mothy(悪ノP)、「悪ノ召使」誕生から“悪ノシリーズ”15年の歩み 『初音ミクシンフォニー2023』特集演奏に対する喜びも
僕がいなくなったとしても、作品のことはずっと覚えていてほしい
ーー最近では機材もどんどん進化していますが、そこは制作に影響しますか?
悪ノP:機械的な音声と生音に近い音声、それぞれに魅力があると思っています。なので、これまでのソフトを使わなくなるということはないですが、適材適所で使い分けていくのが良いなと。音声合成ソフトも楽器と一緒なんです。物語や曲調によってどのボカロを使うのかを決められるという意味では、どんどん選択肢が増えていくことはいいことだと思います。
ーー最近はスマートフォンリズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)からボカロ楽曲にはまったという人をよく耳にします。悪ノPさんの曲も新しい層に広がっている印象はありますか?
悪ノP:『プロセカ』や『プロジェクトセカイ クリエイターズフェスタ』から僕の曲を知って、新たにファンになってくれた人はとても多いです。もともと僕の作品のファンは女性の方が多かったのですが、『プロセカ』以降は男性も増えている印象があります。それにボカロ専門の同人誌即売会で出会う人も、「子供の頃から聴いていました!」と言ってくれる方がいたりと、当時のファンもどんどん親世代になってきているんですよね。なのでイベントに出る時も、昔から聴いてくれた方と新規の方の双方に届ける上で、どの楽曲を出すか迷うこともあって。「昔の音源がほしい」と言っていただく機会も増えているので、どうにか改めてリリースできないかなとも考えています。僕だけの意思ではできないことなので、なかなか難しいのですが(笑)。
ーーファン層が変化しているのは面白いですね。これまではファン層で制作の方向性を調整することはあったのですか?
悪ノP:最近はそうでもないのですが、昔は僕の曲をよく聴いてくれている女性ファンを意識していた部分はあったかもしれません。ただ、僕は男性なので女性視点で物語を考えるにも限界があって。そればかりになると続かないと思ったので、途中からは自分の好きなように作るようになりました。僕は制作に縛りを設けるのがあまり得意ではないと感じていて。リクエスト通りに作ることももちろんできますが、自由にやらせてもらった方が結果的にいいものができる。職業作家には向いていないタイプかもしれないです(笑)。
ーー『初音ミクシンフォニー2023』では、“悪ノシリーズ”15周年記念特集が予定されています。これまでの『初音ミクシンフォニー』でも悪ノPさんの楽曲はオーケストラで演奏されてきたわけですが、どんな印象を持っていますか?
悪ノP:オーケストラで演奏するという話を最初に聞いた時は、僕の楽曲の曲調にはちょうどいいなと思いました(笑)。いわゆる“ライブ映えする曲”というわけではないですが、シンフォニックな表現にはハマると思うんです。それに僕の楽曲は物語に注目されることが多いので、サウンドを集中して聴いていただける機会というのは、純粋に嬉しいですね。初音ミクの通常ライブは、彼女の印象がどうしても強くなると思いますが、『初音ミクシンフォニー』はクリエイターの曲の良さ、素材の味をそのまま体験できる貴重な機会だなと。
ーーサウンドのみに集中できる環境はすごく貴重です。いわゆる通常のボカロイベントとは異なり、ご自身の楽曲がオーケストラアレンジで演奏されるわけですが、過去の公演で実際に聴いた感想も教えてください。
悪ノP:VOCALOIDとオーケストラという、真逆の性質を持つものが融合する面白さもありますよね。オーケストラ演奏を生で聴くと、元の音源と全然違って聴こえますし、会場によっても聴こえ方が変わるので、音楽家として勉強になるなといつも思います。「悪ノ召使」「悪ノ娘」はこれまでの公演でもコンスタントに演奏していただいているのですが、初めて聴いた時は他のイベントで聴くのとは違う感動があって。クラシックは音楽ジャンルの中でも権威的なものがあると思うのですが、そこに認められたような感慨もあって、そういう意味でも嬉しかったです。あと毎公演でアレンジが少しずつ異なっているのでそこも面白いですよね。どんどん洗練されていっている印象もあるので、毎公演ただただ楽しく聴かせていただいています。
ーー横浜や神戸公演は初音ミクらの歌声や映像演出が入るので、またサントリーホール公演とは違った魅力がありますよね。
悪ノP:僕はクラシックに明るいわけではないですが、きっとバランスを取るのがすごく難しいのではないかと思います。水と油とまでは言わずとも、パソコンで打ち込まれたボカロの音声とオーケストラを合わせると違和感があるのではないかと最初は思っていたんです。でも、実際に聴いてみると意外とハマりがいいんだなと思って。オーケストラの音圧を生で体感することで、より立体的で解像度の高い音楽へと変化するような感覚があるというか。それに、オーケストラで手拍子をしたり、サイリウムを持って鑑賞することは稀だと思うんですけど、クラシック特有の荘厳さがありながらも、新しいカルチャーとミックスされる独特な雰囲気はこのイベントならではの魅力だと思います。
ーー最近はJ-POPのメジャーフィールドにもボカロP出身のアーティストが増えています。悪ノPさんはそことは異なるベクトルで活動を続けている印象もあります。
悪ノP:僕の楽曲は好きな人は熱烈に愛してくれますが、幅広くウケるものではないとは思っていて。なので、メジャーフィールドでヒットを生み出すようなタイプではないという自覚はあります。もともとボカロを始めた時もいい年齢だったので、そういう野心もあまりなかったんです。きっと、メジャーで売れたいみたいな気持ちがあったらこういう曲調もやめていたと思います。もちろん、インディーズとメジャーのどちらが良い悪いという話ではないです。僕が正解というわけではないですし、メジャーで活躍していただくことでボカロ文化の認知度が高まるのは良いことだなと。ただ、僕としては自分自身が世の中に出たいわけではないので、音楽が長く愛されるものになってほしい。例え僕がいなくなったとしても、作品のことはずっと覚えていてほしいとすごく思いますね。
ーーこれまでのキャリアを踏まえても、悪ノPさんはボカロカルチャーの中でも異端の存在のように思います。
悪ノP:僕だけが特別だとは思いませんが、そう言っていただけるのは嬉しいです。きっと、流行っている曲を僕が作る必要はないと思っていて、ただ美味しいステーキを食べる中で、たまに珍味が食べたくなったら僕のところに来てほしい、みたいな(笑)。僕に限らず、ボカロ曲はバリエーションが豊富なので、全てを受け入れることはできなくても、何かしら好みの曲があると思うんです。最近は『プロセカ』や『初音ミクシンフォニー』など、入り口も増えていると思うので、そこで“悪ノシリーズ”に気に入っていただけたのなら、ぜひオリジナル曲や小説などにも興味を持っていただけたら嬉しいです。
■公演情報
『初音ミクシンフォニー2023』
横浜、神戸公演 チケット一般発売中(特典付きSS席のみ)
https://w.pia.jp/t/mikusymphony23/
悪ノシリーズ15周年記念特集「悪ノ交響曲」東京公演に加え、横浜と神戸3公演にて演奏決定。
【横浜公演】
2023年10月14日(土)
パシフィコ横浜 国立大ホール
指揮:栗田博文
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
司会:初音ミク 他
17:00開場/18:00開演
【神戸公演】
2023年12月23日(土)
神戸国際会館 こくさいホール
指揮:栗田博文
演奏:大阪フィルハーモニー交響楽団
司会:初音ミク 他
17:00開場/18:00開演
■悪ノ衣装展
悪ノシリーズ15周年を記念して東京サントリーホール公演で披露された衣装展が、横浜、神戸公演でも展示。
■リリース情報
初音ミクシンフォニーサントリーホール公演が高音質収録による「SACD」で初CD化決定。
「悪ノ交響曲」に加え、mothy_悪ノPによる書き下ろし未公開ボカロ新曲も収録。
https://sp.wmg.jp/mikusymphony/suntory_hall_cd/
『初音ミクシンフォニー2023 Live at Suntory Hall』
SACD2枚組※/デジパック仕様
発売日:12月20日(水)
価格:5,000円(税込)
※本作品のSACD(スーパーオーディオCD)を高音質で再生するには専用の機器「SACDプレーヤー」及び「SACD対応Blu-rayプレーヤー」が必要ですが、通常のCDプレーヤーでもCD再生自体は可能です。
【初音ミクシンフォニー】オフィシャルサイト
https://sp.wmg.jp/mikusymphony/
【初音ミクシンフォニー】オフィシャルツイッター
https://twitter.com/mikusymphony
【初音ミクシンフォニー】オフィシャルグッズ
https://store.wmg.jp/collections/mikusymphony