『ULTRA JAPAN 2023』ラインナップの新傾向 ダンスミュージックシーンの潮流を反映した“脱EDM”がポイントに
2023年9月16日、17日の2日間にわたって、東京・お台場の特設会場にて開催される『ULTRA JAPAN 2023』。今年で8回目となり、すっかり日本でも“海外の著名ミュージシャンが多数出演する、国内最大級のダンスミュージックフェスティバル”として定着した同フェスティバルだが、皆さんはこの『ULTRA JAPAN』についてどのようなイメージを抱いているだろうか?
パリピ、派手、陽キャ……そんな言葉を連想する人が多いかもしれない。それはおそらく、この『ULTRA JAPAN』が「EDM」という音楽と密接に結びついていることに起因するからだろう。ダンスミュージックを主体とした洋楽フェスティバルであれば、『ULTRA JAPAN』以外にも『FFKT』や、『SUMMER SONIC』の前夜祭として開催されている『SONICMANIA』などが存在するわけだが、これらのフェスティバルとそのイメージが若干異なっているのも同様の理由が考えられる。
EDMが正式には「Electronic Dance Music」というジャンル名であるように、その定義は極めて曖昧であり、さらに言えば決めたところで大した意味はない。だが、ここから先の話を進めていくために、念のために筆者なりの定義をするのであれば、巨大な会場で鳴らすことを目的とした(いわゆるビッグルーム)プログレッシブハウスやトランス、エレクトロハウス、ダブステップなどを指すという印象だ。LED満載の巨大で派手なセットが映えるようなキラキラとしたシンセの音色や、大規模な会場が一つになるような大合唱必至の歌メロ、会場を丸ごと揺らすような極太のベースラインなどが特徴である。最も象徴的な楽曲としては、カルヴィン・ハリス「Summer」などが挙げられるだろう。これ以上ないほどパーティを盛り上げるための起爆剤として鳴り響くのがEDMであり、先に挙げたような言葉が想起されるのも当然といえば当然である。
では、前提を整えた上で今年の『ULTRA JAPAN』のメインステージの主要ラインナップを見てみると、まず1日目については、Endless Summer(サム・フェルトとジョナス・ブルーのユニット)、ハードウェル、Axwell Λ Sebastian Ingrosso、DJスネイクといったこれまでの『ULTRA JAPAN』でもすっかり顔馴染みとなったDJ陣が名を連ねており、“いつものULTRA”という安心感すら感じさせる。間違いなく今年のフェスティバルにおける最もド派手なEDMパーティを楽しむことができるだろう。
だが、2日目に目を向けると、ある程度ダンスミュージックに親しみのある人であれば、すぐに違和感を覚えるのではないだろうか。メインステージの主要ラインナップを務めるのは、ケニー・ビーツ、Boys Noize、ペギー・グー、スクリレックスの4アクトだ。ヴィンス・ステイプルズやデンゼル・カリーといった錚々たるラッパーにビートを提供してきたビートメイカー/プロデューサーであるケニー・ビーツに、レディー・ガガやフランク・オーシャンのプロデュースワークで確固たる評価を獲得しながらも、自身の活動ではアンダーグラウンド精神と実験性に満ちたダークでアグレッシブなサウンドを鳴らすBoys Noize、そして韓国にルーツを持ち、ハウス/テクノを基軸とした唯一無二のスタイルで世界的な人気を集め、ファッションアイコンとしても活躍するペギー・グーと、いずれも豪華ではありつつ、筆者の感覚としては明らかに“EDM”とは距離のあるDJが並んでいる。
ここで重要なのが、その流れを引き継いだ上で2日目のヘッドライナーとして出演するスクリレックスの存在だ。スクリレックス自身は2015年の『ULTRA JAPAN』でヘッドライナーを務めているように、EDMの文脈で語られることの多いアーティストではある。だが、それはあくまで強靭なダブステップ/エレクトロハウスを武器に活躍していた当時の話であり、あれから年月を経て大幅に自身の音楽性を変化させてきた今のスクリレックスは、少なくともド派手なサウンドで大会場を盛り上げるタイプのDJではなく、むしろ数百人規模のクラブを盛り上げる姿がよく似合う存在だ。美しく研ぎ澄まされたハウスミュージックを起点に、ガラージや(派手ではない)ダブステップやレゲトン、ジャングル、ヒップホップなど様々なジャンルを自由かつ的確に取り入れたそのスタイルは、かつてのサウンドよりはキャッチーさに欠けるかもしれないが、徹底的にクールな、アンダーグラウンドのシーンへのリスペクトを強く感じさせるものとなっている。フロウダンからピンクパンサレスまでジャンル・世代を問わず様々なミュージシャンを引きつけてやまないのも、そういった“今の”彼のスタイルが評価されていることに起因しているだろう(まさに前述の3組も、スクリレックスと親交があることで知られている)。
つまり、今年の『ULTRA JAPAN』は、従来のEDM路線をしっかりと受け継いだ1日目と、“非EDM”的とも呼べるDJが集まる2日目という、まるで異なる方向性を持った2つのダンスミュージック・フェスティバルが開催されるような構図となっているのである。本家『ULTRA MUSIC FESTIVAL』ですらここまで振り切った日割りはしていない(とはいえ、本家に関しては日本の倍ほどのステージが存在しており、アンダーグラウンド寄りのDJを中心とした“RESISTANCE”ステージが確固たる人気と規模を誇っているという背景もあるため、単純に比較できないところはある)。