中島美嘉が届ける、自分自身を愛することの大切さ 殻を破るきっかけになったル・ポールとの出会い

中島美嘉、自分を愛する大切さ

 中島美嘉が8月9日に、新曲「We are all stars」を配信リリースした。夏の季節にぴったりのアッパーでダンサブルな同曲には、長きにわたって中島が多大な影響を受け続けているというドラァグクイーン、ル・ポールへのリスペクトが込められており、〈We are all stars !!!〉〈いらないカベならぶち壊せ〉といった力強いフレーズが心に残る。昨年のアルバム『I』以降、この「We are all stars」に至るまでを、赤裸々な想いを交えながら中島に語ってもらった。(編集部)

自作曲と提供曲、それぞれへの向き合い方の違い

――昨年5月リリースの『I』は、中島さん自らがすべての曲の作詞・作曲を手掛け、セルフプロデュースで作り上げられたアルバムでした。ご自身のキャリアにおける大きなマイルストーンとなった作品を経て、クリエイティブに対する思いに何か変化は起きていますか?

中島美嘉(以下、中島):『I』を作れたことで限界を突破した気はしますね。制作中には「もう無理だ」と思う瞬間もたくさんありましたけど、「これを乗り越えた先の自分を見てみたい」という気持ちでいろんなことを突破し続けた感じで。結果、あのアルバムには、あのタイミングで自分ができることのすべてを詰め込むことができたんです。だからね、ちょっと一回、燃え尽きた(笑)。

――あははは。でも、『I』で見えた中島さんのシンガーソングライターとしての側面は、今後の活動においても大きな武器になっていくはずですよね。

中島:そうですね。ただ、ここから先はすべての曲を自分で作っていきますよっていうことではないんですよ。自分にとって何か大きな意味を持つ曲であったり、チームからの勧めがあった時には作曲もしていくっていう。そこは今までの作詞に対するスタンスと一緒ですね。引き続き、提供していただいた曲を歌っていくこともやっていきたいので、生き方をいきなり変えるという感じではないかな。

中島美嘉 『Wish』MUSIC VIDEO

――『I』の後にリリースされたシングル曲「Wish」では作詞を、「Beyond」では作詞に加え、作曲もCarlos K.さんとの共作で手がけられていました。提供曲をシンガーに徹して表現する場合と、作曲にまでご自身が関わる曲の場合では、歌への向き合い方に何か変化があったりするのでしょうか?

中島:それはあるかもしれないですね。曲を素直に聴き込んで歌っていくスタイルは変わらないですけど、作曲までする時は全責任を背負いながら、ちょっとプロデューサーの気持ちを持って歌ってるところはあると思います。自分でプロデューサーとか言っちゃうのは恥ずかしいんですけど(笑)。

――プロデューサー・中島美嘉は厳しいですか?

中島:うん、厳しいと思う(笑)。自分に対してね。「これだったら世に出す必要はないんじゃない?」みたいなことはきっちりと言いますよ。いろんなことに対して結構シビアに。だから、一方でジャッジをチームの人に委ねられる提供曲を歌うスタイルがあるのもいいと思うんですよね。曲ごとに向き合い方を分けられているから、自分で自分を追い込み過ぎずに済んでいるのかもしれないです。

中島美嘉 『Beyond』MUSIC VIDEO

――7月26日にはニューシングル『SYMPHONIA takt op. Special Edition』がリリースされました。この曲は、2021年10月に一度、シングルとしてリリースされていますが、今回スマートフォン向けアプリゲーム「takt op. 運命は真紅き旋律の街を」の主題歌として改めて届けられるそうで。

中島:約2年前にアニメ『takt op.Destiny』(テレビ東京系)のエンディングテーマとして使っていただいた曲を、時を経てもう一度リリースできるのはちょっと不思議な感覚がありますね。最近、「テレビでCMがよく流れてるよ」って声を聞くことが多いのが嬉しいです。この曲は歌うのがとにかく難しかったんですよ。「どうしたらこんなメロディ思いつくんだろう!?」って思っちゃうくらいの難しさで。

――作詞・作曲はrionosさん。聴いているとスーッと身体に沁み込むようなメロディですけどね。

中島:そうそう。聴いている分にはものすごく耳触りがいいんですよ。だから最初はデモを気分よく聴いていて。「これは気持ちよく歌えそうだな」と思ってたら、細かいメロディが全然覚えられないっていう(笑)。音符の上がり下がりが難しいので、レコーディング中に「そこメロディ違うよ」って何度も正された記憶があります。でも、ものすごく素敵な曲だし、苦労した分、思い入れの強い作品になりました。

――『takt op.』のキャラクターデザインを手掛けているLAMさんによる、中島さんをイメージしたイラストジャケットも素敵ですよね。

中島:ね! 2年前にお渡しした写真を元に描いてもらったので、髪型がショートではあるんですけど、こんなに美しく描いていただけて嬉しいですね。

中島美嘉 『SYMPHONIA』 MUSIC VIDEO

「今も音楽ができているのは、ル・ポール様とクイーンたちのおかげ」

――そして今回、新曲「We are all stars」が配信リリースされました。この曲は中島さんが敬愛するドラァグクイーン、ル・ポールさんの存在があったから生まれたというメッセージソング。曲が生まれるに至った経緯を聞かせてください。

中島:私は20代の頃、結構いろんな面で落ち込むことが多かったから、よく海外と日本を行き来していたんですけど、向こうのテレビでル・ポール様を偶然お見かけして。その存在、言動にものすごく勇気をもらえたんですよ。それをきっかけに私はル・ポール様の信者のようになり、気持ちが落ち込んだ時には必ず、彼女の存在に助けてもらうようになったんですよね。

――中島さんがご覧になったのはアメリカのリアリティ番組『ル・ポールのドラァグ・レース』ですよね。今は日本でもNetflixなどで視聴可能ですが。

中島:当時はNetflixとかもなかったから、海外のテレビをDVDに焼いてもらって、それをずーっと観てたんです。もちろん翻訳されてないものだったから、ル・ポール様の言葉をいちいち調べて、泣きながら観るくらい大好きだったんですよね。私がちゃんと立ち上がれて、今も音楽ができているのは間違いなくル・ポール様と、番組に出ていたクイーンたちのおかげ。人間は誰しも自由でいいんだ、ってことにね、気づかせてくれたというか……(涙ぐみながら)ヤバい……思い出してきた……すみません。

――中島さんはデビュー以来ずっと自分らしさを貫いて表現してきたアーティストだと思うんですよ。でも、ご自身の心の中にはいろいろな葛藤があったということなんですね。

中島:なんかね、何事に対してもへっちゃらな感じでやってるように見せたかったんですよ。変にプライドも高いし、慰められたくもないんで。とにかくどんな時でもへっちゃらでいようと思ってた……なにこれ? カウンセリング(笑)?

――あははは。今だからこそ言えることもあると思うので、ぜひ全部吐き出しちゃってください。

中島:うん。そうやってへっちゃらに見せてたけど、当時の自分はまったくの無だったんですよ。自分という存在に意味があるのかどうかもわからないし、でも歌うことを諦める勇気もない。本当に無。いないに等しい状態だったんです。それが自分としては悔しかったし、心底「助けて」と思ってたんですよね。そんな状況でル・ポール様と画面越しに出会い、救ってもらえたので、そこへの感謝の気持ちを曲にするべきだなと思ったんです。ある意味、ル・ポール様へのラブレターみたいな部分もありますけど、“自分らしさ”というテーマの曲を思いっきりやってみることで、それが誰かの勇気になってくれることもあるんじゃないかなっていう思いもあって。

――ル・ポールさんとの出会いから、ある程度の時間が経った今、このタイミングでこういった楽曲が作れたことにも意味があったんでしょうね。

中島:ああ、確かにそうですね。『I』を作らなければ、自分からすべてを発信する曲を作ることはいまだにきっとできていなかったと思う。チームのみんなやファンのみなさんが、実はそういう曲を待っていてくれたんだろうなってことに遅ればせながらようやく気づけたというかね(笑)。だからこそ今のタイミングだったんだと思います。自分にとっても、こういう曲が作れた意味はすごく大きいです。

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