に生きる人々にとって眩い指針であり続けていくはずだ。
※1:https://realsound.jp/2023/09/post-1426413.html
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