『初音ミクシンフォニー2022』で呼び起こされた感動的な記憶 初音ミク&鏡音リン・鏡音レン誕生から15年で紡がれる物語
初音ミクならびに鏡音リン・鏡音レンの15周年を祝う『初音ミクシンフォニー2022』の東京公演が7月2日、サントリーホールにて、昼夜の二部公演にて開催された。2022年8月31日には初音ミクが、2022年12月27日には鏡音リン・鏡音レンが15周年を迎える。本稿では、感動に満ちた夜公演の模様をレポートしたい。
一流のオーケストラがボーカロイド楽曲を奏で、いまや音楽シーンの一大イベントになった『初音ミクシンフォニー』。普段はオーケストラとボーカロイドの歌唱や映像が融合した総合的なエンターテインメントの色合いが強いが、今回のサントリーホールや大阪のザ・シンフォニーホールでの公演はそうした演出がなく、フルオーケストラによる生演奏にじっくりと耳を傾ける、上質な時間が届けられる。物語性の高い楽曲たちとこの両ホールに備えられたパイプオルガンの音色は極めて相性がよく、クラシカルで静謐な空気感、心地よい緊張感も魅力的だ。
一曲目に披露されたのは、2017年の公演で初披露された『初音ミクシンフォニー』のテーマ曲「未来序曲」。作者のMitchie Mは調声のスペシャリストとして知られるが、ボーカルが乗らないことで、オーケストラ演奏を前提とした作曲センスの素晴らしさが際立つ。卓越したハーモニーを奏でるのはもちろん、指揮者・栗田博文と東京フィルハーモニー交響楽団だ。軽快に刻まれるリズムに、猛暑のなかでも涼やかにすら感じるフルートの音色。それでいて背筋が伸びる荘厳さがあり、一曲目から懐の広い演奏に心をつかまれる。
司会進行として登場し、公演に花を添えたのは、初音ミクのキャラクターボイスを担当する藤田咲だ。記念すべきコンサートの開幕を告げる、ボーカロイドシーンの功労者に、会場からは温かい拍手が贈られる。そして2曲目に届けられたのは、2007年11月刊行の『DTM Magazine』に付属した初音ミク体験版を題材にしてNorth-T(畳P)が制作した最初期の名曲「タイムリミット」というサプライズだった。
さらに、パイプオルガンの神聖な音色が映える「悪ノ娘」~「悪ノ召使」のメドレーから、初披露となる「ヴェノマニア公の狂気」と、mothy_悪ノPが中世ヨーロッパを思わせる世界観を描いた作品が続く。「ヴェノマニア公の狂気」はmothyによる「七つの大罪シリーズ」の“色欲”に当たる楽曲で、パイプオルガンを起点とした緩急のあるオーケストレーションが、妖しい色気を見事に表現していた。
藤田咲の「心を澄ましてお聴きください」という導入で披露されたのは、こちらも初演奏となる「それがあなたの幸せとしても」(Heavenz)。生きていれば誰もが直面する、やりきれない悲しみや痛み。静けさのなかで、それを優しく包み込むような演奏で、曲想を深く理解したアレンジに否応なく感動させられる。
そしてコンサートの前半を締め括ったのは、今年で10周年を迎えた「Bad ∞ End ∞ Night」シリーズ(ひとしずく×やま△)のメドレーだ。四幕で構成される壮大な物語だが、歌詞の内容を知らない観客にも、場面の転換やストーリーの機微が伝わっただろう。舞台の世界に閉じ込められ、ループを繰り返すボーカロイドたちの姿が明確に像を結び、最終幕に向かう盛り上がりは、まさに映画や舞台を観ているかのようだ。